生かされた男
「あの、すいません……なにか着るものってないんですか」胸と股間を徹底して隠す、その男性がユナミールに向かって申し訳なさそうな声で告げる。その低姿勢に、ユナミールもなんだか申し訳ないような気持ちになってしまう。
「ごめんね、ここにはないの。わたしの家に行けば服もあげられるから、行こうか」
「その前に━━」ネムールが割って入った。「自己紹介くらいしといたほうがいいんじゃない? この人、異世界からやってきたばかりで、なにもわかっていないみたいだし」
「異世界……」その言葉に再び反応した男は、ネムールに向かい質問した。「あの、つまり、ここって地球じゃないっていうことですよね?」と。
「チキュウ? ええ、違うわね。そんな名前、聞いたことないもの。これで決まりね。つまりあなたは異世界からきた人ってことで、間違いなさそうだわ」
「マジか……マジでオレは、異世界に……死んだはずじゃなかったのか……こんなことが、本当に」いまだ混乱する男は、ぶつぶつと独り言をつづけている。「あれ、でも……この子たち日本語でしゃべって……スーツは消滅したのか……転生じゃなくて召喚された……」男は勝手にガッカリした様子だったが、なぜかすぐに気を取り直すと、チラチラとユナミールのからだを盗み見る。
「?」裸の時もそうだったが、下着姿を見られてもユナミールが恥ずかしがることはなかった。
ネムールもそれは一緒で、原因は男性の少なさと、その特徴にあった。目の前の人物のような男性を、ふたりは知らなかったのだ。ふたりだけではない、おそらく、ほとんどの人間が見たことのないタイプの姿をしている。
「自己紹介、だったね━━わたしはユナミールっていうの。歳は、十歳だよ」
「じゅっさい⁉」目を見開いて驚く男。
ユナミールには、男性がどうして驚いたのか、理解できない。
「わたしはネムール。同じく十歳よ」
「じゅっさいぃぃぃ⁉」同じセリフで、同じように驚く男性。股間を隠すことを忘れていたのを思い出して、また隠す。
「あと、気になっていたんだけど」と、ユナミールは隠された股間に目をやりながら、訊く。「なんでそこに、毛が生えているの?」
「え? そこって、ここ?」股間を示しながら、男性。
「うん、そこ。なんでかなって」
どうやらおふざけで言っているのではないらしい━━そう判断した男性は、真面目に答える。
「いや、普通、誰でも生えると思うんだけど━━え、こっちの世界だと、生えないの……もしかして」
「そんなところに、あははっ、毛なんて生えるわけがないじゃない! なに、あなたのそこは、頭なの?」
ネムールは面白い話を聞いたとばかりに、声を上げて笑った。「ねえ、ユナミール」と、同意さえ求めながら。
「うん、そうだね。毛って、頭にしか生えないけど……異世界だと違うんだね。すごいなぁ」
陰毛を誉められた男性は釈然としないものがあったようだが、愛想笑いでそれに応えた。
「えっと、自己紹介ですよね」
「あ、そうそう。あなたのお名前、なんてーの?」ネムールが興味を示し、顔を寄せる。
男性は少しだけのけ反るようにしながら、自己紹介をはじめた。
「オレは、鹿守飛鳥といいます」
「カノモリアスカ? それ、本当に名前なの?」聞いたことのない響きに、ネムールは騙されまいと疑ってかかる。偽名なのではないか、という思いが瞬間的に湧き起こったのだ。
「本当ですよ、本名です。えっと、鹿守が名字で、飛鳥が名前ですけど」
「カノモリガミョージデ・アスカガナマエ……って、なによ!」男がなにかしらの魔術を詠唱したのではないかと勘違いしたネムールが、すぐさま身構えた。が、なにも起こらない。魔術の詠唱ではなかったようだ。
「えー……もしかして、名字とかないのかな……すいません、訂正します。名前は飛鳥です。オレは、飛鳥といいます」
説明が面倒になった飛鳥は、わかりやすく名前だけを伝えることに決めた。ユナミールやネムールがそうであるのなら、合わせたほうがいいだろうという判断だった。
「アスカ。よろしく、アスカっ!」
ユナミールの輝くような笑顔を見ると、ついさっきまでの諦念が嘘だったとしか思えない飛鳥は、なにかの間違いだったのだと、自分の行いを省みることさえしていた。
いずれにしろ、事実として死んでいないという現状は受け入れるしかないものだった。裸だし、異世界だけど、生きている。
━━オレはなにかに、生かされたのか?
その疑問に答えられる者は、誰もいない。
今日も元気なユナミールです!
キモッシーの干物は日持ちするので、いっぱい作ってあるんです!
次回「異世界だからまあいいか(よくない)」
チェックしてくださいね!




