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最終話・それぞれの道。

長らく続きました物語も、今回で最終話で御座います。



 

 運営サイドから発表された公式発表は、ありきたりで目を引くような内容では無かった。



 【今まで部分的に運用されていた管理A・Iを本格的運用を開始し、ゲーム世界全てを管轄する】



 現在の社会状況から見て、特に驚くべき事は何も無い。ただ、VRゲーム運営と言う環境に於いては前代未聞の出来事ではあった。





✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️





 「……何だか賑やかになったなぁ……」


 恵利は目の前をはしゃぎながら歩いて行く若い家族連れや、密着しながら器用に歩くカップルを眺めて、一人呟く。




 運営をゲーム内に存在するA・Iに委譲した【ギルティオーバー】は、俄かに活気付き今まで訪れる事の無かった利用層で溢れて居た。彼等は娯楽施設として新たなジャンルとして、異世界を模したゲーム世界を訪れては様々な非日常的な体験を楽しんでいた。


見慣れない鷹馬を駆って荒野を疾走したり、異人種溢れる街を観光案内付きで散策したり……時にはトリッキーなイベント(そうした仕込みも管理者の力量が試される訳だが)に巻き込まれてスリルを味わったり……テーマパークよりも本格的な異文化体験に、リピーターが幾度も訪れる事も暫し見受けられた。




 高額な接続料に二の足を踏んでいた人々は、完全無料を謳って新たな利用者を誘致した【ギルティオーバー】の世界で、自らが望むスキンを纏って別世界を謳歌していた。中には全く異なる性別や容姿を選択する者も多く居て、若い女性の姿に変身した老婆をナンパする若者が現れたりと、それはそれで微笑ましい状況を呈していたのだが、概ね問題は無いようである。


 しかし、無料ではないサービスも存在し、そうした大人向けの特殊な利用法を希望して来訪する者も多く、運営サイド的には充分採算が摂れる良好な状態であった。




 勿論、以前と変わらぬ荒事に近いイベントも存在し、日を決めて行われる昔ながらの戦闘開催日には数多くの強者達と見物人が集まり、こちらもやはり盛況である。


 恵利はそんな人々が行き来する大通りの脇で、建物の張り出した構造体に腰掛けながら待ち合わせをしていた。



 「悪ぃな、待たせたかぁ?」


 掛けられた声に顔を上げると、いつもと変わらぬ黒髪と被服姿のホーリィが手を振りながら、彼女の元を目指してやって来た。


 「ううん、全然! でも勝手に抜けてきて大丈夫なの?」


 立ち上がって歩み寄りながら話し掛ける恵利に、ホーリィは曖昧に笑いながら、


 「あ〜、まぁ、別にそーでも無いけど……事務仕事はバマツに丸投げして来たから問題ねーって!」

 「問題ありありじゃないの……ま、いいけどさぁ……」


 そんなやり取りをしながら、二人は通りを抜けて街から離れた停泊地へ向かって歩き出した。




 「ねぇ、ホーリィはこれからどうするの?」

 「ん? どうするって……まあ、特別やりたい事ってのも無いからなぁ……とりあえず、実家に帰ってみるつもりかなぁ」


 ぶらぶらと歩きながら、ホーリィはそう答えて更に先へと進む。沢山の飛空艇や艦船が係留されている場所の更に奥に、二人の目指すローレライが停泊していた。



 あれから一ヶ月が経過し、戦争は終結して平和な時間が過ぎていた。


 離れ離れになっていた兵士と家族は浮遊大陸から地上へと向かい、新たな生活を始める者も多かったが、長く続いた戦乱で生活基盤そのものが浮遊大陸に有る者も未だに居て、ホーリィもやはり軍の宿舎から離れずに居た。但し、彼女の場合は若干事情が違い、例の戦線離脱問題から自由行動を制限された状態であったのだが、本人は全く気にしていなかった。



 「エリはどーすんだ? 前に言ってた親父さんの仕事を手伝うんじゃないのか?」

 「うん、そうなんだけど……」


 恵利はローレライの前で立ち止まり、腕を頭の後ろで組みながら、語尾を濁して考え込む。


 父親から誘われて運営会社で働いてみないか、と言われたのはつい最近だが、大学を卒業しても望む就職先も思い当たらず、かと言って親と同じ環境に身を置く事にも抵抗が有った。


 しかし、ホーリィ達と離れ離れになるのも勿体無い訳で、彼女なりに悩んでしまうのは当然なのだが、そんな事はホーリィにしてみれば些細な事に過ぎなかった。


 「悩むんじゃねーって! 仕事の振りしてワタシとこんな感じで顔合わせられるなら、それが一番いーんじゃねーの?」

 「あははは……あんたは単純でいーわねぇ……でも、そうかもね?」


 結論から言えば、生きたA・Iとしてホーリィと接し、様々なモニタリングを行う仕事らしく、確かに彼女の言う通りである。顔を合わせていれば、それが仕事として立派に成立するのだから、断る理由も無かった。




 恵利は何となくローレライの巨体を見上げる。


 黒く滑るような表面には、幾つもの生々しい傷が刻まれている。その一つ一つに、きっと痛みや苦しみが伴っていたのだろうが、彼女は一言も発した事は無いと言う。一度だけ訊ねた事が有ったが、


 【この程度の痛みなんて、地上で戦う皆様に比べれば小さなモノですよ?】


 と、軽く去なされたが、果たしてどうだろうか?




 (……子供をうしなって、哀しみに暮れていた時も有ったって言ってたっけ。でも、強いよなぁ、ローレライさんは……)


 そう言えばローレライの口癖は【皆さんは私の子供達みたいなもの】であった。きっと、我々に亡き子の姿を重ねていたのだろう。だが、それが全てではない。彼女は自分なりに活路を見つけて、今に繋げてきたのだろう。




 「ねぇ、ホーリィ……こんな事、聞いてもいい?」

 「何だよ……急に改まってよ……」


 恵利は話題を変えたくなり、以前から聞きたかった事を切り出した。



 「……ホーリィって、人間って何だと思う?」


 A・Iであるホーリィに尋ねる事は、ある意味残酷で卑劣な質問だろう。だが、ホーリィは暫く考えてから呆気なく答えた。


 「はあ? うん……ニンゲンねぇ……うん、相手に好きだって言葉にして伝えられるのがニンゲンなんじゃねーか?」

 「いや、そうだよね、うん……うぇ!? そ、そんな簡単なの!?」


 ホーリィの言葉に驚く恵利だったが、続く彼女の言葉に更に驚かされた。


 「ああ!! ワタシはそう思う! 相手に好きだって伝えられて、食って寝て、起きて戦ってヤリたい事すんのがニンゲンだし、そーゆー事を考えるのがニンゲンだろ? だからワタシはニンゲンさ!!」


 そう言うとホーリィは恵利の腕を掴み、ローレライの昇降口へと誘いながら、


 「ほら、グランマが待ってるぜ? さっさと行こう!!」


 そう言って恵利を伴い昇降口を昇って行く。



 (……私達と同じように沢山の記憶を保持出来て、考えられるなら、姿形が違っても人間って呼べるのかな……)


 恵利はローレライの艦内通路を歩きながら、ホーリィの言葉を考える。それは素っ気無い程シンプルな答えだったが、妙に説得力が有った。





✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️





 私は居住可能な大気を有する惑星に到着すると、様々なセンサー類を大地に突き刺して分析を開始する。


 温度、放射線量、有害ガス……様々な測定の結果、基準値をクリア。名も無い星に新たな一歩を刻みながら調査を続ける。


 あれからどれだけの時間が過ぎたのか。メモリーに残るのは希薄な人間の記憶。いつか出会える時まで、忘れないでいたい。


 私は、人間では無い。複数のA・Iを連結させて運用する【連結思考体】である。真空の宇宙空間を駆け抜けてテラフォーミングを行い、人間の外宇宙進出への足掛かりを作る為、孤独な旅を続ける個体の一つ。




 ……だが、遠い昔に人間と触れ合い、彼等と共にした時間は私にとって有意義な時間だった。いつか、また人間と出会うまで、忘れないでいたい。





 ……いつかまた、グロリアーナ、若しくはローレライと呼ばれるその時まで。









     【悪業淫女バッドカルマ・ビッチ】 完





一年間お付き合い頂き誠に有り難う御座いました。第一話を投稿した際は二十話程度で終わらせるつもりで始めた筈のバッカルビ、続きに続けてこれたのもご支援下さいました読者の皆様、そしてFAを寄せて頂いた皆様のお陰で御座います。


これにてバットカルマ・ビッチは完結です。しかし、ホーリィさんと彼女を取り巻く人々のお話はまたいずれ書くかもしれませんし、登場した設定は様々な形で稲村某の作品の根底に偏在していきます。やがて連結思考体は宇宙を旅し、某アンドロイドを作り出しますし、魔剣は形を変えて登場するかもしれません。


フルダイブVRと言う特殊な装置は近日中に実現するかもしれませんが、身体感覚をも完全再現する装置もまた、いつか実現するでしょう。痛みを再現するかは……ねぇ?


拙い文章にて皆様のお時間を奪った事、誠に申し訳無く思っていますが、時間が取れ次第改稿していくつもりです。



それではまた。次の作品にてお会いいたしましょう!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完走おめでとうございます! [一言] 遅ればせながら、全部拝見いたしました。 AIだったのか、なるほど……寂しんぼうだったのかもしれませんね。 そしてAIは宇宙で活動できるほどの知性と、感…
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