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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第三章 大陸編・時には外に出てみよう。
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④化けの皮。

さーて、お待たせ致しました。ホーリィさんが何時までも大人しく出来る訳はありません!



 ホーリィは【次元門】を見た瞬間、ほぼ全ての疑問に解答を得られたのだが、それ自体は何一つ打開策に繋がらなかった。


 (【次元門】が出てきたとなりゃ……只の恨みの線は無いか……後は……ッ!?)


 馬車から遅れて降り立った爬人種(リザードマン)の男が近付く気配を察し、ひとまず視線は離し、そのまま恵利へと委ねて沈下するつもりだったが、そんな彼女の思惑を余所に、その男はホーリィの前へと立ち、


 「……娘、お前は()()が何か……判っているのか?」


 冷徹な口調で伝えると、視線を動かす事無く問い質してきたのだ。明らかに此方の反応を見極めて対応しようとする、意図的な行動だと判る……だが、恵利は……


 「……ふぁ? ごめんなさい……ボーッとしてましたぁ!……何でしょうか?」


 胸元を強調するような嵩増しコルセットの下で指先を組み、クルリと身を回してスカートを柔らかく広げてから、フンワリと微笑み、穏やかな口調で切り返したのである。


 「……んぅ? ……ああ、そうか……まぁいい……」


 余りの豹変振りに面食らったのか、短くそれだけ返答すると、爬人種の男は暫く困ったようにホーリィを見つめてから、馭者台の仲間に声を掛けた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 (……ヤバかったなぁ、済まねぇエリ!)

 (いや、私の方だって冷や汗もんだったわよ……まさか、あんな風に言ったらスルーされるなんて、意外よね、ホント……)


 ヒヤヒヤしながらも二人は何とか窮地を脱し、ホーリィは彼女から離れていく爬人種以外の凶賊を数え、半数が未だ到着していない事を確認し……行動を始めた。


 馬車の陰に入り、しゃがみ込みながら周囲を窺い、彼女の姿を見る者は居ない事を確信し、ホーリィは【奥の手】を実行する。


 「パルムッ!! 悪いけど一仕事お願いすっぞ!!」

 《……ふわぁあぁ……なぁに、ホーリィ?……今は貢献度の加算も何も起きてないけど……って、きゃあっ!?》


 ホーリィは何を思ったか、突然呼び出され眠たげにフワフワと漂っていた【剣の妖精】のパルムを片手で鷲掴みにしたかと思えば……



 ……パルムのおでこを額に押し宛てて、自らの魔力を彼女に注ぎ込んだ!!


 《ひいいいいいいあぁぁああああああああああああ~っ!?》

 「……ふぅ。……ゴメン、パルム!! ……説明すんのは後回しで悪ぃけど、グランマの所までひとっ翔びして貰えねぇか?」

 《……い、いきなり何をって…………あれぇっ!? わ、私の身体……ちょっと大きくなってるぅ!?》


 先程までは、人の頭とほぼ同じ程度の小さな妖精然とした姿のパルムだったが、今の彼女は小さな子供位まで大きくなり、背中の羽根も頼り無い羽虫のような半透明ではなく、鳥を彷彿させる程の大きさと力強さを備えていた。


 《まぁ、いっか!! それじゃホーリィ、艦長代理に会ったらどうしたらいいの?》

 「いや、ワタシの剣さえ有れば何とかなりそうだから……とにかく急いでくれ!」

 《りょーっかい!! それじゃ、行ってくるね!!》


 何時もならフワフワと漂うように浮かび上がるパルムが、バサッと一羽ばたきしただけでホーリィの頭上を軽々と越し、そのまま直線的に滑空へと移行しながらグングン加速して、あっという間に視界から消えていった。



 「ふぅ……まず、これで居場所は伝えられるだろうさ……次は……ひと暴れすっか……」


 しゃがんで砂の付いたお尻の辺りをパンパンと叩いてから、背筋を伸ばして立ち上がり、自分に一番近く、それでいて爬人種からは離れて立つ賊の一人に近付くと、エヘン……と咳払いをしてから、



 「あの……こんなこと、言うのは凄く恥ずかしいのですが……お願いしても、宜しいでしょうか?」

 「……なんだ? お願いだと……?」

 「はい……実は……胸元が苦しくて……これ、外したいんですが、手伝って頂けませんか……?」


 そう言うとホーリィは後ろに束ねた髪(カツラだが)を身体の前に回し、後ろを振り向きながらコルセットの背部を指差して、恥じらいの仕草のように唇に折り曲げた人差し指を宛てながら、


 「……は、恥ずかしくて……なかなか、お願い出来なくて……申し訳ありません……紐を切っても構いませんから……お願いです……」


 と、弱々しく……懇願したのだ。その動きに合わせて、ホーリィの髪から花の薫りのような芳しい香りと……若干甘く、そしてねっとりとするような……彼女の汗の匂いが漂い、男の理性は揺らぎ、まるで誘惑されたように……フラフラと彼女に近付いた。


 「……し、仕方ないな……う、動くなよ? 怪我しちまったら……不味いからな……」


 ゴクリ、と唾を飲みながら、賊の一人はホーリィの後ろに回ると、腰の後ろに差し込んだ小さなナイフを抜き、彼女のか細い肩に手を載せながら……下から一本、また一本……と、慎重に……コルセットを外していく。


 男はぷつん、ぷつん……と、ホーリィの小さな背中を中心に編み込まれた、コルセットの紐を……慎重に切断していく。そして、最後の一本を切断した瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、落下した。


 「……な、何だ?……こりゃ……」


 男は落下したコルセットを手に取る。それは小柄な女性が身に付ける品としては、明らかに重過ぎ、そして……


 「……し、仕込み刃だと……っ!? おいっ!! 娘ぇ……?」


 抜き放てば光を反射するだろう、指先で持つ鋭利な仕込み刃の握りが何本も見え、その異様な存在を詰問しようと立ち上がったのだが……


 「いやぁ~っ!! スッキリしたぜぇ!! 小さくてもおっぱいが潰れちまうと窮屈だかんなぁ~♪って、うるせぇってんだよな!!」


 ……自らのブラウスのボタンを乱暴にブチブチと引き千切り、更にグイッと両手を中に突っ込みゴソゴソさせていたホーリィに唖然としたのだが……


 「……しっかし、良く考えるもんだよな……モロゾフじーちゃんの造る暗器って、変わってると言うか、何と言うか……」


 そう言いながら、胸元から怪しげな黒い指抜き手袋を取り出して填め、グイッと手首の辺りまで手繰ってから、バシンッ! と打ち合わせて快音を響かせつつ、


 「そんな訳でよ!……あー、そこの肉人形! ワタシのコルセットと中身、何時までも持ってないで返してくんねぇかい?」


 先程までの麗しい淑女は何処かへ消し飛び、ホーリィはヘラヘラと笑い、ニギニギと指を広げたり縮めたりしつつ、遠慮無い不躾な言葉と共に、掌を差し出したのだった。




見た目は美少女、中身はあばずれ。そんなホーリィさんの今回の装備は指抜きグローブ。作ったのはドワーブのモロゾフじーさん。そんな感じで次回もお楽しみに!!

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