⑤自由落下(フリーフォール)
やっと更新出来ました。それと今回が恵利の一人称最終回です。
「……っで、ここが武器庫だ……じーちゃん、居るかぃ!?」
「お~ッ!? ホーリィ! 怪我したって聞いたがピンピンしとるじゃないか!!」
武器庫にやって来たホーリィは、壁に開いた小さな窓口に向かって、声を張り上げて呼び掛けると、そこの窓口から髭面のおじーさんが元気一杯に答えてくれた……うん、と言うか誰なの? この人……。
「んぁ? このじじぃか? この船専任の研ぎ師のモロゾフじーちゃんだよ! ワタシの剣以外も全員の武器と防具を面倒見てくれてるんだよ!」
「あぁ~? ホーリィ、誰と話してんだぁ?」
「あぁ~? もう一人の自分と脳内会議中だぁよ!!」
「あぁ~? ならぁ構わねぇな! ぐはははははは~っ!!」
そう言いながら油紙に包まれた双剣を受け取って、紙を剥がしてみると……うわ、青っぽい刃がぎらりと輝いて……少しだけ、ドキドキする。
「お! ホーリィ、前に預かった暗器もよ、研ぎが終わったから返すぜ! きっちり研ぎ上げてあるから気ぃつけて使えよ!!」
窓口の向こうでゴソゴソと何かを取り出すと、茶色い皮の封筒みたいな包みが出てきて、それも受け取った。中身がカチャカチャと硬い物がぶつかる音がして、ずっしりと重い。
「ありがとな、じーちゃん! 帰ったらまた宜しく頼むぜぃ!!」
「おぉ! ホーリィも気を付けてな! またくたばるなよぉ!!」
そう言い合いながら、ぐははははははぁ、と笑い合ってモロゾフさんに礼を言って、ホーリィの個室って場所に行って身支度を整えることになった。
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そこは身を屈めないと入れない位の高さの、狭い寝台が三段並ぶ棚みたいな場所……そりゃ、狭い船の中だからこんな風だろうけど……それにしたって狭過ぎ!! ……その場所で仕切りのカーテンも引かないで、ホーリィったら服を脱ぎ始めるぅ!!
(ちちちちちょっとホーリィ!! だ、誰か来たらどーすんのよ!!)
「細けぇ事気にすんじゃねーよ!! どーせ見られても減りゃしねーよ!」
ポンポンと脱ぎ散らかして、あっと言う間に下着だけになると……あ、そりゃブラなんて無いのか……うん、いや……必要もないか……
「失礼な奴だな……デカきゃいーってもんでもねぇよ! ……た、大切なのは感度だ! ほれ!」
(……んきゃ!! い、いきなり触るなバカッ!! ……こ、声が出ちゃうでしょうが…………、っ!? ……、…………)
……思考を通じて、ホーリィの頭の中が少しだけ見えた……怖い? ……怖いの? ……だから、気を鎮める為に気持ち良くなりたくなるの? ……しょうがないな……少しだけ付き合ってあげるよ……もぅ。
……でも、でも……
こ、これ……凄過ぎなぃぃっ!?
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「…………きろ、……起きろ、起きろってば!!」
(ふわぁ!? あ、あれ……?)
「……判りやしぃ奴だな、軽く触っただけであんななっちまうなんてよ……さてはお前ぇ……オボコ(※未経験女性の意)じゃねーのぉ?」
(わ、悪かったわね!! み、身持ちの硬いしっかり者なのよ!)
「……どうだかな!? さてと……」
そう言うといつの間にか着替えを終えたホーリィは、手首や革鎧の脇腹とかに釘みたいな金具を差し込んだり隠したりしてる……これが暗器っていう物なの?
「……さて、これでよし……そんじゃ行くとすっか!!」
仕上げに腰の後ろに交差させるみたいに鞘を差して、手にした二本の剣を……何してんの? ホーリィ?
「……別に、この剣持っても【親和性】なんちゃら、って全然感じないけどよぉ……エリはどー思う?」
わ、私が判る訳ないでしょ? 戦場行けば判るんじゃないの?
「確かに! 考えるのは苦手だぜ!! うしっ! ぶっ殺しに行くかぁ~♪」
……どうすればウキウキとスキップしながら戦場に行けるテンションになれるのよ……流石はバッドカルマ・ビッチ様ねぇ……
「んだよ! ……あんまり誉めるんじゃねぇよ……調子に乗るぜ?」
誉めてないって……まぁいいや。宜しく頼むね、ホーリィ!
「おぅ! いつでも交替してやっからよ? 直ぐに言えよ!」
……殺し合いをプロレスみたいに軽く言わないでよ……ホントお気楽よね……
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《……まだね……まだ見えないわ……》
伝声管を通して見張り役の船員の声が響く。視力を魔導で向上させた女性が後部ハッチを僅かに開けて、その隙間から頭を出して遥か眼下を見張っている。
その後ろには鷹馬達が箱状に仕切られた板の間で窮屈そうに身を固定されていた。
(ねぇホーリィ……何で鷹馬達はこんな所に閉じ込められているの? それとこんな時に……あぁん♪ ってもう! 何するのよ!?)
「……いちいち面倒くせぇなぁ……鷹馬は狭いとこに入れておくと大人しいんだぜ? あとは……毎度お馴染み手慰みってもんだぜ、慣れろっ!」
《……?…………あ、見えたっ……いち、にぃ、さん……三本、白!!》
「来ましたっ!! 要塞付近に駆逐迎撃艦見えず! 行けます!!」
遠方に注視していた見張り役からの決行の狼煙発見の報を受け、付近を警戒していた補佐役も興奮気味にローレライへと叫ぶ。
【さぁ、我が子達……気を引き締めて行きますよ!!】
いつもと変わらぬ落ち着いた声で、ローレライがゆるりと高度を下げる。
「……き、来たぁあああああぁぁぁぁぁあああっ!!!」
(えっ!? ……い、いやああぁぁぁぁぁあああっ!??)
瞬時に腰のベルトに付けた金具を使い、柱に身体を固定したホーリィは期待と興奮で、何も判らないままのエリは突然始まった自由落下の恐怖で……長く尾を引くような絶叫と悲鳴を奏でながら落ちていった。
あー、書き難かった……そんな訳で次回から元の三人称に戻ります。だって……これからが本番ですから! 次回のホーリィさん完全武装話をお楽しみに♪