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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 大陸編・時には外に出てみよう。
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⑧バマツともう一人。

今回はバマツさんが主役……ですが?



 ホーリィと爬人種リザードマンの死闘が始まる前、廃教会の片隅でバマツは自分自身に活を入れていた。


 思う所が有って自由兵として戦場に赴いた彼である。剣を握り締めて越した夜を数えれば、同じ年の徴用兵と比べても腕は確かだと自認してきたのだが……


 ……肩を並べる連中が余りにも規格外過ぎて、自らとの格差を痛感してきたのだ。特に隊長格のホーリィは、その見た目とは全く違い、魔導強化に依る魔神も平伏す程の強さを誇っていた。



 (……知ってるよ……でも、それでも……やるときゃやらないと……なぁ?)



 ……だからこそ、彼は彼なりに、自らの境遇に妥協せず、戦いを生き抜こうとしていたのだ。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 ざっと見回して、馬車で搬送されて(縛られて荷物扱いだったが)移動する間に、徒歩で後から集合地点に向かう者は全体の八割位だろうか。


 残りは馬車に伴走する騎馬が三騎、馬車に乗り込んだ奴(人外の剣客)と自分に付いた見張りが二人……つまり、この連中を何とかすれば、後続を待ち伏せ出来る。


 (……さて、まずは見張りの数が一人になったら……始めるか?)


 縛られたまま顔を伏せながら様子を窺い、見張りの一人が馬車から降りて先に降りた奴等と話し合う隙を突き、行動を開始した。


 ……コキ、と手首を鳴らし……縄の締め元よりも細くして……ゆっくりと動かしながら、引き抜く。元スカウトとして様々な状況を生き抜いてきたバマツにとって、縄脱けは準備運動にもならなかった。


 続いて縄の端を持ち、傍らで仲間の会話に聞き耳を立てていた見張りの様子を窺い、どうやら自分から視線を外していると確信し、しかし安全策を講じた。



 (パフィ……?)(……ハイハイ、囮になれって言うんでしょ?)


 【剣の妖精】のパフィを呼び出し、自分の身体で死角を作り、陰にパフィを入れながら手短に指示を出す。


 (そうだな……とにかく気を引いて貰えればいいよ)(……判ったわよ……待ってて……)


 フッ、と光を潜めながらユラユラと漂うように相手の頭上へと上がってから……




 「……退屈そうにしちゃって……ねぇ? ……私と遊ばないぃ?」


 ……言われた通りに()()()()()()()()


 「うぉっ!? な、何だ? ……妖精……ッ!? 【剣の妖精】だと……ッ!?」


 不意に目の前に降りてきて、頭の後ろで手を組み足を突き出しながら見張りを誘惑しようとするパフィに、見張りとバマツは確かに気を逸らされる。


 ……だが、目の前の妖精が只の気紛れな徘徊者とは違い、パートナーを持つ歴とした《戦闘用員》だと気付いた見張りの背後に、バマツは音も無く移動し手にした縄を見張りの首へと巻き付け、払い越しのように背中に載せてしゃがみ込み、手を捻り一気に頸動脈を締め上げる。


 そのまま暫く背中越しに抵抗しようとしていた相手が、手を縄に掛けながら次第に全身を弛緩させていき、やがてぐったりと彼の背中に沈み込む。



 「……あのなぁ、確かに気を引けとは言ったが……誘惑しろなんて言った覚えはないぜ?」

 「あらそう? ……()()()()()()()()()()()()、その通りにしたんだけど?」


 まさか誘惑するとは思わず、苦笑しながらパフィに問い質すも相手はあっけらかんと答え、(それで何が悪いの?)と言わんばかりの態度だった。


 「まぁ、細かい事はいいか……おっ? 良い物があるじゃねぇか……♪」


 彼女とそんなやり取りをしつつ、バマツは敵の馬が繋がれている場所へと移動したが、騎馬には一組の弓と矢立てが鞍に掛けられたままだった。


 急ぎつつ弓矢を確かめると、矢は十本程だったが充分な数だろう。それに弓も馬上用の短弓ではなく、弓兵が扱う射程の長い物だったので、バマツはそれを手に取ると急いで馬車の近くへと戻る。


 「よっ……こらせぃ……っと。さて……」

 「ねぇねぇ!! 誰から狙うの!?」


 何故かワクワクした口調でパフィに苦笑しつつ、バマツは一本の矢を手にし、曲射を狙う。風向きを考慮し、通常なら当てられない遮蔽物越しを狙い……




 ……ビュン、と弓が鳴り、空に向かって放たれた矢は瞬く間に目標へと流れて行き……そして、


 「……ぐっ!? ど……こ……か…………」


 矢は誤らず賊の一人の首筋へと吸い込まれるように飛び、深々と(やじり)を身に受けた男は苦悶の表情を浮かべながら、倒れる。


 「や、やるじゃん!! 何で戦場で使わないのっ!?」

 「……ん? だってローレライの連中と一緒じゃ使い所が無いし……支援魔導があるから……っと!!」


 浮かれるパフィに尋ねられ、素直に返すバマツだったが仲間の異変に気付いて近寄るもう一人を目敏(めざと)く発見し、今度は遮蔽物から身を出して直接狙い、


 ……ビュン、と二本の矢が放たれて、男の肩と腹に突き立ち、こちらも致命傷だったか同様に犠牲者の仲間入りを果たす。


 「凄い凄いっ!! 器用なんてモンじゃないよっ!!」

 「バカっ!! 声が大きいっての!!」


 興奮したパフィが騒ぎ立て、慌てて掴み隠れようとしたが、残りの一人が手近に置かれた盾を手に取りながら、慎重に遮蔽物を利用しながら近付いて来た。


 「……剣が無いから、弓だけで何とかしたかったのに……」

 「……ご、ゴメンなさいぃ……」


 さっきまでの勢いが嘘のように萎れるパフィを解放し、バマツは覚悟を決める。弓も振り回せば倒せないまでも、身を守る事は出来るかもしれない……そう考えながら、ふと……自らの傍に、奇妙な気配を察して横を見ると……?




 ……そこにはフワリとした金髪の見知らぬ女性がしゃがみ込み、バマツの横顔を不思議そうに眺めていた。全身をホーリィのようなピッタリとした真っ赤な衣服に包み込み、しかし官能的な体形と、そして脚線美を見せ付けるようにしながら……


 「……あら? やっと気付いてくれましたぁ? バマツ君♪」

 「ええぇっ!? ……あの、その……どちら様?」


 思わず尋ねるバマツに、おっとりとした調子で首を傾げながら、フフフ……♪と楽しげに笑いながら、


 「あー、初めまして……かなぁ? 私はアンティカ……ローレライとホーリィに取り憑いた……吸血種バンピール……って、ところかしらぁ?」


 口許に手を当てながら、楽しげに答えるアンティカは、さて……と呟きながら立ち上がり、


 「……それじゃ、たまには働きましょうかねぇ? ホーリィじゃないけど、私も一応……前線要員だから……♪」


 腰に手を当てながら、身を捻って後ろを振り返り、バマツに向かって蠱惑的な視線を投げ掛ける。ニヤリと笑い、吊り上がったアンティカの深紅の唇からは、尖った二本の犬歯が飛び出して……彼女の正体をハッキリと物語っていた。



 ……が、不意に彼女の胸元から、鋭い剣の切っ先が飛び出し、美しい唇から血が流れて、敵の一撃を受けた事を伝えたのだ……。



そんな感じですが、次回もお楽しみに!!

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