第10話 台湾奪還完了
2024.3.25
中華人民共和国 首都北京
中南海 主席官邸
22:31 現地時間
中華人民共和国の全てを管轄する中国共産党の本部でもあり、中華人民共和国の政府中枢が集まる場所である中南海。そんな場所のうち中華人民共和国のトップである国家主席がいる日本で言う総理官邸、アメリカで言うホワイトハウスのような場所。そんな場所で現在会議が行われていた。
しかし雰囲気はまるで葬式のようであり、理由は言わずとも知れた事だ。中国軍が朝鮮半島以外全ての地域で敗走しているからである。
「これは一体どう言う事だ?国防大臣?」
周国家主席の低く怒りのこもっている声が会議室に響く。
「日本の動きが予想より速かったのです。たった3日で与那国や尖閣を奪還され、さらに台湾に第18師団と呼ばれる外征専門の部隊を投入しました。予想外と言わざるを得ません。」
「お前、まさか日本の実力を甘く見ていたわけではあるまいな?自衛隊の実力は朝鮮戦争でも示された通りの実力だ。以前は意思決定などに問題があったがそれも現在は憲法改正してクリアされている。」
確かに2019年の憲法改正以前は自衛隊は憲法に矛盾する存在なのでは?と言う議論があったがそれも憲法改正により消えたのだ。それにより意思決定システムも変わったのである。
「いえ、日本の実力は甘く見てはいませんでしたが、まさか虎の子の第18師団を自国では無く台湾に投入するとは思いませんでした。それに北海艦隊までもが全滅するなんて。」
「空母『遼寧』は練習空母だが乗っている人は練度の高いつわもの揃いだから問題無いと言ったのはお前ではなかったか?国防大臣。」
「今回会敵した日本の海上自衛隊第1護衛艦隊群は空母『あかぎ』を有していますが艦載機を使わずに18式艦対艦誘導弾で全艦やられました。
理由は開発していた防空ミサイルが経済危機による予算縮小で開発できずに旧式の対空誘導弾しか無かった為迎撃できずにやられてしまいました。」
「ちょっと待ってくれ、財務局の責任か?」
国防大臣の予算のせいと言う発言に思わず財務局長官が話に割って入る。
「財務局の責任とは言いませんが予算の縮小により新型防空ミサイルを開発出来なかったのは確かです。」
「経済危機で税収など、いや全ての収入が減少したのだ!何処かを削らなければこれ以上の財政赤字になっていたんだ!金食い虫の軍にバカスカ金をかける余裕など今の中国には無いんだよ!」
財務局長官が切れて今まで軍に対して溜まっていた不満をここぞとばかりにぶちまける。しかし各国が軍事にかける金は長らく日本がGDP比1%、ドイツは1.5%、イギリスは2%でアメリカでさえも4%なのに中国は無理してGDP比5%の金を軍にかけていたのである。公表値はアメリカと同じ4%だが実際はその1.25倍の金を軍にかけていたのである。
「なんだと!今の中国を作ったのは中国共産党では無いか!その共産党を作ったのは人民解放軍なのだぞ、中国人民解放軍200万人を維持するにはそれだけの金が必要なのだよ。それに200万人以上も雇っているから失業対策にもなる。決して金食い虫では無いのだよ。」
国防大臣も負けじと反論する。
「何を言っている。軍事費の1割でも経済に回してたらもっと多くの雇用を生み出せるのだよ。軍の1部でも工事現場などに出していたら人員不足も解消できるのだよ。」
しかし財務局長官の方が一枚上手だった。
「ええい!!黙れ!今はこの現状をどう打開するかの会議だ。喧嘩するなら他所でやれ!」
財務局長と国防大臣との醜い争いに耐えられなかったのか周主席が仲裁?に入る。
「主席、核爆弾は使用しないにしても弾道ミサイルを使わせてください。第二砲兵隊の使用権をください。」
第二砲兵隊とは中華人民解放軍の中にある弾道ミサイルを扱う部隊である。人員が21万人もいて中国人民解放軍の4つ目の軍なのである。
「仕方ない、弾道ミサイルの発射を許可するただし、核は使うなよ。」
「分かりました。」
日本やアメリカなどにとって1番の幸運は中華人民共和国のトップである周主席が幼い頃広島の原爆ドームを見て原子爆弾反対派だったのだ。だから周主席は何があっても原爆は使わないと心に決めたのである。
中華人民共和国の官僚達の会議はまだまだ続く。
2024.4.4
台湾民国 高雄市
09:23
「こちら日本国陸上自衛隊、第1空挺団。敵司令部を占拠、敵部隊は降伏し、高雄市を奪還しました。」
その時アメリカ軍や台湾民国軍、陸上自衛隊から歓声が響き合った。中華人民解放軍に占領されてから約3週間、ついに台湾本土を奪還したのである。ちなみに澎湖諸島はアメリカ海兵隊が奪還済みである。
高雄市の上空ではアメリカ海空軍のF-18やF-35C、F-22、航空自衛隊のF-15EJ、F-2J、F-35JC、台湾民国空軍のF-16、F-35A、経国戦闘機などが飛び交っていた。
しかし高雄市は最初の中国軍によるミサイル攻撃や戦闘の後、撃墜された台湾民国空軍の戦闘機や中国空軍の戦闘機、はたまた両軍の破壊された戦闘車両が放置され、まるで中東の戦場のようであった。
復興するには長い時間がかかると思われていた。唯一の救いは残されていた高雄市民が高雄市内の公民館や体育館に収容され無事であった事である。
高雄市奪還作戦により台湾民国軍に4782名、アメリカ軍に1271名、自衛隊に715名の使者を出し、中国軍は3万6741名であった。
撃墜された戦闘機はアメリカ軍はF-18戦闘機が13機撃墜されステルス機であるF-35CやF-22は撃墜されなかった。
航空自衛隊はF-15EJが7機、F-2Jが撃墜はされていないが損傷が酷く廃棄になったのが2機あり、計9機である。こちらもステルス機であるF-35JCは撃墜されなかった。
台湾民国空軍はF-16が27機、経国戦闘機が51機、F-35Aが7機の計85機である。ステルス機であるF-35Aが撃墜されたがやはり中国軍の猛攻を加えられた為と思われる。
一方の中国空軍は酷いものであった。J-7が31機、J-11が43機、J-15は36機、J-20は14機の計124機であり作戦に参加した210機のうち半分以上が落とされたのである。
やはり今回の戦闘結果を見てもステルス機は生存性が高い事が判明した。またF-35シリーズが強い事も判明、しかし一方F-15の性能の陳腐化も指摘された。だが一方F-2Jの日本製戦闘機の性能の高さが改めて実証された戦闘でもあった。
台湾での戦闘が終了したがまだ朝鮮半島と東南アジアでの戦闘はまだ続いていた。
しかし台湾奪還作戦の成功はタイやベトナムを奪還しようと頑張っている兵士達に勇気を与え、逆に奪還された中国軍兵士にしてみれば逆に士気を落とす結果となった。
しかしこの戦闘結果がその後の戦闘にどれだけの影響を与えたかは不明である。
そしてついにロシアが動き出そうとしていた、狙うは中国に侵攻されボロボロの朝鮮半島である。
首都ソウルを占領され、朝鮮共和国の都市が戦闘により火の海になった朝鮮共和国は首都を釜山に移し攻勢に出ようとしていた。しかしその釜山も中国軍の爆撃により火の海になっており、時折日本の領空に侵入した中国軍の戦闘機や爆撃機を自衛隊がスクランブル発進して問答無用で撃墜するが、基本的に日本は朝鮮半島の事には手を出さなかった。
別に自衛隊の派遣要請も無く、日本国民の関心は全領土を奪還した台湾や未だに戦闘が続いている東南アジアにむけられていた。
もはや朝鮮半島に関心のある人は一部の人間のみとなっていた。前は交流も深かったが朝鮮戦争後治安が急速に悪化した朝鮮半島に行く観光客などおらず、秋葉原でのテロ事件後国交を断絶した日朝間の交流は途絶え、テレビも国民の関心のある台湾や東南アジアの方を流す為、関心の薄い朝鮮半島の事を流すテレビ局など無かったのである。