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③見つけましたわ!

役者が次第に揃います。



 「……だからあれほど、直ぐ出ようと言ったのに……」


 恵利は愚痴りながらも手綱を引き絞り、馬足を上げさせる。


 「……でもね、ネット障害が続いてるみたいだから、焦って動くのもどうかと思ったのよ?」


 答える友理は諭すように応じながら、ゴーグルはそのまま、マスクだけを外して進行方向を眺める。次第に大きくなっていくグロリアス国最大級の旗艦の様相に、これから起きるであろう激しい戦闘を想像し、改めて装備を点検し始めた。



 「私には無縁の事ですが、お二人には其れ程影響が有るのでしょうか?」


 クリシュナは恵利の後方から身を乗り出しながら、揺れる馬車の動きに合わせて身体が安定するよう姿勢を変えながら座っていた。




 彼女達はビトーとアンティカが先行した後、やや遅れて前進し始めたのだが、予測されたグロリアス国側の抵抗は皆無だった。それがビトー達に依るのか判らなかったが、急ぎたい彼女達にしてみれば僥倖に変わりは無い。


 そうして暫し進んだ後、三人は小高い丘を越えて開けた場所に出たのだが、視界の中に見慣れぬ真っ赤なドーム状の結界を見つけたアンティカが、小さく声を上げた。


 「……居らっしゃいましたね、御姉様……」


 それだけ呟くと腰に提げていた小物入れから宝玉を取り出して、握りながら取り決め通りの文言を呟いた。


 「……【探し物は見つかりました】……ッ!?」


 声に発した瞬間、掌中の宝玉が回転し始めて、やがて浮遊しながら赤い光を放ち、一瞬後には赤い光の尾を引きながら飛び立つとあっという間に視界から消えてしまった。


 「……何だったのでしょうか……いや、もしかしたら……?」


 クリシュナが天を眺めながら思考を巡らせていると、遥か彼方の上空に小さな雲が湧き上がる。それは余りにも小さく、初めから上空を眺めていない者には見極める事は困難な程の変化だったが、


 「……成る程、そう言う事だったのですね? ()()()()()()()()()()()()()()()()報せに行く代物でしたか」


 そう呟く彼女の見詰める空の中心に、薄く広がる雲が次第に濃さを増し、やがて何かを宿したかのように長く伸びていき……そして、それは現れた。





✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️




 準戦闘待機を維持するローレライ艦橋で、セルリィはその時を迎えた。


 【……長かったわね、セルリィさん……《探し物が見つかりました》……報告は以上よ?】

 「……そう、有り難う御座います。じゃ、行きましょうか……」


 ローレライから報告を受けたセルリィは、落ち着いた声でそう告げると、深呼吸してから伝声管へと近付き、蓋を開けて、ひゅう……と息継ぎし、一拍置いてから、




 「……()()()()()()()()() ウチのドラ娘が見つかったわよッ!! 尻を蹴っ飛ばしに戦闘配備!!」


 大声で叫ぶと、それまでやや弛緩していた艦内の雰囲気が一変、一瞬後には待機していた艦内要員全員が持ち場に着き、前線派遣行動を開始する。


 「……降下支援魔導班、配置に着きました!! いつでも《紅蓮の大火(グレート・ファイア)》で焼き尽くせますッ!!」


 艦尾部の待機所から支援魔導担当員がやや興奮気味に応える。揃いの貫頭衣姿の彼女達は身体をハーネスで固定し、荒れ狂う強風に抗いながら開口部(ハッチ)脇から身を乗り出して派手に魔導をブッ放すのが仕事である。



 「()鉄さん! 降下準備は?」

 「……終わっている。ホーリィの間抜け面を見に行く連中は、全員揃っているぞ?」


 いつものように腕組みしたまま、艦橋の端で瞑目しながら呟く鎖鉄の返答をききつつ、更に伝声管を使って指示を飛ばす。


 「バティ!! 鷹馬の準備は?」


 「はいは〜い! バッチリ肉食わせた奴を十頭揃えたよ! 馬具も載せてあるから直ぐに出られるよ?」


 よしよし、と頷きながら艦橋を出ると、通路の先にある降下準備室へ赴き、


 【……ローレライさん、準備完了です!!】


 力強く告げると、ローレライは一瞬の浮遊感を伴いながら係留地をゆっくりと離れて、浮遊要塞を後にする。



 【セルリィさん、今頃、本部は大騒ぎでしょうねぇ】

 「……そうね、待機命令無視ですものね……まあ、承知の上での違反ですけど!」


 ローレライと語り合いながら、セルリィは加速する艦の方向をグロリアス帝都に向けて定めながら、心の中で呟く。



 (……バカ弟子の分際で、私に心配掛けた事を後悔させてやらなきゃ、気が済まないわよ……)




✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️





 雲の間をあっと言う間に通り抜け、更に更に加速。船速は規程巡航速度を遥かに凌ぎ、みるみる内に浮遊要塞は芥子粒より小さくなり、やがて視界の彼方に消えていく。


 「命令違反に速度超過!! これでバカホーリィが捕まらなかったら、積み重ねで重営倉どころじゃ済まないわねぇ……」


 誰に言うでもなく呟くセルリィに、


 「……今更引き返しても、量刑は無いだろうな。一蓮托生だから全員同罪……間抜けの集団か?」


 皮肉るように応じ鎖鉄だったが、


 「まぁ……その内の一人は俺だがな」


 と、自傷気味に呟く。いつもと変わらぬ彼の言葉に彼女も肩の力を抜いて、


 「そうそう! 大馬鹿者を捕まえに、大馬鹿者達が雁首揃えて殴り込みよね!? だったらいっか!!」


 気紛れにあはは、と笑うと、昼過ぎまで何も口にしていなかった彼女に、何処から取り出したのか固焼きパンに薄切り肉と玉ねぎを挟んだシンプルなサンドイッチを鎖鉄が差し出しながら、


 「心配なのは判るが、あんたまで倒れて貰っては困る。よく噛んで食え……」


 そう付け加える事を忘れぬ気遣いを見せる鎖鉄に、


 「あらあら……ご心配をお掛けしますね……これ、何処から持って来たの?」

 「バターカップから、あんたに渡せって言われてな……」

 「重ね重ね、ありがとね……世話を焼かれるのは未熟者だからかな?」


そう答えるセルリィだったが、やはり鎖鉄は調子を変えず、


 「あんたが世話焼き屋なのは誰もが知っているさ。だからと言って、完璧な奴でも無い位、やはり誰もが知っている。だから気にするな。」


 それだけ伝えると、鎖鉄は艦橋を後にした。




 「全くもう……みんな、良い人過ぎるんだよ、ホント……」


 パンを噛み締めつつ、セルリィは誰に言うでも無く発した言葉は、艦体を叩く猛風の唸りに紛れて消えていった。




そして、向かうはホーリィの元……次回も宜しくお願いします!

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