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悪業淫女《バッドカルマ・ビッチ》  作者: 稲村某(@inamurabow)
【第三部】第一章 ホーリィを探せ。
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⑧赤頭巾【ローテ・ハーヴ】。

侵食するマギ・ストライク勢。それはPCだけではなかった。



 《赤頭巾【ローテ・ハーヴ】》



 誰でも知っているだろう、グリム童話に登場する女の子である。


 渾名が示すように、トレードマークの真っ赤な頭巾を被ってお祖母さんの元へと遣わされるのだが、不幸にも空腹のオオカミに目を付けられてしまう。


 だが、紆余曲折有って……最後は猟師に救われるお話なのだが、果たして本当に赤頭巾【ローテ・ハーヴ】は女の子だったのだろうか?




 ……もし、猟師の助力を得られていなかったにも関わらず、独力でオオカミを屠れるような存在だったとしたら……


 と、同時に(成人女性)だったとしたら、という考察は封じておくが。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「見た目に騙されちゃダメッ!! そいつは(れっき)としたレイド・ボス(クラス)なんだから!!」

 「……友梨さんッ!!」


 ゆらゆらと不規則に動く、小さな標的に照準を合わせようと四苦八苦しながらアドバイスする友梨に、恵利は大きな声で問い掛ける。




 「……レイドボスって、何!?」

 「ええぇ……そこからなの……?」




 そう言い合いながら、小刻みに身体を揺らし射線を避けつつ接近してくる【ローテ・ハーヴ】に、牽制射を放つ友梨。そして迎え討つ為に構える恵利。



 十分に間合いは離れていた。だが、恵利は放たれた弾丸が全て敵の眼前で火花を散らして弾かれる様を捉えながら、一瞬視界が揺らいだ気がして、予感に従い一歩後退した。


 その瞬間、目の前を【何か】が通過して、恵利の身に付けていた衣服の中央を引き裂いた。


 「えっ? ……な、何よこれ……おヘソ丸出しじゃん!?」


 ほんの僅かだが破かれた紺色の衣服から露出した腹部(当たり前だが人形のボディに臍は無い)に手を当てる恵利だったが、彼女の視線が自らから相手に移った時、初めて何が起きたのかが理解出来たのだ。



 真っ赤な頭巾が紐で首に結び付けられたまま跳ね上げられて、銀糸のように艶やかで光輝く長い髪が伸び、意思を持つようにゆらゆらと動いていた。


 「ソイツは赤頭巾をモチーフにした【童話兵器(メルヘン・ワーフェン)】ってロボットよ!!」

 「ロボット……な、何だか古臭い……」


 正直な感想を告げた恵利だったが、友梨は恥ずかしそうに俯いて、


 「そっ! ……そんなの知らないわよ……私が考えた訳じゃないし……」

 「でも、それならあの体格じゃ、力なんて其れ程無さそうに……」


 そう言いかけた彼女は、脇に生えていた樹木を頭髪で千切り折り、手頃な投擲弾に変えるローテ・ハーヴを見て、


 「……じゃ、無さそうね……」


 と、言うのが精一杯だった。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 微細な髪の毛一本一本を、筋組織のように脈動させながら膨縮を繰り返して動かす仕組みなのだろう。しかしローテ・ハーヴの銀髪は決して足許まで届く長さでは無い。それでも更に頭巾の中にも収納されていたのか、かなりの範囲まで届くと見える。しかし、それでも恵利の元まで届くには短か過ぎる。


 「……やっぱりぶん投げたッ!!」


 恵利が叫ぶと同時に、左右に振り上げた樹木の断片を振り回してこちらに投げ付けてくる。


 流石に質量が違い過ぎ、双剣で受け止める訳にもいかず、右側へ身体を投げ出して避けるのだが、その勢いは留まる事を知らず次々と投げ付けられる。


 「うひゃっ!? ま、マジで激しいんですけどッ!!」


 びゅんびゅんと唸りを伴いながら投擲される、巨大な塊が恵利目掛けて迫り来る。時には跳ね、更に側転から受け身で地に伏せながら、辛くも避け続けるが、ふと目にしたローテ・ハーヴの身体が縮んでいるように見える。


 「も、もしかしたら……アイツ、全身が『髪の毛』なんじゃないの!?」

 「どっちにしても、近付かないと埒が開かないわよ!!」


 友梨の牽制射は(ことごと)く跳ね除けられ、相手に傷一つ付けられていない。おまけに恵利の見立てが的を得ているならば……小柄なローテ・ハーヴを捉える事は更に困難になるだろう。


 恵利にだけではなく、友梨へも木を千切りながら投げ付ける余裕すら見せる敵に、手にしたハンドガンの残弾数を意識したその時、頭上を木から木へと跳び移りながら、何者かがローテ・ハーヴへと飛び掛かって行った。



 【……アナタ、オトモダチ?】


 「うっせぇ!! ゴミ屑!! くたばれッ!!」


 ローテ・ハーヴの頭上から、真っ黒な人影が悪態を吐きながら握り締めて固めた両拳を振り下ろしながら降下する。


 防御体勢を取ろうと銀髪を背後から頭上に回すローテ・ハーヴだったが、その相手は気にする事無く、勢い良く振り下ろす両拳を叩き付けた。



 ばぢいっ!! と、苛烈な放電を伴いながら銀髪を焼き切りつつ切断し、小柄なローテ・ハーヴの脳天目掛けて落とされた両拳が、真っ白な閃光と火花を散らしながらローテ・ハーヴを直撃する。


 【ハひィっ!? ア、ヴ……】

 「ガキの成り晒しやがってウゼェんだよッ!! 黙って鉄屑に成れッ!!」


 吐き捨てるように叫びながら、握り締めた拳を引き絞るように右肘を背中に回し、帯電の閃光を迸らせながら裂帛の気合いを籠めた雄叫びを上げる。


 「は あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ あ あ あ ッ ! !」


 そして右左右左右左右左右左右左右……と、形振り構わぬ暴力の連射、更に力任せで野放図な【殴りっ放し】を繰り返す。


 いくら相手が人外とは謂えど、見た目はヒトの形をした存在である。流石の恵利も止めようと足を踏み出そうとしたのだが、


 「……雷属性付きのスタングローブに、過剰な位の筋力全振り……相変わらず変わらないわね? ランキング一位の【チートキング】さん!」

 「……チートじゃねぇから!! 【()()()()()()】だっつーのっ!!」


 知り合いなのか、友梨の挑発的な言葉を背中で受け止めながら、真っ黒な革ジャンと革のズボンに身を包んだ相手は、見るも無残な程に殴られて原型を留めていないローテ・ハーヴから身を離し、ゆっくりと二人の方へ振り向いた。


 「……んぁ!? おめ、五位の笑いネーチャンかぁ!! はっ!! グダグタ遊んでっから上に上がらねぇんだよッ!! ……って、連れ居たんか?」


 肩まで伸びた髪を編み込んでだらりと垂らし、左右に三つづつの義眼の異相が目を引くその姿は、恵利をドン引きさせるのに充分な破壊力であった……。



 「……よっ!! 俺はビートキングってんだ!! 宜しくな!!」

 「……あ、恵利って言います……こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」


 二人は互いに自己紹介を済ませた後、友梨と合流して無人になった馬車へと戻っていった。





ついでに他のゲームの一位まで来ちゃいました。次回も宜しくお願い致します!

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