第16話 転移
2035年4月31日転移まで残り数時間に迫った。日本は世界で1番保有していた海外資産を全て資源や技術に変え日本に持ち込んでいたのである。それまで自国で最高機密の技術を日本の技術を引き換えに交換したのである。もし転移しなければ日本の国際競争力が大きく下落する事は確実だ。
4月17日には海外に展開していた全自衛隊部隊が国内に戻ってきた。更に海外の日本大使館の職員も日本に帰国した。
更に2ヶ月以上も異世界に放置されている北海道に対する医薬品などの援助の為に2万人の自衛官が青森県に配置され青森県にある海上自衛隊大湊基地には輸送艦が救援物資を搭載して今か今かと待ち続けていた。
そして2035年5月1日、日本国はこの地球から姿を消した。
まず日本消失を確認したのは日本と取引していた証券会社であった。そしてたまたま日本上空を飛んでた衛星、ISS(国際宇宙ステーション)であった。その事を知った政府関係者はここ数ヶ月間の日本政府の異様な行動の理由が分かった。
高値の資源を買い占め、自国の技術と引き換えに自国の技術を日本が購入した。更に自衛隊の日本引き上げ、日本大使館の職員の帰国などである。
そしてもう一つ各国政府の調べで判明した事がある。日本にいるはずの自国大使館職員や旅行者、ビジネスマンが自国の公園などに一斉に現れ、自国にいるはずの日本人が全て消えていたのである。
日本人と海外の人が一緒に乗り込んでいる船舶や航空機なども日本人のみが消えているのである。飛行機のパイロットが日本人なら、パイロットは消え無人の操縦室は誰もおらずそのまま飛行機は無人操縦で滑走路に降り立ち、空港に着いてから判明したものなど沢山ある。
各国政府は青ざめた。日本が世界に輸出している電子部品やロボット、充電池や自動車、経済的被害だけでも兆は軽くいく。
更に軍事的にも日本の消失は大問題であった。日本の軍事的拡大により急速に右翼化した朝鮮や事あるごとに海外進出を狙っているロシアなど日本の軍事的圧力により抑えられていたのがここになって爆発すると考えられたのである。
しかし朝鮮政府やロシア政府もそんな考えは微塵も無かった。何故なら日本の消失により国が崩壊寸前であったからである。つまりそれだけ酷いという事だ、2019年の中国の経済危機で一挙に不況になったヨーロッパは日本の助けもありなんとか持ち直してきたのである。それがここになって日本の消失である。更なる復興は絶望的であった。
2032年の石油危機で国が破綻したサウジアラビアでは治安が急速に悪化、テロリストが多く誕生していた。しかし日本のODAにより3年経った2035年には治安も大分持ち直してきたのである。
もう世界経済は1939年の世界恐慌、2008年のリーマンショック、2019年の中国経済危機、2032年の石油危機、その中のどの危機も日本消失の前ではとても軽いものだった。それだけ世界は日本に支えられてきたのである。
2035.5.1
日本国 首都東京
総理官邸 危機管理センター
01:43 JST
「総理、各離島に配備していた全ての陸自部隊から報告が来ました。どうやら転移漏れは無かったようです。」
防衛大臣が吉田総理内閣大臣に報告する。
「北海道を確認しました!衛星をロスト、更に対馬の部隊から朝鮮が無くなっていると報告が、転移したと思われます。」
情報大臣が転移した事を総理に報告する。
「よし、では青森に待機している部隊をすぐさまに北海道に……」
総理の言った事は北海道消失担当長官の報告で遮られた。
「実は連絡がとれたのですが、向こうが転移したのが2時間前だそうで、」
「は?俺達の苦労は何だったんだ?」
その後青森県に集まっていた北海道救難隊は解散され、青函トンネルも開通していた。
「では、どうします?総理。」
「まぁとりあえず地球とは違う星に来たんだから陸地を探さないとな、第1〜第5護衛艦隊群全てに出動命令を。あと各地の対潜哨戒機にも陸地探しさせといてくれ、頼んだぞ防衛大臣。」
「分かりました。総理は?」
「私はこの事を国民に話す義務があるからな、官房長官7時30分に記者会見を。」
そう、国民はまだ日本が転移した事も、北海道があった事も、転移に向け日本政府が準備していた事も何も知らないのである。
「分かりました、各マスコミに連絡しておきます。」
「頼んだぞ。」
2035.5.1
日本国 首都東京
総理官邸 記者会見室
07:28 JST
『ここでニュースをお伝えします。今日午前7時30分に吉田内閣総理大臣が国民に向け緊急発表をすると各マスコミに通達がありました。では現場を呼んでみましょう。佐藤さーん。』
『はーい、佐藤です。現在総理官邸の記者会見室に居ますが吉田総理はまだ会見室には来ていません。』
『それは吉田総理が遅刻しているという事ですか?』
『あ、いえまだ2分あるので遅刻というわけではありません。おそらく日本全国で発生している通信障害についての事だろうと思われます。巷では北海道と一緒に転移したのでは?という噂もありますが定かではありません。ん?あ!吉田総理が来ました。』
そして記者会見室に入室した吉田総理は立て掛けてある日の丸の日本国旗に一礼をして会見を始めた。
「おはようございます。内閣総理大臣の吉田総理です。今回国民の皆さんにお伝えしなければならない事があります。」
記者会見室がざわつく、しかし皆記者である為すぐに騒めきは落ち着く。
「まず嬉しい発表から致しましょう。先程消失していた北海道との連絡が繋がり無事が確認されました。」
記者会見室はヒートアップし、記者達が矢継ぎ早に質問をするが忍田官房長官が「質問は全ての発表が終わってから」と言うと無駄だと分かり途端に静まる。
「報告によると北海道は2時間前に日本本土との連絡が途絶えたと話している事から一時的なタイムスリップしたと考えられます。また途絶えていた青函トンネルも繋がり現在点検を行っています。」
北海道が一時的だとは言えタイムスリップした事にテレビの前の国民は興奮する。
「そしてここからが1番重要な事ですが、現在日本全国で通信障害が発生しています。また日本国宇宙研究開発機構JAXAによると全ての人工衛星との連絡が途絶えました。よって航空機の運航は禁止とします。そして国立天文台から星の位置が変わっているとの報告があり、諸外国との繋がりが全て途絶えました。
よって日本国は地球では無い別の星に存在すると考えられます。つまり小説で言うところの転移です。」
もう記者会見室は史上最高とも言えるヒートアップをし、各自治体や警察、消防への通信はパンクし、一時的にシステムがダウンした。
「しかし日本政府は北海道消失の際に日本も消失するのではと閣議で考え、日本国が保有する全ての外貨や資産を資源や技術に変えました。そのおかげで日本の借金は400兆円程減りました。
更にアメリカやロシアなどの各国の資源は枯渇しました。日本は高値の資源を全て購入し、少なくとも日本国の年間消費量で言うと3年分はあります。
日本国は1年で約12億バレルの石油を使用します。現在日本政府が貯蓄した石油が30億バレル、民間が8億バレルの計38億バレルの石油があります。更に天然ガスやその他の資源もかなり蓄えています。」
吉田総理は石油は3年分以上あるから心配するなと言う、2018年時には日本は年間20億バレルの原油を使用し、200日分しか貯蔵していなかった。
それが17年で使用量が5億バレル減少し、官民合わせて15億バレルであった原油貯蔵量を23億バレル増やしたのである。
転移判明時には官民合わせて30億バレルであったので経った3ヶ月足らずで8億バレル増やしたのである。からは吉田総理や忍田官房長官の手腕であろう。
「私は先程海上自衛隊に対し陸地を探す為出動を命じました。きっと陸地を見つけてくれるでしょう。資源が枯渇した地球より遥かに希望があると私は考えています。
日本の海外資産を引き換えに海外の技術も購入しました。きっと地球より素晴らしい世界があると私は信じています。これで私の発表を終わります。」
そして待ってましたとばかりに記者からの質問が飛び始めた。結局記者会見が終了したのは質問開始から2時間後であった。