⑤拳で語れや!
日曜日に更新したほうがいいかな? と思いつつ、予約更新ですがお送り致します。
「うんうん、悪くない悪くないねぇ♪」
嬉しそうに(何が嬉しいのか)手を開閉させながら、拳の馴染みを確認するホーリィ。見た目は指抜きの手袋だが、黒く膨らんだ護手にも見えるそれをいとおしげに眺めながら、彼女は悪そうな笑みを浮かべ、長いスカートの端を手の甲でバサリと弾いてから、
「……さて、それじゃ……そろそろ使い心地を試してみるか……な?」
扇情的に胸元を開いた白いブラウスと、対称的に長く清楚なスカートをはためかせながら、足を大胆に振り上げて膝を曲げ、構えを取る。
「な、何だお前……や、やる気なのかっ!?」
驚き狼狽えながら、目の前の虫も殺せないような見た目の少女から発する、狂気を孕んだ殺気を身体に感じながら、猛獣の檻に放り込まれたような緊張感に思わず剣を抜く賊だったが、悪い事に彼等は仲間から離れた場所に居て、異常を知らせるだけの時間はなかった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「……それじゃ、【お楽しみの時間】って事で……いくぜぃっ!!」
バサバサとスカートが舞い上がる程の魔導発動の魔風がホーリィから放出し、獣の咆哮にも似た風鳴りが辺りに響く。
「ま、魔導だと!? お前、化けてやがったな!!」
賊は完全に気後れしていたが、余りの変容振りに堪えきれず剣を振り上げてホーリィへと斬りかかる。彼女の構えから蹴りや拳で戦う事は容易に理解し、その範囲外からの攻撃ならば、負ける事など有り得ない、その判断は間違ってはいなかったが……
「……いいいいいぃぃいえええぇーーーぇいっ!!! 【身体強化】【身体強化】【身体強化】【身体強化】【身体安定】ぃ!!!!!」
「はあぁっ!? くっ、くそぉっ!!」
僅かな距離を一気に踏み越して、剣を振り下ろした賊だったが、そんな僅かな時間にも関わらず、瞬時に強化の魔導を重ね掛けし、無色の魔導の波動を一気に真っ赤に染めながら、ホーリィは身体の厚みを倍加させる。
か細かった腕はしなやかさを保ちながらブラウスの限界まで膨らみ、広がる肩幅に合わせて胸元も更に広がり、ぷちんとボタンが一つ弾け飛ぶ。
「かっはぁ……あぁ……いーね、いーねぇ♪ 血潮が巡る感じ……ああ、イッちまいそう……♪」
陶酔としながらも、しかし目線は賊の振り下ろす剣から離さず、ギリギリまで引き付けて避けず……
「っおらああああぁっ!!」
甲高い雄叫びと共に、左の黒い拳を内側から外へと回し振り、裏拳を剣の峰へと叩き付け、一瞬で賊の左側面へと回り込む。
「ぐぅっ!? な、何だコイツ……っ!?」
賊は手に伝わる硬質感と共に、まるで丸太でも叩き付けられたかのような重々しい痺れを握り締めた手に感じ、目の前から側面へと滑るように移動したホーリィの身のこなしにぞくり、と背筋を凍らせる。
腰の位置よりも低く右の拳を引き絞り、左手を開きながら顔の前へと構えたホーリィ。その身体から更に強烈な殺気を発しながら、ぎりり……と歯を噛み締めて、
「………………全開ィッ、だっぜぇッ!!!」
……まるで、引き絞られた弓から放たれた矢の如く、全身の体重を全て乗せた渾身の拳が、黒い弾丸の勢いそのままに、賊の脇腹へと放たれた!!
ぎゅっ、と握り締められた拳が男の脇腹に突き刺さり、身体をくの字に折り曲げたまま宙に浮き、余りの激痛に意識が飛ぶ。
……しかし、ホーリィの体躯では派手に男を吹き飛ばせる訳ではなく、側面からの横の動きだけでは完全に相手を無力化させられはしない。ただ、不意討ちで瞬間的な隙を産み出すのみ。
だが、彼女はそんな事は百も承知。側面からのレバーブロー(勿論そんな単語は知り得ないが)はあくまで準備段階……
「……はあああああぁッ!!! ふ、き、飛べぇーッ!!!!!」
両手を引き絞り、全身の筋肉をバネのように縮めながら、ありったけの力を全て両手の平へと集めるかのように構え、勢い良くがら空きになった男の鳩尾へと叩き付け、一気に開放させるッ!!
ドズンッ、と重々しく鈍い音を上げながら、【身体安定】の影響で全ての力を効率的に伝導されたホーリィの両拳が、賊の身体を完全に捉えて捻り込まれ、意識を失った男の身体が馬車の後方まで吹き飛ばされて、派手な音を立てて激突する。
「……な、なんだ!? こ、これは……」
「くそっ!? 娘は……?」
辺りに居た賊の声が響く中、ホーリィは地に落ちていたコルセットを手に取ると、中から暗器の数々を抜き取ると、その中から後端にネジ切りされた物を摘まみ上げ、拳の穴に回し入れて固定し、凶悪な武具へと変貌させていく。
「……さて、【魔力注入】……おっ? 成る程ね……魔力を流すと固まるって寸法かよ……凝った嵩増しパッドだなぁ! さっきまでは触るとフニャフニャだったのに……何だか卑猥じゃねーの?」
要らぬ感想を述べながら、各々に指と同じ長さの五本の暗器を取り付け、凶悪な凶器に変えられた手袋を眺めながら、ホーリィは集まり出した凶賊を一瞥し、
「それじゃ、第二回の始まりかな?……の、前に邪魔くせぇコイツは……」
連行された時とは全く異なる、【悪業淫女】に相応しい表情を浮かべたホーリィは、頭のカチューシャを外し、煩わしそうに金髪のカツラを放り投げながら、
「……ほ~らよっ!! もう用済みだっての……しっかしお前らもバカだよなぁ♪ 眉毛は染められなかったから、黒くて妙だって思わなかったのかよ……」
言われてみれば、眉と同じ色の艶やかな黒髪を晒け出し、正体を現すホーリィの姿に言葉を無くす男達に、
「……まぁ、そんな事ぁ、どーでもいいか……お前ら、こんな小娘に手玉に取られていーのかい? 暫くすれば、おっかない身内が此処に押し寄せてくるがよ、それまでにワタシをボコって組み伏せられりゃ……」
長いスカートを捲り上げて、真っ白な脚の下に穿いたズロースを、煩わしそうに巻き上げて生足を露出させながら、扇情的に手招きし、
「……なぁ、好きにしたって構わねぇぜ? 男だらけで、さぞかし……溜まってるだろうからさ……♪」
唇を舌で舐め、眼を細めながら男達を……挑発した。
次回は書けたら日曜深夜、無理だったら月曜日以降になります。