第15話 前兆
2035年2月15日、朝鮮戦争終結から16年、南•東シナ海戦争終結から11年経ったこの日、最初に異常を察知したのは本州と北海道を結ぶ青函トンネルに居た人々であった。
青函トンネルは鉄道が通っており、青森から北海道に向かっていた電車が緊急停止したのだ。津軽海峡の海底で土砂が流入してきたのだ。最初はトンネルが崩落したかと思い緊急停車して急いで地上に出たのである。
さらに青森県と北海道を結ぶ結ぶ連絡船から北海道を消失したと海上保安庁や警察に相次いで連絡が消えたのである。
青森県から要請を受け受けた海上自衛隊八戸航空基地に所属するP-3C対潜哨戒機が北海道に向け飛行した。
しかし本来北海道があった場所にはただの海が広がっていたのである。そうまる一晩で北海道がまるで煙のように消えたのである。
そして外務省は海外の駐外大使館から日本に入国を確認した筈の外国人が突如海外の公園や空き地にいきなり、出現したのである。
現れた人の共通点は北海道にいたという事である。その日のうちに官邸には対策本部が設置されて青森県の津軽海峡側にはマスコミが大勢押しかけた。
北海道が消失した最大の被害は食料であった。北海道は日本の穀物地帯と呼ばれる程麦やジャガイモなどの生産が盛んで日本の食料自給率がカロリーベース基準で39%から60%台になったのも北海道のおかげである。北海道が消失してしまうと30%にまで落ち込んでしまう。
さらに国防の面でも深刻であった。北海道に海上自衛隊の基地は無いのだが、航空自衛隊は千歳基地や択捉基地があり、戦闘機や対潜哨戒機、輸送機の合計200機弱が一晩で消えたのである、3日前から行われていた演習 も一因がある。しかし1番の被害は陸上自衛隊であった。北海道には日本唯一の機甲師団である第7師団などその他合わせて合計5つの師団や旅団を配備していた。それらが装備ごと丸々消失してしまったのである。
更に2032年時点で北海道は日本政府の情報立国計画に基づいて北海道各地に国内外の企業のデータセンターが建設されていた。更に情報省が管轄していた情報が北海道消失に伴い消えてしまったのである。
日本以外の各国政府は北海道消失を資源現象と予測し、その観測に躍起であった。単なる人ごとのように。
しかし日本政府は深刻であった。北海道が消失したならば別の世界に転移したと考えるのが日本人ならば自然である。すると日本の他の地域も転移すると考えたのである。ISSから撮られた写真では日本が無い写真が撮られるなど不可解な事が相次いでいた。
2035.2.17
日本国 首都東京
総理官邸 会議室
16:22 JST
「ではこれより北海道消失に関しての会議を始める。」
羽田総理に代わり2035年には吉田総理が日本の内閣総理大臣を務めていた。
「ではまず今の現状を忍田官房長官から説明してもらう。」
「はい、事は2月15日に青森県警察などに北海道が無くなったとの110番通報が相次いだ事から始まります。9:22分海上自衛隊八戸航空基地から確認の為P3C対潜哨戒機2機が飛び立ちます。そこで公式に始めて北海道とその周りの島の消失が確認されました。」
忍田官房長官が北海道の消失判明に至るまでの事を淡々と話す。他の大臣や有識者はそんな事有り得んという表情で黙って頭を抱えていた。
「北海道の消失により北海道にサーバーを置いていた国内外の12の会社から報告が来ております。更に北海道で生産されていた食料の確保も重要です。自衛隊の被害も深刻でこれまでに判明しているだけでも7万人以上の隊員が北海道と共に消えました。
もし北海道が別の世界に転移したと考えても燃料の面や食料の面、防衛に至るまで北海道は全て自給できるだけの力を持っています。
今回の会議の目的は日本も北海道が転移した世界に一緒に転移すると考えそれに対して対策するという事です。」
忍田官房長官がまとめをし、会議の目的を再確認する。
「そんな証拠も無いのにそんな事出来るのか?」
荒瀬財務大臣が反論をする。彼の言い分も最もである。
「この事はマスコミに発表していませんが、空間力学の権威である野口教授が先月お亡くなりになりました。
野口教授は日本政府宛にこれまでの研究成果を纏めた手紙を送りました。そしてその手紙の内容によると北海道消失の事を日時に至るまで的確に当てていました。
そして5月1日に日本全域が北海道と同じ世界に転移するで締めくくられていました。この手紙の信憑性を考えると妥当だと思いますが?どうお考えですか荒瀬財務大臣。」
吉田総理が反論も辞さないという口調でわざと最後は丁寧に荒瀬財務大臣に聞き返す。
「北海道消失の事が的中していたならその手紙の信憑性はあるでしょう。転移する前提で話をするのも頷けるかと。」
転移の話する前にさっさとその手紙の事伝えろや!と大阪出身の荒瀬財務大臣は心で思っていた。
「では情報省から、この件につきましては機密の整っている情報省で計画についてはおおまか不眠不休で仕上げました。」
ここ3日間の情報省の建物は全ての部屋の明かりが点いていた、おそらく3日間不眠不休でこの書類を仕上げたのだろう。
「まずあと2ヶ月ちょっとでする事は3つです。国外に展開している自衛隊を北海道消失による穴埋めと理由をつけて国内に呼び戻す事が1つ。日本が保有する対外資産を全て化かしてその金で出来るだけ多くの資源を購入する事。
そして日本が持つ技術と引き換えに海外の企業、国が持つ技術をもらう事。この時アメリカなどには自衛隊の保有する兵器をブラックボックス無しでもらう事が条件です。」
「民間の協力も必要になるな、経団連には伝えておくか、あと海外の政府には事情を伝えないとな、信じるかは分からんが。」
「日本の持つ技術と交換ですからね、転移の話は信じる信じない別として話には乗るでしょう。」
「すみません、皆さんに報告する事が資源エネルギー省から1つ。」
「なんだ?」
「アメリカのシェールオイルの生産輸出に制限がかけられました。石油に続きシェールオイルも枯渇寸前かと。」
「この世界も長くは無いな。」
吉田総理がそう呟く。その呟きはこの会議参加者の心情を表していた。
そうこの世界は資源が枯渇しかけているのである。2032年に石油が枯渇した事が発表された。しかしアメリカやロシアなどでシェールオイルの増産が行われ世界は耐え抜いた。しかしそのシェールオイルも枯渇しかけているのである。
アメリカは新たに40基もの原子力発電施設を建設、石油からの脱却を目指した。こうした動きが世界中で広がっているのである。日本も石油火力発電所は数ヶ所しか稼働していない。後は天然ガスか石炭だ。
その後アメリカ政府との非公開交渉で日本製の電子機器の設計データや、排気ノズルの技術と引き換えにアメリカが開発したF-35、F-22、B-2や無人機、そしてイージスシステムのブラックボックス無しでの交換が成立した。
また秘密裏に小型の戦術核爆弾200発を購入した。この核爆弾は全て秘密裏にSLBMで運用する予定である。
そしてこの交渉でアメリカの残りのシェールオイルを日本が全て購入する事も決定された。そしてアメリカとの取引により日本政府が保有していたアメリカ国債は全てアメリカ政府に返還された。
勿論この事は秘密である為国民には何も知らされていない。また他の諸外国にもアメリカと同じような交渉で資源や技術などを獲得していった。これにより日本が保有する対外資産は全て消えた。日本は着々と転移の準備を進めていた。
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「先輩、すみません、ちょっとこれ見てくださいよ。」
「ん?なんだ?」
「海だけだな、陸地無いのかよ。」
「そうなんですよ、どうしましょう。」
「よし、俺の所のニホンって言う国を持って行こう!」
「えええ!?いいんですか?そんな事して。」
「大丈夫、大丈夫、どうせ俺の所、後100年もしないうちに人類絶滅するから、それにこの国前から好きだったんだよなぁ、転移させるついでにエネルギーも1万年分くらいあげようっと、」
「でもニホンだけじゃあ寂しいですね。」
「そうだなぁ、他の星からも幾分か国を貰って行こう。ん?こいつら邪魔だな、まぁいいか転移時に排除しようっと、じゃあとりあえずホッカイドウって言う土地、先転移させといて、準備させたいし。」
「了解。」
〜しばらくして〜
「先輩、まだニホン転移させないのですか?もう3ヶ月経ちますよ。」
「そうだな、もうそろそろ良いだろう。」
「じゃあ、あとは頑張れよ、俺このニホンって言う国好きだからな。」
「了解しました!頑張ります。」