⑫勝てばいーんだよっ!!
平成グッバイ!! ウェルカム令和っ!! 全然関係無いけれど、更新します!!
何らかの身体回復が行われているのか、側頭部から微かに蒸気を出しながら暫くじっとしていたが、やがてホーリィの口の動きのみで言葉の内容を理解したのか、少しづつ巨体を縮ませながら、言葉を返した。
「……チェックメイト、か……俺は将棋はやらんが……」
「あぁ? ショーギ? チェックメイトってショーギって奴の技なのか?」
「……もういい、負けた俺に何も言う資格はない……」
ホーリィの足を肩に乗せたまま、仰向けになりながら空を見つつ、元の姿を取り戻した爬人種の男は呟く。
全力で挑み、そして負けた。長き時を経て様々な場を潜り抜けてきた男が最後に負けたのは、年端もいかぬ様な姿の可憐な美少女……に擬態した【悪業淫女】だった。
(俺もヒトに在らぬ異形だが、こやつも立派な異形……しかも数枚上手と来たか。ならば、負けも必然だったのかも知れぬ)
そう思いながら、彼は長く続けてきた禁を破り、ホーリィに向かって首を曲げながら、
「……俺の名は《鎖鉄》……旧き龍の神々に与し、穢れた血を受け継いだ、爬人種の恥晒し者さ……」
そう言うと、観念したのか手足を伸ばしながら弛緩させ、手にした無明刀を手放しながら、空を眺める。
その姿は無惨な敗北者でありながら、全てを悟り堂々としたものも感じられ、ホーリィは無言のまま足を肩から離した。
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「サテツってのか? あんまり聞いた事ねーや……まっ、とりあえず降参したんなら……仕方ねーや……ぶち殺すのだけは勘弁してやんよ……」
【……ホーリィ!! 今すぐ次元門を破壊しなさい!!】
鎖鉄の言葉に耳を傾けて、止めは刺さぬ事にしたホーリィに、周辺を監視していたローレライの警告の声が届き、次元門の方を注視する。
潜り抜ける者が有れば、自動的に二つの門を繋げる仕組みになっているのだが、その次元門の周囲に作動を示す魔力の流れが渦巻き、何かがそこを通過しようとしているのが判る。
ローレライの緊迫した声に身を翻し、次元門へと向かおうとしたホーリィは、門の中から奇妙な物体と、それを運ぶ見慣れない連中の姿を目にし、思わず凝視してしまった。
(……眼を瞑り、口を閉じよ……夢の中をさ迷う姫君に、出会わぬように……)
この界隈では見掛けない小鬼達が口々にそう唱えながら、背にした棺桶を次元門の向こう側から運び込む。
「……何だ、コイツら……眼や口を縫い付けられてやがるぞ!?」
ホーリィは目の前に現れた不気味な集団に眼を奪われる。有る者は眼を、また有る者は口を縫い付けられ、眼が塞がれた者は口を塞がれた者の背に片手を置き、口を塞がれた者は彼等の眼の代わりになりながら、肩に担いだ棺桶を運んで来たのだ。
「コラッ!! ゴミだか何だか知らねぇが持って来るんじゃねえって! アッチに戻れアッチに!! ……あ~気持ち悪いぃ!!」
ホーリィはおどろおどろしい集団に、何となく嫌気に避けながら、しっしっと指先を振って追っ払おうとするが、相手は全く意に介さず……ずんずんと突き進む。
(……気を付けよ気を付けよ……夢見る姫君が目覚めぬように……出会わぬように……)
そう唱えながら、暫くよたよたと進んでいた彼等はホーリィの前へと辿り着き、肩に担いでいた棺桶をばしゃんと乱暴に投げ落とすと、一目散に次元門に向かって戻って行った。
「何なんだよ……ゴミを捨てに来るとか最低だなぁ!! 全く酷い連中だぜ……って、これ、中身出てるじゃね~の……んぅ? 包帯……?」
自分の普段の行いを棚に上げ、憤然としながら壊れて蓋の開きかけた棺桶を覗き込むと、隙間から白い布がはみ出している。中身を見ようと怖々としゃがみ込み、手にした双頭剣の先で蓋を突こうとしたホーリィだったが、
「ソイツから離れろ!! 【悪業淫女】!!」
「ぅひゃいッ!?」
後ろから鎖鉄に激しい口調で警告され、思わず奇声を上げながら飛び上がったホーリィは、ばたんと勢い良く棺桶の蓋が跳ね上げられ、内側から包帯でぐるぐる巻きにされた何かが起き上がって直立するのを目撃する。
【……仕方ないわね……セルリィさん、皆さん! 《艦長代理権限》を発動、更に《重復承認》を要請します!】
「……全く、ホーリィのおバカは何してんのよ……判ったわ、みんな!! 《重復承認》の認可は!?」
「ハイッ!!」「……厄介ねぇ……」「うぇえ……マジで!?」
艦内のセルリィ他の艦内待機魔導班が口々に返答やぼやきを交えながら、手短かに魔導結印を完成させると、ローレライが仕上げとばかりに膨大な魔力を重ね合わせながら、
【《艦長代理権限》を発動します!! 只今より、眼下の廃教会周辺を《重復承認》結界を用いて常界から切り離します!!】
ローレライの宣言と共に、廃教会の周りに六本の光の筋が真っ直ぐ立ち上ぼり、その筋がつっ、と地面へ湾曲しながら先端を地面に下ろし、気付けば頭上にドーム状の六芒星が顕在していく。
そんな光景を余所に、目の前に現れた木乃伊モドキの中身が、内側から布地を切り裂いて自らの姿を顕にしたのだが……
「……なんだ、あれ……縛られて動けないんじゃねーか?」
ホーリィの視線の先には、切り裂いた布地をはらはらと身体から剥がし落としながら現れた、顔と全身を拘束衣でがんじがらめにされたまま、立ち上がる何者かの姿だった。
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「うおっ!? また何か変な奴が出てきた……アンティカさん、アイツ見た事有ります? ……あれ……?」
「……はあぁ……イイわぁ……やっぱり素敵よね……ピッチリとした黒タイツに包まれた可愛いお尻……しかも今回は武骨な革鎧も着てないし!! ああ……捗るわぁ♪」
異質な新手の出現に眼を奪われてしまったバマツが、思わず傍らに居たアンティカに尋ねたが、彼の思惑を全く意識せず、あろうことかホーリィの身体を食い入るように眺めながら、ウットリしつつ頬を上気させていた……どうやら有る種の変質者だったらしい……。
「み、見るとこが違いますよっ!! あっちあっち!! ホーリィさんじゃなくて向こうですってばッ!!」
「……はぁ……あ、ヨダレが……ハイ? 何か仰有いましたかぁ? ……フム、ああ……あれ? 何ですかもう……折角ホーリィさんの麗しき御肢体を眼に焼き付けていましたのにぃ……」
バマツの勢いに圧されて仕方無く視姦を止めて、アンティカは渋々指差す方へと視線を移し、つまらなそうにバマツへと答えた。
「……はぁ、珍しい事はまぁ、珍しいですわねぇ……グロリアス国の【戦術魔導人形】ですね……」
「グロリアス国……って!! 中央大陸東端の列強国じゃないですかっ!? ……しかも……ま、マギィ……タクティ……って、何です?」
「はあぁ……わたくしの大事な時間をそんなつまらない事で……マギィ・タクティクプッぺ、と言うのは……グロリアス国の端所制圧用自立魔導兵器……平たく言えばぁ……」
……と、バマツの疑問に答えながら、ちらちらとホーリィの後ろ姿を捉えつつ……
「グロリアス国のぉ、《ぶん殴りたい奴んとこにおっ放り投げる》人形の名前で御座いますわぁ……はあぁ……♪」
ただひたすらに、厄介としか言い様の無い事を呆れる程に軽く言いながら、ねっちょりとした熱い視線をキュートなお尻に向けるのでした……。
なぜ一日二回更新かって? ただの便乗です! それでは次回もお楽しみに♪