⑥真打ち登場。
遅くなりました。投稿します!!
「……なぁ、アンタら……生意気な小娘に意趣返ししたくねーのかぁ!?」
グッ、と握り締めた拳を前に突き出しながら、ホーリィは前に立つ三人の男に向かってあからさまな挑発をする。
彼らは一様に体躯に優れ、どう見ても負ける要素の見当たらない筈なのに……彼女の挑発に乗らず、武器を手にしたまま動かなかった。
(まぁ、あんなモノ見せられたら、誰だって慎重になるわな……)
ホーリィが両手の拳で弾き飛ばした憐れな犠牲者は、停まっていた馬車へと派手に激突し、五体満足には程遠い格好で横たわり身動き一つしていない。
(う~ん、少し薬が効き過ぎたか? 宗主国の残党にしては妙な統率を感じるけど……此処までお利口さんだったとはねぇ……)
と、僅かな時間を費やした後、彼女は決断したのだ。
「……と、言う訳で、答えがなかったから皆殺しにするぜぇっ!!!」
……と、吠えて……。
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やや煤けてしまったとはいえ、純白のブラウスとフリルの多目なスカート、そして艶やかな黒髪を靡かせながら歩く姿は正に清楚な美少女の見た目だが……
「来ねぇんかぁ~ッ!? この種無し野郎共がぁッ!!」
眉間に皺を寄せ、足元から魔導の光彩を放ちながら、下品な物言いと共に駆け出し、最初の犠牲者へと到達した。
相手は無論、魔導強化で常人の域を遥かに凌駕したホーリィと一対一で立ち向かおうとは考えはしていなかった。出来れば複数で包囲するか、最悪でも前後からの挟み討ちで臨めなければ即時撤退するべき、だろうと。
だが、状況は更に最悪の事態へと移行していたのだ。
……それが、ホーリィの突貫であった。
「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ~♪」
その桃色の艶やかな唇からは、信じられない程の狂気と殺意に満ち溢れた笑い声と共に、ホーリィは殴りかかる。
「くそっ!! ち、近寄るんじゃねえっ!! ……ぐっ!?」
咄嗟に手にしていた片手剣を両手持ちにし、下から掬い上げるように振り上げたが、それをグローブ越しの右手掌底で弾き、突き出した左の拳を右手へと叩き込む。
鋭利な暗器の尖端が甲に突き刺さり、硬質化したグローブの拳が骨を叩き砕く。ベキッ、と鈍い音を立てて右手が使い物にならなくなった相手は苦痛に顔を歪めながらも、左手で掴んでいお陰で辛くも剣を落とさなかったが、それが彼に出来た最後の抵抗でしかなかった。
「遅いぜぇッ!! 殴り放題じゃん!?」
手から滴る血が足元に落ちるより早く、がら空きになった男の顎を真下からホーリィの拳が捉え、畳み掛けるように左右の連打が顔面に吸い込まれていく!!
「あがっ!? まっ……ぐっ……、……」
その拳は一撃毎に男の命を削り取り、返り血がピッ、とホーリィの頬へ飛び散る中、白眼を剥いて前に倒れる男を尻目に、ホーリィは新しい犠牲者を探そうと身体を回す途中で(ホーリィッ!! 後ろッ!!)(……ッ!?)
恵利の警告と同時に、背後からの気配を察知するよりも早く前転するように跳び、肩から降りつつ受け身を兼ね斜めに転がってから、更に後転へと変化。
彼女の動きを追うように、幾度も剣の煌めきが通過するが、その連斬はホーリィを捉える事は出来なかった。
「くそっ!!……背中に目玉が付いてるのか……?」
油断なく距離を取りながら、肩口まで鍔を引き付け突きの体勢のまま、取り逃がしたホーリィの動きに驚嘆する新しい相手だったが、即座に退いていたならば……彼は命を落とさずに済んだかもしれない。
「……あっぶなかったぁ~!! エリのお陰で命拾いしたぜ……」
(うん……ホーリィが斬られたら、私だって痛いんだし……お互い様じゃない?)
「でもよ、何で判っ……たぁっ!! ……んだよっと!!」
続けて振り続けられるが、鼻先、胸元、そして鳩尾を掠める切っ先をギリギリで避け、最後の一突きを逸らす……と見せかけて、その剣を左手でガッチリと掴み、ニヤリと笑う。
「なっ!? は、放せこの小娘ッ!!」
「バ~カ!! 放せと言われて放す奴が居るかっての!」
突いても引いてもホーリィの手はピクリとも動かず、やがて相手はムキになって両手で柄を握り締めたまま、振り回して外そうと力を籠め直したのだが、どうしても彼女を引き離すことは出来ない。
だが、その動きが手元に引き付ける動きへと切り替わった瞬間、ホーリィは逆らわずに手繰り寄せられながら、力強く跳躍。
その意表を突く動きに体勢を崩されて、相手がたたらを踏んだ瞬間、束ねた髪の毛を振り上げて後ろに回したホーリィが、か弱い小動物ならば即座に失神しかねない程の眼力で男の眼を射抜きながら……
「……歯ぁ、食い縛りやがれぇ……ッ!!!!!!」
がごっ!! と鈍く響く、骨と骨とがぶつかり合う音が鳴り、続けて起こる身の毛もよだつような……耳を塞ぎたくなる程の生理的嫌悪感を巻き起こす雑音……。
激しい言葉の後、ホーリィが為したのは後頭部が背中に着くかと思う程、柔軟な身体を駆使して溜め込んだ力を漲せた頭突き……しかも、額の頑強な髪留めを着けた状態のまま、狙い澄まして叩き付けたのは下顎の先端……俗に言う脳震盪を起こし易い箇所ではあるが、彼女の強化された筋力と女性特有の柔軟性、そして……鉢当て並みの強度を誇る髪留めが引き起こした効果は、見る者全てを戦慄させる程だった。
ホーリィの鉢当てが斜めに弧を描きながら男の顎の先端に激突した瞬間、激しい破砕音と共に血飛沫が舞い、裂けた顎から白い骨片が垣間見え……瞬時に意識を失った男が倒れるまでの僅かな時間に……正確且つ無慈悲な打撃が左右からこめかみ、喉の側面、そして……顔面を次々と捉え続け……
「うりゃっ!! 一丁あがりぃ~ッ!!」
ホーリィがドンッ、と振りの小さな前蹴りで相手を蹴り、後ろに向かって後頭部から倒れたが……その男の顔面は、眼も鼻も唇も……判別出来ない程に破壊され尽くされていたのだ。
凶賊が討ち倒される中……その場を支配したのは……重い沈黙だった。空気が凍り付いたかのように、ホーリィ以外は誰も言葉を発せず、しかし積極的に参戦しようとして、動く者も現れなかった。
……だが、ホーリィが足元に転がる相手を一瞥し、グローブをミチッ、と鳴かせながら握り締めつつ周囲を睥睨する中、空気が動いた。
「……小娘、お前が噂の【悪業淫女】だったとはな……」
ゆらり、と陽炎が立つかのように、細いながらも一際大きな男が彼女の前に姿を晒した。どこから現れたのか、ホーリィも判らなかった程……無音、そして気配の欠片も感じられなかったのだが、確かに爬人種の男はそこに立ち塞がり、
「……尋問はせぬ……お前は、危険過ぎる……」
腰に交差して提げた【無明刀・霧裂き】を抜き、眼を細めて目の前のホーリィに向かって構えを取った。
書き上げて読み返し、誤字脱字を正しながら……何となく、最後に到達して……ゾクッとしちゃいましたよ、何となく。ではまた次回をお楽しみに!!