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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 大陸編・時には外に出てみよう。
39/124

⑭後始末。

連休も後僅か。今回の章も終盤です。



 「ふあああぁ……あ、あ~、はぁぁ! ……さ~て、と……」


 エキドナは、大きな欠伸(あくび)を一つ、そしてゆったりと全身で伸びをしてから、ゆっくりと自室の椅子から立ち上がり、背もたれに掛けておいた白衣を羽織り、廊下に出て暫く進み、一つの扉に手を掛ける。


 《隔離室・許可なき者の入室を禁ず》


 そう記されたプレートをひっくり返し、


 《尋問中・許可なき者の入室を禁ず》


 へと変えてから、中へと滑るように身体を押し込むと、後ろ手で扉を閉めた。





 「……ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、……ふぅ?」


 中に入ると頼り無げに灯るランプに照らされた室内には、頭からすっぽりと麻袋を被せられ、抵抗できないように金属製の椅子へベルトで手足をしっかりと固定された、一人の男が居た。その男の麻袋を手で掴み引き上げると、突然視界が晴れたせいか、彼は一瞬荒げた息を止めた後、ゆっくりと眼を開いてから、不思議そうに周囲を見回していた。


 「はぁ~い? 御気分は如何かしら? 痒い所とか無いですかぁ~?」


 白々しく尋ねながら、エキドナは麻袋を傍らの籠に投げ込んでから、クリップボードに記録用紙を挟み、くるくるとペンを回しつつ尋問を始める。


 「……ふんふん、元宗主国防衛騎士隊長ね……でもまぁ、今じゃ只の(かどわ)かしの主犯格って所かしら?」

 「……今は戦時ではない!! こんな不当な扱いは間違っている!!」

 「……【彼は自らの扱いに不満を感じ、尋問には素直に従わなかった】……っと、こんな感じかしら?」

 「おいッ!! ……聞いているのか!?」


 年齢なりに(やつ)れては居たが、目鼻立ちの整った男(エキドナの好みだったりする)は筋肉の付いた肩に力を入れて、彼女を睨み付けながら声を荒げる。


 「あらあら怖いわぁ……でもね、ここは【物理的に音を通さない】仕組みの部屋なのよ? ……貴方の出方次第では……決して嫌な事なんてしないんだけど……つれないわねぇ?」

 「黙れッ!! さっさとこのベルトを外して…………てッ!?」

 「……お、し、ず、か、に……為さって、下さいませんか……?」


 ぎしっ、と再度椅子を軋ませた男だったが、目の前にのし掛かるように近付いたエキドナの顔を間近に捉え、目線を泳がせてから俯く。


 ……すると、そこには丁度エキドナのはち切れそうな双丘が、白い開襟シャツの狭間から窮屈そうに谷間を覗かせていたので、目のやり場に困り、沈黙してしまう。


 そして、一度意識してしまうと……眼を逸らすのに努力が必要になり、そうなると二人だけで狭い室内に居る事までが、彼を過敏にしていく。それは嗅覚にすら作用し、甘く薫る(じゃ)香にも似た香りが、目の前の彼女の物だと理解した瞬間、男は心臓が脈打つ事を意識せざるを得なかった。


 「ふふふ……ねぇ、()()()()()

 「……ッ!?」

 「図星、だったかしら? 可愛いわね……♪」


 相手の反応に、ちろり、と舌を覗かせながら、エキドナは整った顔に艶然と微笑みを浮かべつつ、準備は整ったと察し、男の眼をしっかりと覗き込みながら、


 「ねぇ……私の仕事、尋問官なんだけど……貴方の協力次第では、お互いに有意義な時間になるんだけど、お話し聞いて頂けるかしら?」

 「……は、話しだと……?」

 「そう! 尋問って、こう見えて大変な仕事なのよ……貴方みたいにお話をキチンと聞いてくださる方なら、私の負担も軽く済んで、あっという間に仕事も終わる訳!! ……そうすれば、私と貴方、二人だけの時間が……確保出来るのよ?」


 男の顎に指先を這わせながら、耳へと手を添えて、囁くように言葉を繋ぐ。その言葉が終わった瞬間、彼の喉が、ぐびり、と鳴る。


 下準備が整ったのを感じ取りながら、エキドナは彼に見えないように、背中に回した手で、自ら調合した香油のアンプルを手の中で折り、男の背中に手を回しながら……知られぬ内に首筋へと塗り付けつつ、




 「そこでね……提案が有って、私の幻術、好きな方を選べるんだけど……どっちがいいかしら?」

 「……はぁ?」

 「あのね? 私とね?……とぉ~っても、楽しい事♪ ……をしながら……答えていく尋問と……物凄ぉ~く、苦しくて辛い思いを疑似体験しながら答えていく尋問と……どっちが……いい?」


 そこまで呟いたエキドナの瞳の中に映る男の表情は、香油から漂う淫靡な香りが精神を麻痺させ次第に弛緩させていき、先程まで維持していたであろう沽券の欠片も見当たらない程に、締まりの無い顔へと変わり果てていた……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「なぁ~、モロゾフじーちゃん……コイツ、直るのか?」

 「……んぁ!? ……そうじゃなぁ、見た目だけなら今すぐ直るぞぃ!」


 カチャカチャと顔面や疑似表皮を外しながら、軽く答えるモロゾフ。彼の手により手際よく解体されたレルヒェ・クークェンの内部が露出した瞬間、ホーリィは怪訝な顔をする。


 「……なぁ、じーちゃん……何でこんなスッカスカなのに、コイツ動いてたの?」

 「はぁ? おめぇは魔導人形が動く仕組みも知らんで殴り合ったんか!?」

 「あぁ、全然判んねっ!! どーでもいいんじゃね?」


 はああああぁ……、と深いため息を吐いた後、おもむろに手にしたレルヒェの顔面の板を振り上げて、


 「こんのぉ、バカちんがぁ~ッ!!!」

 「いたっ!? な、何すんだよじーちゃん!?」


 ぱかっ、と快音を立てながらホーリィの髪留め目掛けて振り下ろしてから、モロゾフはやれやれ……と呟きつつ、


 「おめぇが筋肉バカだってのは知ってたがよ……おめぇ、この()()()()()()()()()()


 確かに複雑な機械の一つも見当たらないレルヒェの胸部の真ん中に、鮮やかな青い宝玉が固定されている。その表面には一切の曇りもなく、言われて眺めるホーリィの顔をくっきりと写しているのだが、


 「……んだよ、これ……高そうな宝玉……かな?」

 「あー、まぁそう言えばそんなもんだがよ……コイツが魔導人形の依り代、【疑似憑依体】って奴だ」

 「ぎじ……判んねーや……イテッ!?」



 ぱかっ、と二度目の快音を響かせながら、モロゾフは仕方なくホーリィに説教を兼ねた教授を始めた。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 ……いーか、魔導人形ってのはな……この青い宝玉に魔力を注ぎ込んで、色んな動きや喋りに反応して【動くように命令しておく】んだよ。


 ……あぁ!? 知らない命令には従わないんじゃねーっかって? 最初は確かにそーだがなぁ、そのうち色々と覚えて自発的に動くようになるんだよ!


 ……ただな、魔力をいっくら注ぎ込んでもよ、人間とそっくりになる訳じゃない。ヒトと接触して、魔力を蓄積していって云々……



 (ねぇねぇ、ホーリィ、コッチに乗り移れないかな?)

 (んぁ? ……さぁなぁ……直ったら、やってみればいーんじゃね?)


 モロゾフじーちゃんの独白を他所に、恵利はホーリィに何となく思い付いて尋ねてみる。




 ……その結果、まだ修理が不完全だった魔導人形が突然動き出し、モロゾフじーちゃんが白眼を剥いて倒れました。その後、何故かホーリィは……じーちゃんにこっぴどく叱られました。


 ……たぶん、とばっちりだ。 


 

結構長くなりましたが、まぁ仕方ない。次回も楽しみに!!

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