第1話 「人狼」
新連載です。
世界観や主人公の能力などは「サキュバスさんの家族計画」と同じだったり類似してたりすので、スピンオフ的なお話ですので、よかったらそちらの作品もどうぞ。
「サキュバスさんの家族計画」
https://ncode.syosetu.com/n3240ez/
魔力が満ちて部屋の中の空気も大きく震え渦を巻く。
「手応えありよ!ユウキ、隷属の魔法のスクロールを!」
「OKファリ!念の為『変成の腕輪』で威力マシマシでいくわ!」
「白梅は怖いです。こんな魔力ありえないです。」
魔力が渦巻き、光りが溢れる魔法陣がかかれた台座に三者三様の言葉が向けられる。
ここはとある迷宮のとある隠し部屋。
今、迷宮の魔力を利用し、恐るべき召喚術が形になろうとしている。
その召喚を行っている者の名前はファーリー・サラ・ネローネ。
金髪碧眼の女神を思い起こさせるような美女で、そのふわっとした金糸のような美しい髪を耳の上のところで後ろに編み込んでいるのが特徴的な聖神大教会の修道女だ。
そんな彼女がなぜ召喚術を使えるのか?
それは彼女の身体を流れるネローネ王家の血に秘密がある。
神から授かったという王族の魔法、勇者召喚。
彼女は修道女でありながら、その余りある魔法と魔術の適性、そして一族の中でも天才と呼ばれる兄の助力により、この召喚術を成功させようとしている。
その横で魔法のスクロールを構えている者の名前はユウキ=マドノ。
ポニーテールにしている黒髪が快活なイメージを与える。
白銀の鎧などを来ていなければ、どこかの部活帰りの女子高生に見えるだろう。
実際彼女は、聖神大教会からこの世界に勇者として召喚される前までは日本の女子高生だったのだから当然だ。
魔族を、そして魔王を倒すため、この異世界に呼ばれた彼女は、勇者としての強大な力に加え、また新たなる力をその手中に収めようとしている。
二人の後方で怯えながらも備えている猫人族の娘の名は白梅。
アルビノである彼女はその真っ白なミディアムショートの髪と、その上についている猫耳を両手で抑えながら、その赤い瞳で二人の行動を見つめている。
彼女は巫女、つまり亜人族の魔法使いだ。
氏神から授けられた巫術を操る彼女だが、術式が全く違うこの召喚魔法に対しては助力は不可能だ。
いざという時に備え、呪符を含めた術の準備をしながら見守っている。
「来たわよ!相手が動く前に拘束して!」
「行くわよ!全員を主として三重に縛るわ!」
そういってユウキはスクロールを広げる。
左腕についているウエラブルデバイスを思わせる『変成の腕輪』が輝き、魔法陣に実体化した『それ』を、スクロールから出た鎖を思わせる光のエフェクトが縛り上げ、そして巻き付いたかと思うと、その首に光が収束していく。
「召喚時の魔力を利用して『隷属の首輪』を相手の肉体に刻み込む術式。やっぱりお兄様は天才ね。」
「手応えはあったわ。レジストはされていないけど、これタイミング遅かったらヤバかったよ?」
「暴れる様子はなさそうです。」
光と魔力が収束して、魔法陣の上に現れた『それ』は、月の光とその影を思わせる2色の毛並みを持ち、大地をしっかりと掴む大きな足から伸びる爪と顔の前を交差させている長い爪を指の中に収め、ゆっくりと振り返る。
ピンと周囲を警戒するように立った耳。
鋭い眼光。
大きく裂けたようにも見える口。
そして、魔力がまだ安定しないのか、その首に赤く光る首輪のような紋様。
こうして3人は新たなる力、『人狼』を手に入れた。
「僕たちの言葉は分かる?」
ユウキの言葉に少し考えたようだったが人狼は頷く。
「ちゃんと予定どおりかしら?『命令よ 狼におなりなさい。』」
ファーリーの言葉には頭を傾げたものの、人狼は一鳴きしたかと思うと四足をついた。
身体つきがみるみると変わり、一回り小さい狼の姿へと変わった。
一回り小さく、と、いっても耳も含めると2mちかい身体が姿を変えているため、大型犬くらいの大きさはある。
「ユウキ…」
「ファーリー…」
二人は満足そうに笑顔で見つめ合っていたかと思うと
「ケモケモ奴隷ゲットですわね!」
「やっほう!異世界バンザイ!これよこれ、こういうのが欲しかったのよ!『命令!人狼に戻りなさい』」
狼がまた一鳴きすると、四つん這いから二足歩行に、そして元の人狼の姿に戻った。
「いいねー!じゃ、僕1番!」
「ずるいわ!ワタクシが召喚したんだから私が先よ!」
「僕の奴隷だってば。」
「ユウキが三重に縛ったんでしょ?ならワタクシの奴隷でもありますわ!」
そんな事を二人が言い争っているのを尻目に白梅が人狼に声をかける。
「白梅の名前は白梅、あなたは?」
人狼はまた首を傾げ、何かを考えたかのような仕草をした後に
「俺の名は、ルーガルー。らしい。」
そう答えた。
「そう、ルーガルー。御免なさい、貴方が必要なのです。」
白梅はその小さい身体ごと背伸びをするかのようにルーガルーの目を見つながら、どう説明したものかと考えていた。