第7話 「大神」
「だからやっぱりルーはお爺ちゃんなのです。」
「マジか。二十歳前に子どもを産む世界なら、確かに俺の歳ならお爺ちゃんになっていてもおかしくない計算だが…。」
「でもルーは髪の毛以外は若く見えるですよ?」
「ありがとう、気を使ってくれて。」
ルーガルーこと大神 聖の年齢は41歳である。
いわゆる厄年らしいが、異世界に飛ばされるというか飲み込まれるほどの厄とはなんだろう?とふと思ってしまっている。
背は180センチまでは届かないくらいの背で、細身。
短めの若白髪をオールバックにしており、目つきがキツイのでヤクザっぽい印象を受ける。
人化した時は全裸だったのだが、さすがにそのままはマズイので、この世界に来てからなぜか覚えた魔法で執事服のようなデザインの服を出し、それを着ていた。
なぜ執事服なのかというと、魔法使用後のデザインの選択肢の最初がそれだったからだ。
厳密にいうと、最初の選択肢はメイド服だったのだが、性別を選ぶとそれが執事服になって自動的に着た状態になったのでそのままにしている。くらいの理由である。
そんな姿で白梅を膝の上に乗せ、今は雑談をしたり、この世界のことを白梅から教わっていたところで部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はいなのです。」
「従魔を洗うための水の用意が出来ました。」
「ありがとうございますなのです。」
その声にそのまま部屋に入ってくるのかと思って慌てて狼の姿に戻った大神だが、「では失礼します。」と言って離れていった様子なので、また人の姿に戻り直す。
「水の用意って、運び込んでくるんじゃないんだ。」
「上の階に貯水槽?があって、そこに水やお湯を入れてくれると、こっちの部屋の蛇口やシャワーから水やお湯がでるのです。
たぶん今回はお水だと思うですけど我慢して欲しいです。ルー。」
そういって大神の手を引きながら浴室へ案内する白梅。
浴室といっても案内された場所には浴槽は無く、洗面所や水洗トイレも兼用のスペースのようだ。
浴槽の代わりにシャワーが4つほど並んでいるので、それなりに広い。
「でもルーはさっき狼の姿になってた時、汚れてなかったです?」
「ああ、姿を変えるたびに外見が整えられるらしい。」
「便利なのです。」
「それはそうと色々あったので風呂に浸かってゆっくりしたい気はするが、この世界でそれは贅沢っぽいな。」
▽▽▽▽▽
「え?これ水槽じゃないのです?」
▽
「え?お湯も出るのです?」
▽
「え?これに入っちゃうのです?大事なお湯にそんな事して良いのです?」
▽
「このブクブクはなんなのです?」
白梅は大神が魔法で出した空間の中にある浴槽がとても気になるようだ。
今も、ちょいちょいと猫の手のような感じでバスバブルの泡を触ってみている。
「白梅も気になるなら入ってみるか?」
「いいのですか?入るのです!」
そういって浴室から消えていく白梅。
それじゃ、風呂から上がって交代してやらないとな。と立ち上がった大神だが、浴槽から足を出す前に裸の白梅が浴室に飛び込んできた。
アルビノのせいか、透けるような白い肌に細く長い手足。
女性としては完成されていない緩やかなカーブを描く華奢な身体なのに胸は確かに女の子だと主張するように僅かに膨らんでいる。
っていうか、隠せ。と大神はまず素直にそう思った。
大神はロリコンではない。
年相応に熟女まではいかないものの、柔らかな曲線を持ったスタイルの女性。
いってしまえば、ちょっとムチムチしているくらいの三十路前後の女性が好みである。
スタイル的な話だけでいえば、少し細いものファーリーの体型が比較的近い。
シチュエーション的には人妻とか最高だ。という、年相応のおっさん趣味なのだ。
そんな大神から見ても、白梅の裸は見惚れるくらい美しい。
まるで天使か妖精のような中性的な美しさ。とでもいうのだろうか?
今、女性としてこの瞬間しか無い、独特の儚さを伴った美がそこにあった。
「白梅の身体に何かついているのです?」
「いや、何もついていないから問題なんだよ。タオルか何かで隠さないのか?恥ずかしいだろ?」
「恥ずかしくないのですよ?」
そういって浴槽に入ってこようとする白梅を押し留め、シャワーをかけて追い詰める。
まずは身体を洗ってから入らせよう。
鼻が敏感な狼形態や人狼形態の時から思っていたのだが、大神の感覚からすると女の子なのに結構臭うのだ。
白梅が。というわけではなく、ユウキもファーリーも臭う。
そこまでは行かないものの、この居住区にたどり着くまでにすれ違ったシスター達も、大神の感覚からすると臭いが濃いので、もともとの生活習慣の問題なのだろう。