表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/124

②それ、カッコいいな!!

ホーリィさんのセンス……。



 ビトーがその音に気付いたのは、名も知らぬ青年を叩きのめし、襟首を掴みながら止めを刺そうとしていた時だった。


 「……まぁ、それなりに出来たかも知れねぇが、只それだけだったって訳だ、解るか?」


 諭すように呟いたビトーの三対の義眼が青年を捉えるが、彼は無言のまま答えない。



 「言い残す事が無ければ……んぅ?」


 握り締めた拳を振り絞り、振り下ろせば終わりを迎える筈であったが、それは為されなかった。



 最初は地響きのような、小刻みに感じる震動。続いて感じたのは小さく纏まる波動。そして徐々に大きくなっていく、戦場に似合わない女特有の甲高い声。


 「おらあぁッ!! 邪魔なんだよぉ雑魚がッ!!!」


 まるで白い旋風のように斬撃を放ちながら、黒い影が突き進む。しかし不可解なのは、本来ならば敵方の陣地奥深くから現れた上に、陣形を整えたグロリアス兵の真ん中を突っ切るように走り抜けて接近してくるのだ。


 だが、そうした疑問は一瞬後に氷解した。



 遂にハッキリと判るまで接近してきたのが、一度でも眼にした事が有るならば決して忘れる筈の無い、戦場を掻き乱して敵味方双方に狂乱と畏怖を植え付ける奴なのだから。


 「……お前ぇを探してんのは、俺じゃなくて友理の方なんだけどよ……まあ、いいか?」


 ビトーは脱力している青年を放り投げてから、自分達の敵であるグロリアス兵を倒しながら近付く相手に向かい、拳を突き出して戦闘態勢を取る。


 「……メスガキのクセに、派手な登場しやがるなッ!! ホーリィちゃんよ!?」


 行く手を遮る軽装兵を俊速の前蹴りで、勢い良く弾き飛ばしながら、名指しで呼ばれたホーリィがビトーに気付き、


 「……ああ!? んだよ、テメェ……って、おいおいおい、何だよカッコイイ顔してんなっ!! それホンモノかよ!?」


 ビトーと初対面の彼女は、彼の蜘蛛のような義眼を一瞥し、閉じかけた口を開きながら目を見開いて彼の元に駆け寄って来る。その食い付き様にやや面食らいながら、


 「お、おう……本物かって言われりゃ本物じゃねーが、ちゃんと見えてるぜ? こーやってもキチンと見えるしよ」


 左右の手を顔の脇に上げ、くるりと回すと義眼も動きに合わせて別々の動きを為す。因みにビトーの視界は湾曲したスクリーンを離れた距離から見るように、広角度の範囲を問題無く視野に納められているのだが。


 「うおおおぉ……すげぇなあ!! でもよ、まぁ……商売女ウケしないんじゃねーか?」

 「ゔっ……い、いや別に困らねぇさ……バカ野郎、いいじゃねーかそんなのよ!!」


 持ち上げておきながらも、誠にゲスな感想を添える事を忘れないホーリィだったが、それまでの浮わついた印象を払拭するように、両手の双頭剣を掌中で回してから、


 「さて……んな事はともかくよ、ワタシがこーやって出てきたってのは……もう判ってんだろ?」

 「ああ、だろうなぁ……類は友を呼ぶ、って奴だろ。こちとら雑魚ばっかで飽き飽きしてたんだ……」


 ビトーは掌に拳を打ち当てながら、我が意を得たと言わんばかりに犬歯を剥き出しにし、


 「そーだろ? コッチも色々有ってよ……スカッとしたかったんだ。付き合ってもらえっか?」


 対するホーリィも、両手の魔剣を合わせたまま、ゆっくりと顔の前まで持ち上げる。



 「「……()()()()()()()() 誰も邪魔するなッ!!」」


 二人は全く同じ言葉を紡ぎ、どの陣営に在籍していようと妨げにならない決闘専用の結界を立ち上げる。


 真紅の呪式が二人を中心に展開し、周囲を隔離すると同時にドーム状に立ち上がって彼等を包み込む。



 【……()()()()()()()致しました。只今より結界内は周辺と遮断、勝者の同意が成されるまで一切の干渉を拒絶致します……】



 抑揚を欠いた無機質な女性の声が辺りに響くと同時に、二人は互いにゆっくりと後退りながら定位置に着く。


 ぺろり、と舌を出し唇を舐めながら、ホーリィは一気に魔導強化を纏め上げ長い黒髪を中空に漂わせ、応じるようにビトーは自らの拳から荷電粒子(プラズマ光)を発し周辺の大気をオゾン化させていく。



 「はああぁ……久々だなぁ、ビリビリすんまで昂らせんのは……」

 「へっ、気ぃ抜いて消し炭になんじゃねーぞ? 俺の本気のゲンコツ食らって泣いたら笑えっかんな?」


 ドレスの裾から白い太股をはみ出させて極限まで低い姿勢を保ち、引き絞るように跳び出す準備を終えたホーリィ、そして同様に前傾姿勢のまま両拳を地面に軽く押し付けて、ビトーも来るべき瞬間に備える。



 二人の間に無言の時が過ぎ、やがて限界まで引き伸ばされた瞬間が訪れた。



 「 あ あ あ あ あ あ あ ぁ ッ ! ! 」

 「 ゴ ラ ア ア ア ア ア ァ ッ ! ! 」


 同時に叫びながら、ビトーは拳に籠めた力場の相位関係を変え、爆発的な加速力を得ながら一気に距離を詰める。そしてホーリィも【身体強化】を開放して大気を押し退けながら一直線にビトー目掛けて斬り掛かる。


 二人の距離がゼロになり、拳と双頭剣が引き寄せ合うかのように触れ合った瞬間、彼等を中心に大気を圧する波動が巻き起こる。それは張り巡らされた結界を激しく揺さぶり破裂寸前まで膨張させた。


 「へへへぇ……♪ やるじゃん、アンタ!!」

 「言うじゃねーか? テメェこそ、そんなちっこい成りしてやがんのに、俺と真っ正面から張り合えるとかよ……有り得ねえぜ?」


 互いを讃えながら、ビトーはホーリィの握る双頭剣の柄頭を掌で捉えつつ、そのまま力を籠めて捩じ伏せようとするのだが、


 「……でもよぉ……アンタの全力はこんなモンじゃねーんだろ? ……見せてくれよ、なぁ! ……全力で叩き込んで()()()()()()()()魅せろや?」


 ホーリィはそんな圧に屈せず、逆に足元を地面にめり込ませながらビトーの掌を徐々に押し戻しつつ、卑猥な挑発を繰り出す。




 「……ああ、オンナにお願いされちまったら……応じてやんのがオトコってもんだよな」


 不意に柄頭から手を離して距離を取りながら、ビトーはそう呟いてグローブを外し、指を組み合わせて掌で三角形を作り、顔の前に突き出す。


 「……その代わり、本気って奴を見せてやるから、これが終わったら俺の知り合いに会ってやってくれ……お前を探してる。」

 「はあ? べ、別に構わねぇがよ……何だソイツ、()()()()()()()


 いつもと異なる調子でビトーがそう告げると、いつもと同じ調子でホーリィがそう答える。ご丁寧に小指を突き立てて、クイクイと小刻みに動かす彼女に、


 「……一人は違う。お前ソックリの【魔導人形(マギカクッペ)】アバターのねーちゃんだ」


 それだけ告げるとビトーは口を閉じ、掌を始動鍵(イグニッションコード)の形に変えながらリミッターを外す。


 【……アクセレートリミッター解除・ブーストリミッター解除__リミッター復旧90sec…89……88……】


 無機質なアナウンスが脳内に木霊して残時間数を告げるが、ビトーは焦らずいつもと変わらぬ右前の半身に構えながら、


 「……さて、()()()()()()()()便()()()()()()出来たかぁ?」

 「言うねえイイねえ!! いいぜ……遠慮無くぶっ殺す気で来いやァッ!!」


 応じるホーリィもいつもと変わらず、満面の笑顔で迎え討つ。



 結界の中、二人は獣じみた雄叫びを上げながら決闘の火蓋を斬って落とした。




稲村某のセンスでもあります。ではまた次回!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ