第11話 予想外の事態
2024.4.9
日本海 洋上
空母『アドミラル•クズネツォフ』
13:31 JST
ここ日本海にいるのは大西洋側にいるはずのロシア唯一の空母艦隊である。何故そんな艦隊が日本海にいるかと言うと、日本との密約が原因である。
その密約とはロシアが朝鮮共和国を救援する代わりに朝露国境地帯から50kmをロシアが占領する事に日本は黙認するという事である。
その代わり日本は朝鮮共和国救援に兵を出さないでいいのである。勿論アメリカもこの日露間の動きに気づいていたが現在のアメリカ大統領は親ロシア派である。その為アメリカもこの行動を黙認していたのである。
しかし黙認したからとはいえ防衛省としては複雑な気持ちであった。何故ならロシアは日本の最大のスクランブル発進国なのである。つまり日本からしてみればロシアはいくら仲良くなったからとはいえ仮想敵国なのである。
そう簡単にどうぞどうぞとは言えなかったのである。しかし以前のロシアとは違い今回は日本にちゃんと了解を取ってきた。朝鮮共和国救援の為の上空支援として空母艦隊を日本領海に侵入させそこから攻撃させる事についてだ。
当然日本としては朝鮮半島に兵を出したく無いので許可したが、やはりそのままOKとはいかなかった。そこで海上自衛隊の潜水艦2隻をロシア艦隊に張り付かせたのである。その潜水艦はわざとロシア艦隊に探知させる深度にいた為ロシア艦隊からすれば目障りだがロシアも日本の行動の理由は分かる。
今まで散々日本の領空や防空識別圏に侵入しておいて無警戒で領海に入れるなんて事が出来ない事もロシアは分かっていた。自分達がその原因を作ったのだから、その為潜水艦については無視していた。
そして空母『アドミラル•クズネツォフ』の飛行甲板から艦載機であるSu33が1個飛行隊の12機がスキージャンプ台で飛び立った。ロシア空母にはアメリカやフランス、日本みたいな強制的に機体を射出するカタパルトはついておらずロシアや中国、イギリスみたいなスキージャンプ台がついているのである。
この発艦した飛行隊の目的は朝露国境から朝鮮共和国を救援しにやってくるロシア軍地上部隊をウラジオストクにある空軍基地に所属する部隊と共同で上空支援する事である。
ロシア大西洋艦隊
空母『アドミラル•クズネツォフ』艦橋
「リヤーコフ艦長、空自のAWACSから連絡です。」
「空自のAWACS?あぁ、E-767かそれでなんだ?」
「中国空軍のH-7爆撃機4機がこちらに向かってくるのを確認したそうです。」
「な、何!?それはマズイ。」
「あと護衛のJ-15が8機の計12機です。」
「直ぐに迎撃機を出せ!あと空自のAWACSと直接リンクさせろ!」
「了解!」
この時リヤーコフ艦長はこの爆撃機は当然ロシア地上軍を狙っていると思っていた。しかしそれは間違いであった、まさかH-7の爆弾庫に搭載されているのが対艦ミサイルだとは思ってもみなかった。
「敵爆撃機更に接近!距離800、迎撃機がウラジオストクから上がりました。」
実は空母『アドミラル•クズネツォフ』は全部で28機しか戦闘機を搭載出来ないのだ。艦にVLSを搭載しているなどかなり重武装な為である。
「ん?か、艦長!距離600でH-7がミサイルを発射!これは、対艦ミサイルです!対艦ミサイル接近中!!」
「な、何!?か、数は?」
「数は24です。」
「迎撃ミサイル発射せよ!全て撃ち落とせ!」
リヤーコフ艦長は分かっていた。ロシア艦の迎撃能力で24発もの対艦ミサイルを落とさない事を。これが日本やアメリカなら可能だったであろう。しかしロシア艦には不可能だったのである。
「13発撃墜!残り11発が最終防衛ラインに来ます!」
もうこうなっては艦に搭載されている短距離対空ミサイルや高性能機関銃しか無い。そして対空ミサイルが対艦ミサイルにむけ発射され、高性能機関銃がミサイルにむけ火を噴く。しかし、
ドーーーン!!!
ミサイルは空母『アドミラル•クズネツォフ』に突っ込んで来た。どうやら中国軍は空母以外狙っていなかったようだ。残り11発の対艦ミサイルのうち7発が最終防衛ラインで迎撃された。しかし4発が空母『アドミラル•クズネツォフ』の飛行甲板に2発、側面に1発、艦首に1発弾着した。そしてその艦首に弾着した対艦ミサイルが『アドミラル•クズネツォフ』の運命を決めた。
さっきも書いた通りロシア海軍の空母は重武装なのである、そして空母『アドミラル•クズネツォフ』の艦首にはVLS発射機が埋め込まれていたのである。
そして弾着した対艦ミサイルはVLS内にしまわれてた艦対艦ミサイルや艦対空ミサイルに引火、大爆発を起こしたのである。
その爆発は艦前部を吹き飛ばすほどの威力であった。その為空母『アドミラル•クズネツォフ』はほんの数十分で沈没したのである。助かった乗組員はほんの百数十名だった。
その後『アドミラル•クズネツォフ』の出来事を知らないウラジオストク空軍基地から飛び立ったMig25 8機がH-7爆撃機や護衛のJ-15を撃墜した。そしてこの事がモスクワにあるロシア国防省に届くのは30分後であった。
2024.4.10
日本国 首都東京
総理官邸 会議室
08:17 JST
国家安全保障会議に出席している人はテレビを見ていた。当然休憩しているわけでは無い、昨日起こった出来事についてみているのである。
『昨日の午後1時過ぎ、日本海でロシア海軍の航空母艦『アドミラル•クズネツォフ』が中国空軍の爆撃機H-7による対艦ミサイルの攻撃を受け撃沈しました。
これを受けロシア国防省は現在インド洋にいる2019年に就役した最新空母である『アドミラル•フルチェフ』を派遣すると発表しました。現在ロシア軍は国土の70%を中国軍に占領された朝鮮共和国の救援の為中国軍と戦争状態にあり今後戦局が一層激化してくると思われます。』
「ロシア政府から日本に対して航空戦力を派遣してほしいとの要請書が届いています。」
「空母を撃沈されたんだ、何もしない訳にはいくまいな。朝鮮半島に派遣する余裕のある基地は何処だ?」
「余裕と言いますと全ての基地にその余裕がありますがやはり位置的にも小松基地ですね。」
「そうか、ではたのんだぞ防衛大臣。」
「分かりました。」
テレビのニュースは続く。
『では今回は富山大学名誉教授の新高紀之教授にお越し頂いています。紀之教授今回の空母撃沈を受け朝鮮半島はどうなるとお思いですか?』
『そうですね、ロシアはこのまま黙っているという事は無いというのが我々専門家の共通認識です。
核兵器は使わないと思いますが今後日本に対しても戦力の派遣を要請してくるかもしれません。その場合日本が拒否する事は不可能だと考えています。』
『では、陸上自衛隊を朝鮮半島に派遣するという事でしょうか?』
『陸上自衛隊を朝鮮半島に派遣するかどうかは我々専門家の間でも意見が分かれるところですが、防衛省は何らかの戦力を派遣すると思われます。
例えば航空機搭載型護衛艦を派遣すればそれだけで撃沈された『アドミラル•クズネツォフ』の代わりにもなりますし、わざわざ航空機搭載型護衛艦を派遣しなくても、こんだけ近いのですから各地の航空自衛隊基地から戦闘機を出したらロシア軍のエアカバーは十分にできると考えています。』
『しかし戦闘機の航続距離で朝鮮半島全域をカバーできるのでしょうか?』
戦闘機の航続距離の事を気にしている辺り、このキャスターもかなりの軍事オタクである。
『ええ、航空自衛隊にはKC-767と呼ばれる空中給油機がありますので航続距離に関しては心配ないでしょう。
別に朝鮮半島全域をカバーしなくても北半分はロシアに任せてもいいかもしれません。ロシアには朝鮮半島近くにウラジオストク空軍基地がありますので北半分ならロシア空軍が対応できます。当然ロシア軍も空中給油機保有していますからね。』
『なるほど、では九州の航空自衛隊基地から戦闘機が朝鮮半島に救援に向かうという形ですかね。』
『いや、九州の航空自衛隊基地は春日、築城基地、新田原とありますが現在も中国軍との戦闘がありますので朝鮮半島に派遣する余力はあると思いますが防衛省も九州の基地は使わないと思います。
使うなら航空自衛隊小松基地ですね。あそこならかなりのスペースがありますので東日本の戦闘機部隊を収容できる能力があります。その為小松基地から出撃するでしょうね。』
『この前4日には海上保安庁の巡視船『しきしま』が中国軍機の攻撃を受け正当防衛射撃で撃墜した事件もありましたよね。日本海側の都市は大丈夫なのでしょうか?』
『そうですね、今現在日本海側の防衛拠点である舞鶴基地の艦艇が日本海の警戒を厳しくしてますし、各地のレーダーサイトが監視していますから、よほどの事がない限り海自や空自が食い止めると考えています。』
『なるほど、では今のところ心配しなくて良いと。』
『そうですね、今のところは心配しなくていいかもしれませんがそれぞれの各自治体の情報を見ておく事が重要だと思います。』
『ありがとうございました、富山大学名誉教授の新高教授でした。では次お天気のコーナーです。』