似合うかな?
「服は━━なにが似合うかな?」
「これなんてどう? ユナミールママのお下がりだけど、大人っぽくてなんとなくアスカに似合いそうじゃない?」
ネムールはそう言うと、黒を基調としたミニスカートのワンピースを広げて見せる。飛鳥は当然、無言だった。なんとも言いようがない。パンティとブラジャーを着用した時点で、心ここにあらずだった。
「アスカはどう、これでいいかな?」
「はい、大丈夫です」全然大丈夫ではなかったが、おそらく他に服がないのだろうから、そう言わざるを得ない。しかし本当に男性がみんなこんな格好をしているのだろうかと思い、見てみたくなる。
「あの、誰か男の人っていないんですか?」
すると、二人は黙り込み━━ユナミールが最初に口を開いた。
「男の人は、いないよ。いなくなったの。だからアスカを呼んだんだよ」
その後、飛鳥はこの村の現状と、なぜ自分が召喚されたのか、この世界がどのような状況にあるのかといったことを大まかに、一通り説明してもらった。
「そんな……そんなにも男がいないなんて。それに、ユナミールさんたちは二十歳くらいまでしか生きられないなんて……」
「十歳だから、あと半分あるかないかだよ」
「あるわよ、あるに決まってるでしょ」と、ネムールは怒る。
「ところでアスカは何歳なの?」まだ聞いていなかったことに思い至り、ユナミールが問うた。
「あ、ぼくはこう見えて三十三歳になりました」
「さっ━━!」目を見開く二人の少女。
「さんじゅうさんさいーっ⁉」ユナミールとネムールの声が見事にハモり、飛鳥は驚いて一歩下がった。
まあ確かに同世代の人よりは若く見られがちではあるが、よくよく見れば年相応だとわかるはず━━でもきっと今は、自分が二十歳をはるかに越えた年齢であることに驚いているのだろうと、飛鳥は受けた説明から推測した。
二人が驚いたポイントはまさにその通りで、なんで死んでいないのかと質問責めにあったのだが、事故や病気など、突発的ななにかでもなければ、だいたいみんなこれくらいは生きて当然なのが飛鳥のいた世界の常識であるし、事によるとまだ人生の三分の一を生きただけに過ぎない。
「平均寿命はたぶん七十とか八十とか、そんなもんだから━━」
「なっ、七十って、七十歳ってこと……な、なにそのわけわかんない数字……あ、アスカのいた世界ってみんな魔物かなにかなのっ?」ネムールは目が回ったようになり、うまく考えがまとまらない様子だ。「そんなに生きて、どうするのよ? そんなに生きると、どうなっちゃうの?」
「おじいちゃんとか、おばあちゃんになります」飛鳥が説明する。
「なにそれ! どういう状況⁉」
ネムールにはおじいちゃんとかおばあちゃんという概念がなく、その言葉もしらない。ユナミールも同じようなものだったけれど、彼女にはピンとくるものがあった。
「太古の人類は数百年から数千年生きたっていうお話の本を読んだことがあるわ。誰かが考えた作り物だって思ってたけど、それが本当だったら人間ってもしかして、もっと生きられるものなのかも……ずっと長く生きた人間は、筋肉が減っていって水分も少なくなって、形が変わってくって、その本には書いてあったなぁ。それがアスカの言う、おじいちゃんとかおばあちゃんなのかなぁ?」
おそらくほぼ正解だろうと判断して、飛鳥は「だと思います」と肯定した。
逆に、飛鳥側からすると、おじいちゃんやおばあちゃんという概念すらないこの世界の住人たちが、いったいどのようにして死んでいくのだろうということが、気になってしまう。多少の後ろめたさを覚えながら、飛鳥はそのことを尋ねてみる。
「その時は突然くるの━━身体がちょっと光ってから枯れ木みたいになって、そのあとお砂になっていなくなっちゃうの。死んだ人のお砂は、ひんやり洞窟に撒くんだよ」と、ユナミールは言った。
━━枯れ木という表現が恐いけど……なるほど、自分が召喚された洞窟に、その砂が撒かれていたわけか。
「そっ、そうだったんですかっ⁉」飛鳥は慌てて足の裏を見たが、どうにもならない。多分もう踏んでしまっているだろう。そう思い、心の中で手を合わせ、祈った。
「別に、踏んだって構わないわよ。みんな踏んでるし」と、ネムール。「それはそうとさ、アスカについていろいろ決めなきゃないこと多いわよね。すぐに決められることでもないし、リティファさんが帰ってくるまで、勝手はできないでしょ」
「うん……そうだね。今はアスカがきてくれただけですごく嬉しいことだから、あとはリティファさんが帰ってきてからだよね」
「じゃ、そーゆーことで、そろそろピリカラ絞めないと夕飯に間に合わなくなりそうだし━━わたしは行くわね」言って、ネムールは部屋から出ていく。
ユナミールと二人きりで取り残された飛鳥は、姿見の自分を観察する。
━━うん、変態だね。
しかも、ユナミールもネムールもなにも言わなかったけど、無理矢理着用したユナミールの下着はキツキツで、正直なにかがはみ出している。元いた世界の常識からすると、この格好は完全にアウトだ。"男の娘"で通用するような若者ならまだしも、飛鳥はそうじゃない。普通に逮捕される気がする。
「わたしも夕飯の用意しなくちゃいけないんだけど、アスカはどうする?」
「あっ、それなら手伝いますよ」部屋に残されても落ち込みそうだったし、ユナミールから離れてもやることはないので、そう言うしかない。
いまだフワフワした気持ちのままで、飛鳥はこの世界に馴染もうと必死だった。
どうも、ユナミールです。
わたしは月光の季節がいちばん好きかもしれません。静かな夜に、本を読むことが好きなんです!
次回「美味しいお肉を食べましょう」
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