⑩着陸地点死守
一日であんまり書けなかったのは……呪いか? と勝手に解釈しながら更新します!
弩弓兵の放った矢が、放物線を描かずに一直線に飛来する。
その一本がホーリィの喉元へ、大気を切り裂きながら瞬きする間もなく到達し、鋼の矢尻が彼女の柔らかな……
「ハッ!! ……トロくてアクビが出ちまうんだけどさ……」
……皮膚に到達する前に、小さな掌が瞬時に掴み取り、つまらぬ物とばかりにポイと投げ捨てられる。ホーリィ以上に目立つクリシュナにも、矢が放たれはしたが四本の剣が滑らかに舞い、バラバラと足元に切り裂かれて落下していく。
「……さて、降着地点確保の前に……軽く味見しとこっかな……?」
矢を投げ捨てたホーリィが両手に双剣を持ち、鷹馬の鐙の上に立ち上がりながら斜面を加速させていく。悪目立ちしているホーリィに、連続して放たれた弩弓の矢が纏めて殺到するが、滑らかに振るわれる双剣に阻まれて一本も彼女を傷付ける事は出来ず、やがて斜面の突端に鷹馬が差し掛かる。
その手前でホーリィが身を屈め、丘の稜線を鷹馬が越えた瞬間……
「……いいいいぃっ、けえええぇぇぇーええッ!!!」
極限まで身体をバネのように縮めたホーリィが、爪先から脹ら脛、腿から背筋腹筋……全ての筋肉を総動員し、跳躍するっ!!
……ばつんっ!! と鐙から何かが弾けるような音を立てながら、強烈な勢いで放たれた彼女が驚愕で目を見開く弩弓兵の一人に飛び付くが……
「へっ♪ まーずは一人目~っ!!」
……大胆に開いた片脚を首に絡めるようにしつつ、そのまま後方へ身体を回す。そうしながら片方の足首を相手の脇腹に引っ掛けて、股ぐらでそのまま首を締め付けながら倒れ込み……
「……うひひ♪ 幸せな死に方じゃな~い? ……乙女の股で絞め殺されるなんて……さぁっ!!」
……文字通り万力のような締め付けで瞬時に頸動脈を圧迫し……犠牲者が意識を失って力無く後方に倒れる最中に、止めの刃を脇の下から心臓へと捩じ込み、柄を捻って引き抜く。共に地に落ちる寸前で犠牲者から後転するように身を離し、軽やかに着地する。
「ま、やっぱり最後はいつもの刃物なんだよね~! 悪りぃなぁ、嘘ついてよ!」
そう言いつつビュッ、と血振りをし、丘の上に鮮血を飛び散らかす。手慣れた様子で呆気なく兵士を瞬殺するホーリィの姿を目の当たりにし、弩弓兵達に戦慄が走ったのだが、
「……酷いです、御姉様……仲間外れは止して下さいませ?」
カカカカッ、と骨を削る音が鳴り響き、外縁に居た兵士の一人が言葉を発する間も無く骸と化す。背後からクリシュナの撫で斬りの四刀を受け、呆気なく首を切り落とされたのだ。
「ああ……何と言う事!……先日まで友軍だった宗主国の兵士と剣を交えるのは……言い知れぬ背徳感で……胸が張り裂けそう♪」
言葉とは裏腹に、満面の笑みを整った顔に浮かべながら、クリシュナがゆらゆらと四本の腕を揺らしながら歩く。
腰を捻るように一歩一歩、白銀の胸当てを輝かせつつ歩く様は、まるで戦乱を産み出し拡散させる死の女神の如し……そしてそのまま弩弓兵の方へと近付いて……。
「く、来るなッ!!」
弩弓兵の一人が弦を鳴らしながら矢を放つが、クリシュナは笑みを崩さぬまま手にした剣で無造作に叩き落とし、ゆっくりと歩み続ける。
「うん? ……それが貴方の乾坤一擲ですか? ……悲しいですわ、この程度の足掻きが私に通用すると思われているのが……」
しゅしゅしゅ、と三本の腕に握られた剣が風を切り、間近に居る弩弓兵の身体を容易く引き裂く。斬られた自覚が無かった兵が自らの身体に起こった事を認識した瞬間、中心から両断された兵士が左右に別れて深紅の池を作り、ざばりと沈んで沈黙する。
その一人を皮切りに、二人は守備の歩兵も弩弓兵も見境無く切り伏せて、ローレライが着陸する地点としての露払いが冷徹に続けられていく。
やがで圧倒的な力量差を見せ付けられた僅かな生き残り兵達が、手にした弩弓を手離し一目散に逃げ出すのを見送りながら、クリシュナはやや悲しげにホーリィを見返し、
「……御姉様、残党狩りは余計な事に成りますでしょうか?」
「あー、ほっとけゃいーんじゃねーの? ま、取り敢えず鷹馬を集めてグランマが来るまで待機しとこーか」
答えるホーリィに、笑顔を取り戻したクリシュナだったが、
「ええ、そうした方が宜しいかと思いますが……新手がやって参りましたよ?」
剣で指し示す丘の下に、見慣れぬ鎧を身に纏った騎士の一団が現れたのを見たホーリィは、
「んぁ? 新手か……って、ありゃ……宗主国の親衛隊か!? ……やっと出るもんが出てきてくれたって訳かい? バマツ、ワタシとアジの馬の面倒見といてくれな!!」
「ええぇっ!? ちちちょっと待てってばオイッ!! ……参ったなぁ……!」
言われて狼狽えるバマツを置き去りに、嬉しそうに舌なめずりをしつつ掌の双剣をくるくると回してから丘を一気に駆け降りて、五百程の騎士の一団と相対した。
丘からやや離れた場所に待ち構えるように銀の鎧と盾、そして剣を提げた騎士達は居た。奇襲した拠点が射ち下ろしに向く丘の上とあり、同様な手段で狙い討ちに合う事を警戒して近付かないのだろう。
(……コッチが騎馬で襲撃したって知らないのか? まぁその方が時間が稼げていいけどよ……)
向いていない戦術的な事を考えてから、頭を振って思考を追い出す。これからの戦いに要らぬ事と置き去りにし、ホーリィは新たなる敵へと一人、歩を進めていった……。
そろそろエロ路線が枯渇してきました……次回こそ……?