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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 大陸編・時には外に出てみよう。
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⑮葬送の儀式。

死に戻りの世界に葬式? そんなお話です。



 いつもと違う服装に身を包んだホーリィが、横にレルヒェ・クーヒェン……の外装を纏った恵利を伴い、扉を開けて外に出る。


 「どんなもんだ? 手足の動きはどうだ?」

 「う~ん、何とも言えないなぁ……借り物だってのも有るけど、触った感じが判らない身体なんて経験ないし……」


 魔導人形を依り代として、ホーリィから離れて動いてみる事に成功した恵利だったが、それは決して容易い事ではなかった。


 まず、魔導人形には痛覚が存在しない。勿論同じく触覚も存在しない為、物を掴むのも手袋をしながら触れるのに似ていて、力を入れ過ぎたり滑らせて落としたり、と苦労するのも仕方ないだろう。それらは暫くすれば改善していくらしいが、まずは徐々に慣れていくしかない。



 次の苦労は《武器》で在る事だ。レルヒェ・クーヒェンは戦利品扱いになり、簡単な手続きで晴れてホーリィの所有物になったのだが、何せ元は兵器である。一般的な店でもなかなか簡単には入店出来ず、時には「武器の所持は禁じられている」為、断られる事もあった。


 まぁ、これには【抜け道】も有り、簡単な封印を手足に付けて、もしこれを破ればホーリィも連帯責任で出入り禁止にする、等の交換条件付きで解消出来たのだが。



 因みに下世話な話だが、魔導人形とは人に似せて作られている面もあり、わざわざエネルギー源として《食べ物》を経口摂取したり不便な事も多い。ゲームの世界なのだから、その辺りにリアリティーは無くてもよいのではないか? と恵利は不服に思ったが、肝心な時に動けなくなるよりはホーリィと共に行動し、同じ物を食べれば解消する訳で、考え様によっては便利なのだとも言える。


 こうして恵利はこの世界で、改めて【個】として存在出来るようになり、ふと思い出してゲーム稼働時間が知りたくなり、暫くパーソナルデータを出そうと苦労を重ね、やっとの事でメニューバーを出す事が出来た。



         【real time→3:36】



 (……うん、つまりこの二週間の体験は、実時間なら三時間半って事か……って!? つまり一ヶ月がたったの七時間だっての?……あー、そっか!……初期設定で百倍になってんのか……)


 恵利はそう結論付け、メニューバーを閉じる。その扱い方は至ってシンプルで、ただ頭の中でパーソナルデータを知りたいと想うだけだった。


 (それにしても……)


 恵利はデータ画面を眺めながら、自らが置かれた状況を確認しながら、物思いに(ふけ)る。



 (……このパーソナルデータ、獲得した【貢献度】が半端無い数字になってるなけど、何に使えばいいんだろ?)



         現在の貢献度・【6750ポイント】



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 しとしとと降り始めた雨は、ホーリィと恵利の着た外套の表面を滑り、地面へと吸い込まれていく。まだ卸し立ての外套は艶やかな濡れ羽色。上質な布地は密に編まれて水を良く弾いてくれる。


 「ホーリィさん!! ……ええっと……レルヒェ……さん? おはようございます!」

 「おー、バマツ!!」

 「あ、どうも……おはようございます……」


 通りの端から声が掛かり、同じ外套姿のバマツが人通りの少ない道を駆け足で近付き、ホーリィの元にやって来る。そして、横に並んで歩く恵利に向かって難しい名前を口にしながら、躊躇いがちに挨拶する。


 ホーリィの周辺で数少ない男性のバマツには、何故か恵利はスムーズに話し掛けられず、ぎこちない返答しか出来なかった。


 (……おいエリ、まさかお前、バマツに惚れたか?)

 (……ひっ!? ち、違うわよバカッ!! 自分の立ち位置が判んないだけ!)


 ホーリィに混ぜっ返されて、慌てて否定しながら恵利はホーリィの向こう側で、怪訝な顔のバマツを見る。


 流石はゲームキャラ、見た目は整い言葉も丁寧……その気になればひとかどの活躍も見せる。考えれば考える程、イケメンだし。


 そう思いながら進む恵利を他所に、前回の稼ぎの話になり、二人はあまり差が無かった事を知って憤るホーリィを「戦時じゃないのだから仕方ないでしょう」とバマツが(なだ)めていると、


 「おーい、ホーリィ!!」

 「うわっ!? ホーリィが二人に増えてるっ!?」

 「こ、これは……何と言う事でしょうかぁ!! ……間に挟まれたいですぅ♪」


 セルリィとエキドナ、そして出頭要請に応じて来なかった(そう戦隊長は判断したらしい)為にホーリィとの接触禁止を命ぜられていたアンティカの三人も合流し、集団は一気に騒がしさを増していく。


 眼を潤ませながら恵利に近付き、興奮ぎみに全身を隈無く観察するアンティカに恵利は新たな身の危険を感じつつ、しかし改めて人に触れられる事がこんなにも大事なのだと知る。


 (……痛みも無い世界って、逆に不便なのかもしれないなぁ……それって、ヒトと関わり合う為には必要なモノなんだよな……)


 そう思いつつ、よだれを垂らしながら息を荒げ始めるアンティカをホーリィとバマツが引き離す姿を見つつ、でも行き過ぎはどーかと思うけど……と、結論付けた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「おっ!? そいつが鹵獲した魔導人形か! ……しかし、良く似てるな……」

 「御姉様が二人も……あふん♪ ……あ、そうです! 皆さん、これ渡さなきゃ!! 喪章です!!」


 遅れてやって来たアジとクリシュナが合流し、クリシュナが各自に喪章を手渡して、各々は左の上腕に喪章を着ける。


 揃いの軍装で歩く一同は、周りから会釈されながら通りを歩き、目的地の外縁部に在る広い公園の一角へとやって来た。



 そこは芝生に覆われた広大な敷地を誇る場所で、軍関係以外でも様々な行事が行われる場所でもあったが、今回は宗主国との戦争で復帰出来なかった者達を葬送する為の会場になっていた。


 広い芝生の真ん中に、木枠で囲まれた台の上に、故人が身に付けていたり愛用していた様々な物品が置かれ、彼等の血縁者や知り合いが持ち込んだ衣類や装身具、煙草入れや椅子等の調度品まで雑然と積み上げられていて、それはまるで篝火を焚く薪のように小山と化していた。



 「……お、戦隊長じゃねーか? おーい、ハゲー!!」

 「んぁ? ……ホーリィかッ!? お前は少しは敬いってもんを持てっ!!」


 振り上げられた拳をひらりと避けて、けらけらと笑いながら敬礼しつつ、ホーリィは部隊員の集合を報告し、暫く後に雨の止んだ空の下で式は始まった。



 セルリィを始めとした魔導要員の面々が周囲を囲み、遺族が涙ながらに見守る中、やがて巨大な魔導結印が遺品の山の下に現れて、揃いの詠唱が始まる。



 【……黄昏時の戦士達よ……別れの時は過ぎた……戦神の館にて羽根を休めよ……いずれ訪れる大いなる戦いを迎えるその日まで……《絶世紅蓮(グレート・ファイア)》】


 詠唱の締め括りを迎え、魔導結印から巨大な焔の舌が舐めるように遺品を包み込み、ばちばちと燃え盛りながら煙を上げ始める。



 「……ワタシはな、この集会に参加すっ度に……気合いが入るんだよ……」

 「……うん? ホーリィもそう言うの、あるの?」

 「……ああ、ワタシは絶対に《される側》には成らねぇ、成ってたまるか! ってね……」


 ホーリィと恵利は並びながら離れた場所から葬送の儀式を眺めつつ、立ち昇る煙が上空に棚引く様を見続けた。



 やがて上空に待機していたローレライが、術式で遺品を包む焔に雨を降らせて延焼を止めた時には遺品の山は灰塵と化し、式典は全て終了した。



因みに【復活出来なかった】者達は、肉体が失われた者やシステムエラーのせいで復帰出来なかったキャラ、又は長期ログインが無く退会扱いになったキャラ等です。ではまた次回もお楽しみに!


次回から新章になります!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] まえよりも、かなり描写力がたかくなっているし、最高に妖艶です。 和風なテイストもあり、無駄な表現がなく、かんどうさせられます!!! ストーリー構成は冷静さを大事にできてますね!!!
2019/11/30 15:21 退会済み
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