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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章・ワタシはワタシ?
118/124

⑭ワタシも混ぜろ!

気づけば一年間続いてます。



 超音速で飛来する弾頭を、アンティカは身体で受け止めた。


 黒いジャケットに直撃した弾は、付与された加護の影響なのか、着弾と同時に表面を滑るように逸らされて致命傷にはならず、波打つような衝撃だけを残して跳弾になった。


 だが、露出していた太股に当たった弾丸は皮膚を突き破って内部に侵入し、先端を花弁のように開かせながら運動エネルギーを拡散、周辺を瞬時に液体化させて空洞を作り致命的なダメージを与える……筈なのだが、


 「……前回の友理さんが放った鉄の(つぶて)と比べたら……そよ風みたいなものですわ♪」


 着弾直後は僅かに身を震わせたが深刻な損傷を受けた気配も無い。それどころか僅かながら流血している傷口を掌で優しく撫でると、見る間に血が止まって傷口も塞がり、一体何処に傷が有ったのかも判らぬ有り様だった。


 「クソッ! ……レベル差のせいか?」


 毒づきながら弾倉を交換し、再びアンティカを捕捉しようと照準越しに彼女を探すが、視野の中に彼女の姿は見当たら無い。


 弾倉交換をしていた一瞬の隙で、視界から消え失せたアンティカに毒付きながら、銃口を左右に振って探してみるが、やはり見つからなかった。


 「大口叩いていた割に、サッサと居なくなるのか? ……これだから何を考えてるか判らない奴は……」


 目標を完全にロストした男は、仕方無く殴り合いを続けている相方に加勢しようと振り向くと、見失った筈のアンティカが銃口を抑えて我が身から逸らしつつ、目の前に立っていた。


 「ダメよ……折角二人で楽しい時間を過ごせるのに、余所見して浮気しちゃ……ね?」

 「……ッ!? は、離せっ!!」


 銃口を向けようと力を籠めるが、細身のアンティカの何処にそんな力が秘められているのか、引いても押してもびくともしない。暫し押し合いを続けていたが、諦めたのか咄嗟に銃を操作し弾倉を外してから距離を取る。


 手中に自動小銃を残されたアンティカだったが、彼の動きを目で追った後、おもむろに銃をポイと捨てて困ったように人差し指を顎に付けて、


 「あのように不粋なモノよりも、()()()()()()()()()()()()頂けないかしらぁ?」

 「……ああ、そうかい……後悔しても知らないぜ?」


 挑発するアンティカに応じながら、背嚢からくの字に折れ曲がった独特の形状のククリナイフを二振り取り出して握り締める。


 (……予定とは違うが、まぁいいか。適当に遊んでから【スタンガン】で気絶でもさせれば事足りるだろう)


 男は心中で策謀を巡らせながら、低い姿勢を維持しつつジリジリと接近していく。麻痺性の神経毒を忍ばせたアンプルを内蔵した鞘から、必要十分な量の毒が塗布されたナイフを煌めかせながら、先程のように微動だにしないアンティカ目掛けて下から切り上げるようにナイフを振り、切っ先を食い込ませようと狙うが、


 ……ぬぶっ、と寒天を斬るような曖昧な手応えに驚き、男はアンティカとナイフを交互に見てしまう。


 「あら! 意外と大胆で御座いますねぇ♪ ……もっと慎重に迫るのかと思ってましたが?」


 ジャケットに覆われていない下腹部から斜めに斬られた筈のアンティカの身体は、確かに斬撃の痛々しい傷痕がクッキリと残されていたのだが、彼女が掌を添えて撫でただけで、じわじわと接合されながら傷は消えてしまった。


 「……ご存知では無かったのですね? 私に【剣】の類いは意味を為しませんよ?」


 クスクスと笑ってから、自らの身体に添わせていた腕を広げて一歩前に進み、


 「……さあ、折角の逢瀬に御座いますよ? 全てを忘れて身を委ねてしまえば、必ず愉しい時間が過ごせますから……」


 ゆっくりとジャケットのジッパーを下げてから、招くように両手を差し出し相手を誘う。


 「なら、此方もそれなりに対処するか……」


 男はそう言うと、新たに薬剤の入ったアンプルを取り出して、自らの太腿に突き刺し中身を注入する。


 暫しの後、男がその場から飛び退くと、其処にはもう一人の迷彩柄の男が現れる。そして次々と数を増やして八人まで分裂すると、各々が異なる場所に散りながらアンティカ目掛けて銃を構える。


 「……分身ですか? 珍しい事を為さいますわぁ♪」


 そして次々と弾丸を身に受けながら、アンティカは笑顔のまま彼等の行動を眺めていた。


 やがて分裂した一人が小銃に付けられたグレネードを射出し、軽い発射音と共に白い煙の尾を引きながら弾頭が彼女の足元で炸裂する。派手に粉塵を撒き散らしながら爆発する。爆煙でアンティカの姿が掻き消されてしまうと、遠巻きに小銃を構えていた者も流石にあれは耐えられまいと銃口を下げたその瞬間、爆心地から赤い帯が瞬時に伸びて、最も近くに居た一人を捕らえた。



 《……ですから……湖面に映る月を斬る、の喩えも御座いましょう? ……(ソウル)無き虚ろな剣や礫では、私の心を焦がす事は出来ませぬ。》


 赤い帯はアンティカの声が響くと同時に蠢き、捕縛した相手を容易く引き摺りながら手繰り寄せ、


 《まぁ、見た目は同じでも、真っ赤な紛い者なんでしょうが……使って差し上げましょう……【血族召喚】っ♪》


 と、声のみで姿を現さぬまま、捕らえた男が隠れる程に帯を巻き付けながら吸血種固有の魔導を発動させる。赤い帯は男の表面で波打ち脈動しつつ伸縮を繰り返し、その度に捕らえられた男は身を捩り抵抗していたのだが、やがてその動きもしなくなる。


 そして、帯を解かれた其処には、着衣は勿論そのままながら、アンティカに瓜二つの赤い瞳の女と化した分身が居た。


 「有り得ないだろ!? 敵にハッキングされるなんて聞いた事無いぞ……」


 分身から一切の反応が消え失せて、男は身を硬らせる。やがて偽アンティカは迷彩服を纏ったまま、仲間に向かって嗤いながら腕を振り上げて襲い掛かる。


 無論、男達は手をこまねく訳も無く、各々発砲し退けようと試るが、アンティカ同様弾丸を全身に受けながら平然と突き進む。そして、捕まった新たな犠牲者はまた偽アンティカとなり……




✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️





 視界に入る全ての調度品は、紫檀や黒檀が使われていて、表面に現れる艶だけではない時間の重みを帯びた特級品なのだろう。そしてその中心に巨大な黒曜石を削って作られた玉座が鎮座していた。


 表面には自らの体内に紅蓮の炎を宿す火竜の表皮が掛けられ、座る人物が絶対的な権力を握っている証なのだろう。だが、そんな事はホーリィには関係なかった。


 黒を基調とした【戦闘礼装バトルドレス】に身を包んだ彼女は、深いスリットが入った際どいデザインにも関わらず、大胆に足を投げ出して寝転んでいた。だが、それにも飽きたのかムクリと身を起こし、顎の下を爪先で掻きながら物思いに耽っていたが、


 「ああああああぁ……つまんねぇな、全くよ……」


 そのまま床に直接腰掛けながら、退屈そうに欠伸をして、ホーリィが愚痴る。彼女はグロリアス旗艦【クィーン・グロリアーナ】の艦橋に居るのだが、監視を付けられる事も無く捨て置かれていた。


 捕虜として囲われている訳でも無く、ただ女王の目の届く場所に居るだけの処遇に、最初は謀り事を警戒し周囲の気配を探って居たが、アルマと女王以外は視界に誰も居なかった。


 (……要は恐るるに足りず、ってとこかよ? ムカつくぜ……)


 ホーリィにとって、そんな事は面白い筈もなく、イライラと胡座をかいた膝元を指先で叩きつつ、外の景色を眺めていた。


 バルコニー状に突出した場所からは、遮る物も無い空間が広がり、その気になれば外に飛び降りる事も可能だが、無謀な真似をする筈もないと踏んでか完全に放置されていた。



 「……おっ? ありゃあアンティカじゃねーか?」


 そんな下界の景色に視線を向けていたホーリィは、情熱的な赤い衣装に身を包んだ小さな点が、アンティカだと目敏く見定めていた。居城の登楼に係留された旗艦は、絶好の展望台と化していたので、眼下で繰り広げられている戦いが手にとるように把握出来、彼女の異質な存在感は高所から眺めていてもハッキリと判った。


 そして更に向こう側では、ホーリィの知らない二人の拳闘士が互いに激しく打ち合いながら戦っている。その状況は打撃が生み出す衝撃波が周囲に広がり、波紋のように辺りの地面を震わせて地煙が立っていた。


 「……すげぇなぁ……おっ? いいパンチ入ったな!! でも倒れねぇや……」


 独り呟きながら、次第にホーリィは自らの中に横たわる衝動を抑え切れずに居た。何故、自分は高みの見物などしているのか? 自分は何故、彼処に行かないのか? と。




 瞬く間にその衝動は律する上限を突破し、堪え切れずに立ち上がると背後のグロリアーナに向かって叫んでいた。


 「お前は後回しだッ!! 暇潰しに遊んでくるッ!!」


 そう言い残し、バルコニーの端から身を中空に踊らせると、艦橋から弾けるように飛び出して行った。






 「……宜しいのですか?」


 眉一つ上げず、無表情のまま見送ったアルマだが、女王に向かって短く問う。


 「……構わぬ。どうせ奴はまた此処に訪れるだろう?」


 まるで逃げ出した飼い犬がまた戻るとでも言うように答えたグロリアーナは、あっという間に登楼を伝って地面に降り立ち、慌てる兵士達に構わず走り抜けるホーリィに、



 「……奴はそう言う類いの生き物じゃ」


 そう断言すると、女王は口角を吊り上げて声を出さずに笑いながら、自らの玉座に深く座り直す。


 「それはそうと、そろそろ【外界】から返答が来るであろうしな……」


 彼女は自らの布石が功を奏し、現状が新たな局面を迎える事に微塵の疑いも持っていなかった。


 ……女王、グロリアーナは数多の【自由兵】達に接続していた外界との交信手段を遮断し、この世界に隔離幽閉していた。その方法はまだ解明されていなかったが、その影響は余りにも大きく、今まで一切干渉して来なかった【システム管理者】が彼女に接触の機会を設けようとメッセージを送ってきたのだ。



   《目的、要求、そして拘束しているPCの解放条件を速やかに提示せよ》


 それが、彼等からグロリアーナに対し発せられたメッセージである。彼女が竜人種に転生させられてから七十年余りで初めての事だった。







また次回も宜しくお願い致します!

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