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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 大陸編・時には外に出てみよう。
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⑨着替えは何処で?

ある意味説明回です。



 「……あら? ……でね? 私ったら慌て者だから、つい降着前に飛び出しちゃって……随分と手前から歩いてきて……」


 アンティカと名乗るその吸血種(バンピール)の女性は、剣が刺さっている事も意に介さぬまま、一滴の血も流さずバマツを相手に平然と話し続けていた。


 唖然とするバマツはもとより、背後から剣を突き刺している筈の男ですら、我が手と眼を疑う状況に喫驚していた。


 「それでねぇ? やっと辿り着いて……ねぇ、聞いてますかぁ?」


 落ち着き払った口調は変わらず、バマツに向かって首を傾げながらアンティカは少しだけ目線を辿り、彼の目線が自らの豊かな胸元へ注がれている事に気付いて、やっと事態を把握したのか……


 「まぁ……♪ バマツさんもやはり()()()()()()ですことで! ……でも、何も恥ずかしがる事は御座いませんわよぉ?」


 ……全く理解しては居ないようでした。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……いや! そうじゃないですよ!? それ、大丈夫なんですか!? ……なぁ!?」

 「……そ、そうだ!! 何で刺されて平然としてんだよっ!?」


 バマツと敵は暫し沈黙していたが、まるで同志のように頷き合いながら彼女を指差し互いに確認し合ったのだが……



 「……はて、私の胸が一体……あらっ! ……これは大変ですっ!! 見事に一撃で貫通していますねぇ……折角のお揃いの服が……ああ、残念……」


 アンティカはまるで大事な衣服に虫食い穴でも見つけたかのように、胸元の穴付近を摘まみ上げて指を通しつつ呟いたので、そのあまりにも悲しげな様子に刺した筈の男の方も段々と悪い事したか? と言いたげな困惑の表情になり……


 「……でもまぁ、仕方ないですわね。……今はまず、ホーリィさんと合流して……ん? これは……」


 そんな彼女は新たに何かに気付いたのか、足元を凝視し、その視線の先に自らの唇から滴り落ちた血が、ぱた……ぱた……と小さく、そして丸く広がるのを見つけて、




 「……あ、血……これ、もしかして、私の……血?」


 ……アンティカの先程までの柔らかな雰囲気は消え去り、目を細めてゆらゆらと身体を揺らしながら、地面に手を差し伸べる。


 その拍子にずるり、と背中から剣が引き抜けて、自由になった上半身が倒れ込むように屈むと、血の跡に指先を伸ばし……



 「……あ、あはは……血だわ……これ、私の……血? ……うん、唇から、血も出てるわね……」


 すっ、と指先に血を付け口許に運び、ぺろりと舌で舐め取る。まるでテイスティングするように眼を閉じて暫く押し黙り、やがて眼を開き、


 「……久々に……血の味を……ふ、ふふふ……はぁ……味わいたいわァ……ネェ?」


 くるりと振り向き、剣を手にして固まっていた男に近付くと、そっと頬に手を伸ばす。表情を失った顔は美しさとは裏腹に、堅く閉ざされた白い仮面のようだったが、



 「それじゃ、頂いちゃおうかしらね……♪」


 そう言って微笑みながら口を開き、長く伸びた犬歯を光らせる。それと同時に目の前の男の首を万力のような力で一気に締め上げる。全く抵抗させる間も無く相手の頸椎は容易く外れ、ぐぎり、と生々しい音を立てた。


 そうしてバマツの目の前で、大の男を片手で容易く絞め殺したアンティカは、まるで(ほうき)でも振り回すかのように軽々と手繰り寄せ、かぱりと口を拡げて縊死者の首に牙を立てた。



 ……ばちゅっ、ぼきっ、ずる……ごくっ……ごくっ……


 骨を噛み砕き、肉を食い千切りながら喉を鳴らして咀嚼と嚥下を繰り返し、あっと言う間に男から血を吸い出して、アンティカは無造作に投げ捨てた。その遺体は何処と無く縮み、皺が目立ち肌も土気色になっていた。



 「……久々に……男の血を頂きましたねぇ……あぁ……中途半端に味わうと、逆に(かつ)えてしまうから……困るのよねぇ……ッ!!」


 そう言うと、バマツの姿も目に入らないのか、すんすんと鼻を鳴らしながら空気を嗅ぎ、やがてパッと表情を明るく変化させると一跳びで馬車の上へと跳躍し、


 「バマツさん、ちょっと宜しいかしら? 私……これから【狩り】をしてきます故、ホーリィさんが居らしたら、暫し待って貰うように言付けを、お願い出来ますかぁ?」

 「……は、はいっ!? えぇ、そう言っておきます!」


 咄嗟に答えたバマツに嬉しそうに微笑みかけてから、チュッ♪ と投げキッスをし、ふわりと髪を靡かせながら……アンティカはその場から姿を消してしまった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……あー、驚いた!! まさか《純血種》の吸血種(バンピール)が居るなんて……しかも身内なんて!!」

 「えっ!? パフィも知らなかったの?」

 「うん! だって、私とバマツが契約したのはつい最近よ? それより前の事は私も詳しくは知らないもん……」


 いつの間にか隠れていたのか、アンティカが姿を消すとバマツの背中から顔を覗かせたパフィが、彼の肩に頬杖を突きながら驚いたように話す。


 バマツもあんな獰猛な者がホーリィ以外に居たとは知らず、身内とは言え狂暴な怪物と至近距離で居た事に、今になって急に寒気を覚えた。



 しかし……とにかく自分は無事である。これは一刻も早くホーリィと合流し、身を守る方策を練らないと折角拾った命を失い兼ねない、そう思いながらその場を後にした。




 ……だが、意外と偶然は重なる物なのか、その場から立ち去ろうとして馬車の陰から身を乗り出した瞬間、目の前に背丈の低い人物が不意に現れ、彼の前に立ち塞がった。


 「おっ!? バマツ無事だったかぁ?」

 「ホーリィさん!! ……って、それ……何ですか?」


 お互いに尋ね合う二人だったが、ホーリィは急いでいるらしく、手にした黒い布を拡げてバマツに押し付けて、


 「悪ぃ!! 今は悠長に話してる暇はねぇ!! それ持ってろ!」


 矢継ぎ早にそう告げながら、忙しなく手を動かして上着のボタンを外し、ブラジャーだけになり、バマツが思わず背中を向ける間もなくスカートのホックを外してそれすらも脱ぎ始め……


 「ホーリィさん!! いきなり何で裸になってるんですかッ!?」

 「あぁ!? 着替えだよ、着替えッ!! ソイツに早く着替えてクリシュナに加勢しなきゃなんねぇんだよッ!!」


 相変わらず相手の都合も考えず、ポンポンと躊躇わずに服を脱ぎ、背中越しにバマツから愛用の黒い衣服を受け取ると、足元から順繰りに手繰り上げていき、首元までピッチリとした黒い全身タイツ姿へと着替え終えた。


 「……さて、これでよし! でも、まだ魔力が足らねぇなぁ……お前から魔力を吸い上げられりゃ、事が早く済むが……身内からは奪えねぇからなぁ……?」

 「む、無茶言わないで下さいよ!? 俺から魔力だなんて……」

 「……あら? ホーリィさん! やっと会えましたぁ♪」

 「んっ!? アンティカ、お前今まで何処に行ってたんだよ!! ずーっと召集されても来ねぇから、どっかで勝手にくたばっちまってたのかと思ってたぜぇ!?」


 バマツはホーリィの非常識な要求に狼狽えていたが、丁度その場に戻って来たアンティカが現れると、ホーリィは彼女に向かって問い掛けながら、一瞬だけ躊躇しつつ、


 「……まぁ、それはいいんだがよ……アンティカ、悪ぃんだが……魔力をちっとばかり……寄越してくんねぇかな?」


 口調は濁らせながら、しかし命を啜る夫婦の魔剣はしっかり抜き放ち、アンティカの反応を窺うのだが……


 「あらぁ♪ ホーリィさんがおねだりするなんて……宜しくてよぉ?」


 まるで幼子に乳をせがまれたかのように呆気なく応じると、自らの胸の谷間を遠慮無く晒け出し、眼で促すのである。


 「おぅ! 話が早くて助かるぜぃ!! それじゃ、()()()()()()()

 「宜しくてよ♪…………ッ!!……ああああああああぁっ♪ き、来たァ……ホーリィさんの……硬くて……【フシダラ】なのがァ……入って……くルゥッ……ッ♪」


 ……ずん、と容赦無くアンティカの鎖骨の間に、【フシダラ】を突き刺すホーリィ。やはり血は一滴も零れないのだが、【フシダラ】の鍔に施された鋭い牙の並ぶ顎を模した、手元の飾りからはみ出す《舌》が、ちろちろと目に見えぬ魔力を舐め取っているのだろうか……ただ、その舌の動きはややぎこちなく、明らかに嫌そうであったが……



 「はあぁ……少しでいいです……少しで構わないので……動かして……うぅんッ!!……あぁ、【フシダラ】がァ……私の中を……ひっ!? ひぅん……引っ掻き回すのォ♪ あっ!! ……す、凄いィ……直接……は……いひぃ~ッ♪」

 「……だから、やりたくねぇんだけど……」

 「……あの、なんでアンティカさんには普通に使えるんですか?」


 二人のやり取りを見ていたバマツが、至極全うな事を尋ねる。身内同士は傷付け合う事は禁忌とされ、仲間内での決闘すら事前の申し込みと許可が必要とされているにも関わらず、アンティカは《敵に行える吸精効果》とやらを遺憾無く、そして容赦無く発揮されているのである。


 「……あぁ、こいつは随分と前に恭順テイムしたんだがよ、まだ制度が出来る前だったからか……今でも【敵】として扱われてるんだ……」

 「ええぇっ!? じ、じゃあ……アンティカさんって、頭の中は身内なのに、身の置かれ様は今も【敵】扱いなんですか……」


 激しく悶えながら、嬉々として魔力を分け与えるアンティカの恥態に辟易としつつ、バマツは謎多き身内のアンティカを【厄介なヒト】として見る事に決めた。





 …………そして、数十回は悶え達したアンティカは、瞳を潤ませながらぐったりと横たわり、脚を淫らに拡げて震わせつつ……しかし幸せそうに微笑みながら、ゆっくりと眼を閉じて、失神した。

 

さて、そんな感じでホーリィさんは着替えてクリシュナさんと合流したのです。魔力補充完了!! ではまた次回もお楽しみに!

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