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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章・ワタシはワタシ?
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⑨我儘に生きる意味。

一週間ぶりの更新です!




 人々が眠りにつき、騒がしかった宿屋にも静けさが訪れる。


 しかし、一階のパブのカウンターを兼ねた受付には不寝番の主人が陣取り、有り得ぬ事だが無賃宿抜けをする輩は居ないか、目を光らせている。



 「……やっぱりココかよ?」


 階下に降りてきたビトーが、一人で盃を傾ける友理の隣に座り、主人が応じる。


 「何にするかい?」

 「ナイトキャップ……じゃねえか、ゴッドファーザー出来るかい?」

 「ナメるなよ、若僧……ちょっと待ってな」


 主人がウィスキーにアマレットを垂らし、艶やかで乾いた音を響かせながらステアし、彼の前に差し出す。一口啜り、親指を立てると軽く鼻で笑いながら主人は二人に背を向けた。



 二人が肩を並べてカウンターに座り、一瞬だけ降りた沈黙の後、ビトーが友理に語り掛ける。


 「……この世界の連中は、良い子ちゃんが多いのか? 夜は飲まずに寝ちまうんだからよ」

 「そうでもないわよ? ほら……」


 と、友理が身体を傾けると、死角になっていた彼女の傍らからアンティカが顔を覗かせ、ちらりと舌を出した後、


 「全く……吸血種が夜に弱い訳ないでしょうに、ねぇ?」


 小柄な彼女は目の前に置かれた小さな盃から、透明な液体を傾けると飲み干し、静かにカウンターへと置く。主人が進み出て新しい酒を継ぎ足すと、ふっ、と息を吹いてから朱色の唇を湿らせる。



 「……で、何か聞きたい事があったのかい?」


 ビトーがアンティカに問うと、ふわふわと髪の毛を舞わせながら彼女が切り出した。



 「ええ、勿論御座いますわぁ♪ ……【向こう側の世界】の事、もっと知りたいのですぅ」

 「……何だって?」


 傍らに座った友理を見ると、彼と同様に聞かれていたのは明白で、


 「彼女、《自由兵》に尋ねてみたかった事があったんだってさ……だからこうして私とあんたを捕まえたって、訳みたいよ?」


 そう答えた友理に、フムと短く息を吐きながら返答を詰まらせたビトーはカウンターに肘を突いたまま、やがて観念して一口杯を飲んでから、


 「まぁ、いいか。何が知りたいんだ?」

 「あら! でしたら是非伺いたい事が御座いますぅ!!」


 アンティカはニッコリと華やかな笑みを浮かべてから、真っ赤な唇を開く。




 「【システム管理者】とは、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」

 「……ッ!? お、おい!! お前も聞かれたのか!?」

 「し、知らないわよ!! さっきまで全然そんな事言ってなかったわよ?」


 動揺する二人を余所に、彼女は全く動じる事無く首を傾けたまま、彼の返答を待っていた。


 ビトーは今さっきまで無害で只の人形だと思っていた存在が、突然正体を現して底知れぬ暗闇を内包させた、畏怖すべき魔物か何かだと気付かされて、言葉を失っていたが、やがて観念して、


 「……答えても構わないが、そんなモン、何処で仕入れたんだ?」


 そう切り返すのが、精一杯の抵抗だった。




 「その質問への答えは、とても長くなりますが、宜しくて?」


 アンティカは慌てる事もなく、そう答えると自らの来歴について話し始めた。




 ……要約すると、こうである。


 その昔、幼いアンティカは同様に幼い姉と共に、二つの世界へと分けられた。


 アンティカは闇の眷属へと輿入れし、吸血種として新たに生まれ変わり、姉は火竜の化身として竜人種に転生し、強者として覇王を目指した。


 彼女達を隔てた【システム管理者】は、二人に自分達へ課題を出して放逐したのだが、それは余りにも単純で、しかし複雑なものだった。


 《自らの欲求のまま生きよ。そして世界に足跡を残せ》


 二人は各々に意味を理解し、アンティカは長きに渡って世界の闇をさ迷い、欲望のままに寄生を繰り返しながら人々と関わり生きて来た。


 姉は竜人種としての正体を隠しつつ普人種と混じりながら生き、やがて一国の主として自らの地位を確立していった。


 そして、二人は長きに渡り大陸に生き、様々な人々の死に直面しつつ、知識と素養を得て行き、アンティカは遂に強烈なバランスブレイカーの『ホーリィ・エルメンタリア』に出会い、彼女の行く末を見守る為に新たな寄生先に選んだのだ。




 「私がホーリィさんを探す理由は単純ですぅ♪」


 まるで新しい引っ越し先を選んだ理由を述べるように、アンティカはさらりと語る。


 「魔力を奪い取り、そして付与する魔剣に見初められたなんて、宿主として最高では有りませんかぁ?」


 ただし、気付かれないように吸い取らないと、我が身の破滅なんですがね。そう付け加えながら、


 「そうそう! システム管理者は、姉と(わか)たれた際に少しだけまみえましたわ! 普通の殿方にしか見えなかったんですけど、ねぇ?」


 ビトーに向かって問い掛ける眼差しを向け、話を締め括った。




 「……システム管理者か……まぁ、たぶん……だが、そいつは……ッ!?」


 言い掛けたビトーが、何かに気付き言葉を止めた。その様子に友理も何事かと周囲を見回すが、特に変化は見られなかった。


 「……ねぇ、何か有ったの? ……ねぇってば!!」


 しかし、固まったまま動かないビトーに、思わず業を煮やして言葉を荒げた友理だったが、答えた彼の言葉は彼女の心臓を鷲掴みにした。


 「……いや、マジかよ!? ……俺達、ネットから切り離されてるぜ……」

 「ウソでしょ!? ……そ、そんな事……そんなの……」


 自分でも確認しようと様々な手段を講じたものの、友理は全く応答する気配を見せないホストサーバーに絶句するのだが……




 そんな二人の慌てる様子を横目に、アンティカは静かに盃を傾けながら、内心でほくそ笑む。


 (……あの火トカゲも、やっと重い腰を上げた訳ですねぇ♪ ま、尻が重かったのは事実ですけどね)



他の作品からこちらに来ていただいている皆様、これからも是非ご贔屓に。馴染みの皆様も、まだまだ続きますので、末永いお付き合いを!

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