④じゃあ、いこうか!
随分と間が空きましたね。
「「「ホーリィさん!!」」」
無人と化した荒野にアンティカ達の声が木霊する。
「うっせぇ!! つーかお前達みんなアンティカなのか!? うぜぇ……」
赤い結界が解かれ、ホーリィとビトーが現れるとわちゃわちゃしながらアンティカ達が群がり、思い思いに声を掛ける。
「ああ!! 暫くお見掛けしない内に大きくなっちゃって……」
「でもでもやっぱりスレンダーなままですわね?」
「髪伸びましたぁ?」
「お腹空いてませんかぁ?」
「お風呂入りませんかぁ?」
「私が先ですぅ!!」
「私が」「私が」「私が」
「……やっぱり、うぜぇ……」
呆れながらホーリィは彼女達から離れると、無言のビトーに向かって、
「まー、勝ち負けはともかく面白かったぜ?」
「くそ……次は絶対勝つからな!!」
ギリギリと歯噛みしながら答えるビトーだったが、そんな彼等の前に一台の馬車が走り寄る。
「……っと!! 何!! 何でホーリィとビトーさんが一緒に居るのよ!?」
馬車から飛び降りながら、恵利がホーリィ目掛けて駆け寄ると直ぐに訊ねるが、
「あ〜、さては二人で戦ってたでしょ〜? で、どっちが勝ったの?」
「どっちも何も無えっ!! コイツ汚えぇんだぞ!? 自分が魔力切れになったらチチ出そうとしたりよ〜!!」
まさかの色仕掛けに絶句する恵利だったが、
「違ぇえって!! 暑くなったからボタン外しただけだっての!!」
「お前ぇの洗濯板なんぞ誰が見るか!! それになぁ……!?」
答えるビトーの後頭部に冷たい銃口の感触が伝わり、恐る恐る振り向くと、
「……質問しないわよ? この……浮気者っ!!」
ゴーグル越しに殺気立った視線で彼を貫き刺しつつ、友梨が引き金を引いた。
重々しい銃声が連続し、彼の髪の毛の端が撃ち抜かれる。辛くも直撃は免れたのだが……
「あら? どうして避けたの……何かやましい事でも有ったのかしら?」
「ばっ、馬鹿野郎ッ!! いくらフレンドっても痛覚オンのまんまで撃たれたら痛えっての!!」
全くの不意打ちにも関わらず、回避しながら距離を取ったのは流石と言えよう。だが、友梨はまだまだ追撃の手を緩めるつもりは無いようだった。
「可愛い可愛い私のクレイモアちゃ〜ん♪ しっかりお仕事してくださいねぇ〜!!」
ザクッとスパイクで地面に対人地雷を固定しながら、そそくさと自分は安全圏に逃れながらコードを手繰り寄せ、手にしたスイッチの安全カバーを外してから、
「……痛み? ふふふ……本当に死ぬ訳じゃないし、そんなの慣れちゃえば……どうって事無いでしょ?」
「全然聞いてねぇ!! だから痛いモンは痛いってんだよ!! ウソぉーッ!?」
カチッ、と無機質な音が鳴ると同時に、ビトーに向かって向けてはいけない方向を向けた対人地雷が派手な炸裂音を立てて弾けた。
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端から見れば和気藹々と殺し合いしているようにも見える(ビトーはズタボロだが)面々は、不意に空気が変わった事に気付き、各々で警戒する中、その気配を見知っていたホーリィだけが抜刀もしないまま、
「さて……今更何の用だい、グロリアスの女王さんよ?」
身体を捩りながら後ろに振り向き、彼女は声を掛ける。
いつの間にか水が引くように撤退していたグロリアス国軍の代わりに、突如湧き出したかようにグロリアーナが忽然とその場に現れたのだ。仇敵、誅敵、殲滅対象……何と呼ぼうが同じである。今、この場に居合わせた面々が倒すべき相手の彼女が、何の前触れも無く、現れたのである。
「……当然、こうなるであろうが……」
そう呟く彼女に対し、銃口を向けて、鯉口を切り、条件反射で動こうとしたのだが……
グロリアーナが登場した時と全く同じ、いやそれよりも強大な魔力の奔流が突如頭上から覆い被さり、誰もが嫌でも彼女から視線を離し、頭上へと移してしまった。他でもない、グロリアーナですら……
【 そ の 方 に 手 出 し し て は い け ま せ ん ! 】
頭に直接響く、優しく丁寧ながらも決して抗えぬ強さを備えた落ち着いた声。
【 …… つ い 先 程 決 定 通 知 が 来 ま し た ! 】
グロリアーナに匹敵する魔力量を蓄えた、唯一無二の存在。万里の距離を昼夜跨がずに飛び抜ける、当世最強の《生きた空中戦艦》。
【 二 国 間 の 永 久 的 休 戦 が 、 決 定 で す ! 】
帝国側の者にとっては敵方への、相手側の者にとっては自らに死を撒き散らす《漆黒の棺桶運び屋》として怖れられた、帝国正規軍仮装強襲戦艦【ローレライ】が、無骨で巨大な船首を真下に向けながら急降下してきたからだ。
「グランマッ!! そいつぁマジかッ!?」
【当地の上空に到着する寸前に、無変換の全軍通達で報せがありました】
頭上のローレライに声を張り上げて問い質すホーリィだったが、落ち着き払った何時もの声は、優しく、そして気品を漂わせながら答える。
【つまり、グロリアーナ女王はもう、仇敵では無いと言う事……判りましたか?】
同意する為に口を開きかけると、全く同じタイミングで頭上のローレライから薄緑色の戦闘礼装を羽衣のように棚引かせながら、降下の呪符を使用し翼で羽ばたき降りてくる姿が見えて、
「……げっ!! あ、姉御……ッ!?」
「ホォオオオォリイィイイイイィィーーーーッ!!!! アンタ、覚悟しなさいよぉーーーッ!!!」
そう、彼女の師匠。セルリィ自らがホーリィ・エルメンタリアを捕獲|(?)する為に、今まさに降り立とうとしていたのだ。
麗しい生脚を露わにしながら、長い金髪を風に漂わせて風を纏い降り立つ彼女は、ホーリィ目掛けて一直線に降下していき、遂に爪先が黒髪に付けた髪留めに触れようとした瞬間、背中から生えていた翼が光と共に消え去って、ストンと地面へと柔らかく着地した。
「あ、えーっと……姉御、エヘヘ……お久し振りぃ?」
「エヘヘじゃ無いわよッ!! こんの……大馬鹿弟子いいぃーッ!!」
わなわなと身を震わせつつ、両手を頭上へと振り上げながら詰め寄るセルリィに、片手を挙げて愛想笑いを浮かべながら答えるホーリィ。そんな彼女に向かって一歩前に進みながら、振り上げていた両手を柔らかく降ろしてホーリィを包み込むと、
「……心配掛けるなっての……全く……」
ほんの少しだけ大きくなった肩に手を回し、呟きながらそっと抱き締めた。
あと何回更新出来るか判りませんが宜しくお願いします!