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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
第二章・ワタシはワタシ?
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⑧鉢合わせ。

毎度お読みいただき有り難う御座います。



 「あー、やっと着いたぜ……」


 馬車の馭者(ぎょしゃ)台から身を躍らせて着地し、【ビートキング】が肩を回す。


 「尾藤(ビトー)!! いーかげん宿探さないと今夜も野宿よ!?」


 背後から友理に怒鳴られた彼は、ばつの悪そうな顔で振り向きながら、


 「……勘弁してくれよ……リアルの名前は止めてくれって言ってるじゃねーか……」


 束ねた髪を揺らして頭を掻く姿に、恵利は苦笑いする。(あー、絶対に尻に敷かれるタイプなんだな)と実感するが、口には出さなかった。



 辿り着いた町はグロリアス国の中核都市に属し、夕闇に包まれた界隈には町の住人と共に、戦時下らしく物々しい警備兵や自分達と同じような【自由兵】らしき姿が垣間見え、独特の空気を漂わせていた。


 「それにしても、宿屋に泊まらないとステータスが低下するなんて、酷な設定だな……ゲームなんだから割り切って欲しいもんだがな」


 誰に言うでもなく、ビトーは愚痴りながら馬車を馬丁に預け、恵利と友理に合流する。


 肩に届く髪を束ね、額に届く金属製の義眼付き眼帯を両目に装着した彼は、その六つの眼で周囲を眺めながら、


 「ふぅ~ん、俺らみたいな連中は居るみてぇだけど、コッテコテな奴は見当たらんなぁ……おっ? 何だよありゃ……腕が四本あるぜ? しかも……女?」


 そう呟く彼の視線の先には、黒テンの毛皮製帽子を被り、重厚なコートの上からでも判る独特のシルエットが示す【四つ手(フォーハンド)】の女性と、小柄な少女の二人連れが見えた。


 だが、彼以外の二人は全く異なる反応を示し、友理は一瞬だけ表情を強張らせ、恵利に至っては困ったように苦笑いしながら頬を掻いた。



 そんな二人を放置して、ビトーはコートの女に注目する。長い金髪を編み上げて垂す襟足は綺麗に整えてあり、優美な女性特有の色香を感じさせる。


 だが後ろ姿だけで醜美が決まる訳もなく、彼は引き寄せられるように近付き、立ち止まって話す二人の前に回り込む。


 「……やっぱ美人は後ろ姿も映えるってもんなんだなぁ……」


 ほう、と感嘆しながら彼は、凛々しく背筋を伸ばして宿屋の前で少女と話す姿を観察し、然り気無く横まで進み、脇目で盗み見ると、



 「……何か御用でしょうか?」


 冷たく感情を感じさせない声色ではあるが、生来の温もりを感じさせる柔らかな気遣いを帯びつつ、彼女が尾藤に問い掛ける。


 「あっ!? え、えっと……あ、宿屋はここで良いんですかね!?」

 「……看板が出てますけれど……あら? 恵利さんじゃないですか!」


 突然声を掛けられ言葉に窮し、慌てて問い返してしまった彼に困惑するクリシュナが背後で笑いを堪える恵利を見つけて声を掛けたので、ビトーは再度慌てふためく。


 「ひ、酷えなっ!! 知り合いならそうだって言ってくれよぉ~ッ!?」


 宿屋の前で思わず叫んだ彼が、周囲の注目を集めてしまい困惑する様に、恵利と友理は笑いを堪えるのが精一杯だった。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「いやあ~、ビトー最高!! アンタ相変わらずコメディ属性高いわ!!」

 「んだよっ!! そんな属性なんぞ微塵も持ってねぇっての!!」


 だんっ、とテーブルにジョッキを叩き付けながら、ビトーは友理に食って掛かる。しかし、見た目の強面とは裏腹に、彼女に対する姿勢は常に一歩退いたモノが感じられ、恵利の中で彼のポジションが【トップランカー】から【ペットランカー】へと格下げされていた。ペットランカー……って何それ?



 「……皆様が私達と同じように御姉様を探している、と言う事は判りました」


 彼女の言葉に表情を明るくした恵利だったが、次の冷たい一言に落胆を隠せなかった。


 「……ですが、馴れ合いで共に進むつもりは有りません。何故なら……そちらの友理様には、一度殺されかけましたから」


 互いの状況と今後を話し合って、仲間が増えると単純に考えていた恵利だったが、クリシュナの意思は相反する物だった。彼女は徒党を組んで進めば、必ず目的を果たす直前に彼女等を排斥しようと動くだろう……つまり、友理を信用していなかったのだ。


 「……しかし、今この場だけは……協力せねば宿()()()()()()()()()()()()ですからね……致し方有りません」



 宿屋は戦争特需に沸き立つ町の状況を受けて、空き部屋が限られていた。その組み合わせは四人部屋が一つ、そして一人部屋が一つ……つまり、否応なしに相部屋するしか手が無かったのだ。


 「ま~、俺はどっちでも構わないぜ? たまには友理も一人部屋で羽根伸ばして寝たいんじゃねーか? 昔から寝相悪かったしよ~」

 「うっ、煩いわね! そんな小学生の頃の話を今更蒸し返さないでよ!」


 どうやら幼馴染みらしい、と勘繰った恵利の生暖かい視線を無視し、友理はテーブルの真ん中に置かれた枝豆へ手を伸ばし、もむもむと噛み締める。


 結局、クリシュナは今だけの条件で恵利達と相部屋を選び、無事に宿泊へ漕ぎ着けたのだった。


 「ところでよ、探し回ってたお姫様は何処に行ったのか見当は付いたんかい?」


 ジョッキを空にしたビトーがお代わりを求めながら、クリシュナとアンティカに向かって差し向ける。


 「……それが、痕跡がプツリと途絶えてしまっていて……我々とは異なる方法で移動しているのではないか、と思っているんですが……」


 不意に弱気になったかのように告白するクリシュナは、ジッと目の前の杯へと視線を落とす。


 暫しの沈黙がテーブルを支配する中、唐突にアンティカが口を開いた。


 「……ホーリィさんは、一足先にグロリアス国の中枢に向かわれているのかもしれませんよ?」

 「そ、それって本当ですか!?」


 色めき立つ恵利を尻目に、自らのワイングラスを静かに回しながら、ゆっくりと琥珀色の液体を味わいながら嚥下し、ほぅ……と息継ぎしながら、


 「……空を飛べば、帝都まであっという間で御座いましょうから……それに、こう考えれば、寧ろ自然なのでは無いでしょうか?」


 そう独白するアンティカは、一度眼を瞑ってから物憂げに開き、


 「あれだけ目立つ存在でしょうから、敵味方の眼耳を集める訳ですし……奇異な者を好む女王が、飼い犬にしたがり手懐かせようと動いても……不自然では有りませんよ?」


 そう結論付ける彼女の指先が、グラスの縁を撫でると涼やかな共鳴音が、テーブルの上を滑らかに漂い、そして消えていった。




次回も宜しくお願い致します!

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