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短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています

 ビルの屋上に、閃光が走った━━


 それは一瞬の出来事で、気がついた人間はほとんどいなかった。

 たとえ遠目に目撃した者がいたとしても、さして気にするようなことではない。ほんの一瞬の発光現象。


 その後に、うつ伏せで倒れる男の姿があったのだが、周りには誰もおらず、当然ながら気づいた人間は皆無だった。


「うぅぅ……」


 わずかな声を上げて、男は目を覚ます。

 ひんやりとした感触、倒れていることを悟り、腕に、身体に力を入れて立ち上がる。


「ここは━━」夜の闇。星の輝き。下界からの騒音。汚れた空気。


 そう、異世界に長くいた経験があるからこそ、明らかな空気の違いをはっきりと認識することができていた。

 鹿守飛鳥は思い出した。

 異世界を歩き、生きた自分を。仲間を。ユナミールを。


「ユナミール!」その名を呼ぶが、返事はない。


 はっきりと、覚えていた。

 細部に至るまですべて、あの異世界で経験したことは全部、まったく忘れていない。

 現実だったのだ。

 頭を打って、死にかけて、幻を見ていたわけじゃない。その証拠に、自分は飛び降りたあとの路上にではなく、飛び降りる前に立っていたビルの屋上にいる。しかも全裸で。スーツ姿でもスカート姿でもなく、丸裸でだ。これがなによりの証拠になる。かつて『召喚』された時にも、自分はなにも着用してはいなかった。つまり、世界を移動する際に、衣服はすべて消滅するということなのだろう。それも証明されたことになる。


「成功、したのか?」


 レミリネアの大魔術。

 異世界に寄生した謎の宇宙生命体は、いったいどうなったのか。

 自分は役目を果たせたのか。

 ユナミールたちは、救われたのか?


 それだけが気がかりで仕方ない。

 けれどもう、どうやったって確かめるすべはない。この世界からでは、しりようがないのだ。


「ユナミール……」


 会いたかった。

 これほど会いたいと思う人間は、今までの人生にはいなかった。こちらの世界には、いなかったのに……。

 まさか異世界の少女をこれほど好きになってしまうなど、考えたこともなかった。


 転生はしなかった。

 自分は勇者にも美少女魔術師にもなれなかったが、それでも異世界へ行って旅をした。素敵な少女たちとも出会えた。ユナミールに、出会えた。

 これ以上の経験なんてないだろう。


 ━━ああっ、向こうの世界に帰りたい!


 もうここは、オレの世界ではない。

 だからこそ、あの日、死ぬ決意を固めた。そんな自分が異世界に召喚されたのは、あの世界を救うため。ユナミールに出会うためだった。

 もうオレは、向こうの世界の人間だ。

 飛鳥は、そう思った。

 なんの迷いも躊躇いもなく。心の底から、そう思った。


 ━━それに。


 自分の姿を見る。そう、素っ裸だ。


 ━━これじゃどこにも行けないしな。


 ビルを出た段階で、通報されるだろう。近くに警察官がいたのなら、どこへ向かうこともできずに逮捕される。そうなれば、ここに戻ることも難しくなるかもしれない。


 ここにいなくてはいけない。

 なんとなく、飛鳥はそう考えていた。

 厳密には飛び降りたあと、下の地面に叩きつけられる直前に異世界召喚されたわけなのだが、だからと言って飛び降りて、また都合よく地面に届く前に召喚されるとは、さすがに思えないし期待もできない。そんなバカな真似をして死んでしまったのでは、それこそもうユナミールとは永遠に再会できなくなってしまうではないか。


 かつての飛鳥と、今は違う。

 今は、会いたい人がいる。もう一度、絶対に会わなくちゃいけない人がいるんだ。

 それはつまり、生きる理由に他ならない。

 やっと、生きる理由を見つけた今、鹿守飛鳥に死ぬ理由など微塵もなかった。


「でも……はぁ……ユナミールはきっと、もう一度召喚しようとしてくれるはずだけど」ため息をもらし、飛鳥はその場に座り込んだ。


 ユナミールがかつて異世界召喚術に成功した時のパートナーであるネムールはもうおらず、大魔術師たるレミリネアにおいても「できない」と断言したほどの術である。

 待っていても、本当に再召喚してもらえるという保証はないし、仮にできたとしてもいつのことになるのか、いったいどれほど待てばその時が訪れるのか、まったくわからないのだ。


 待つにしたって、長くは待てない。それどころか現在全裸であることや、この場に食料が一切ないことを考慮すると、もって2~3日が限界かもしれない。それ以前に、誰かに見つかってしまった段階で、ここを去らなければいけなくなるだろう。

 そう考えると、未来は暗いような気がした。


 考えても仕方ないが、考えてしまう。

 もしユナミールとレミリネアが、もう二度と召喚術を成功させられなかったら……。


 成功したはずなのに、自分がこの場所を去ってしまっていたがために、失敗したとしたら……。


 そんな、悪い考えばかりが浮かんでしまう。


 もう、こちらの世界で生きたくはないのに。それでも生きなければいけなくなったら……。


 死ぬまで待って、待ち続けて、結局……。


 飛鳥は胸が苦しくなって、涙をこぼした。体育座りで自分の股間を見ていたって仕方ないと、顔を上げた時だった━━


『こ…………える……か』声がする。


 自分の真正面。なにもない虚空から、声が届く。一瞬、空耳かと疑ったが、続く言葉がそれを否定した。


『アスカ……聞こえる……か?』


 間違いない、これはレミリネアの声だ。


 ━━こんなに早く!


 飛鳥は感動とともに声を上げた。


「レミリネアっ! 聞こえる、聞こえてるよっ!」


 が、さらに続いた言葉は、それに対する返事ではなかった。

 どうやら会話は向こうからの一方通行で、こちらの声が届いていないようだ。


『そこにいるのはわかっとる……もう、位置は掴んでい……る…………待っとれ、今から召……喚してやるから……な………………』


 ━━よかった! 本当に!


 さすがはレミリネア。できないはずの召喚術を成功させてみせたのだ。きっと、隣にはユナミールもいるのだろう。声は聞こえないが、どうせすぐに聞くことができる。

 とにかく、向こうの世界に帰ることができる。


 ━━オレの世界に!


 飛鳥は立ち上がり、その時を待った。

 屋上を吹き抜けた風に、股間のものが揺れる。


『……よしっ……今……だ……あ……ちょっと……あ……ごめんちょっとズレた……やば……アス……カ……飛び込……め……目の前……の……ゲートに……早……く……』


「え?」


 屋上の、外の空間。

 そこに、なにやらぼんやりと光るもやもやした渦のような場所がある。

 大きさはちょうど人間大。

 ゲート、つまり異世界への扉ということなのだろう。あれが、召喚術━━


「いや━━」考えそうになったが、考えている余裕はなかった。


 ゲートは柵の外側、地面のない空中に浮いていたのだが、それが、ゆっくりと下降してゆく。


 しかも、徐々にではあるが、光が弱まり大きさも小さくなっているような気がした飛鳥は、慌てて走り出していた。


「ちょっ、ちょっとちょっとちょっと待て待て待て待て!」


 柵を飛び越えた段階で、すでにゲートは眼下にあった。

 もやもやぐねぐねした空間の歪みが、ゆっくり落ちていく。


 それを追って、飛鳥はビルから飛び降りた。


 ━━結局、飛び降りるのね!


 ゲートに届かなかったり、あるいは到達する前にゲートが消滅してしまったら━━やっぱりその時は死あるのみ。

 ユナミールには会えなくなってしまうのだ。


「そんなのは━━」足で空を蹴る。


 身体は加速して、目の前のゲートだけを目指した。


 地面が近づく。


 ゲートは、まだ消えていない。が、今にも消えてなくなりそうだ━━


「いやだああああぁぁぁぁぁーっ!」


 声に驚いた通行人が上を見上げると、空から降ってきた全裸の男が、地面に叩きつけられる直前でフッと姿を消したのを目撃した。


 その場に居合わせた数名の目撃者たちは、今見たものがなんだったのか、まったくわからず困惑していた。


 *


 時は流れて━━


 メルール・ルーストゥの城で暮らす一族は、自分たちの領土ばかりではなく、世界全体のための政治的活動を行うまでになっていた。


 その中心には四人の大魔術師がいて、すべての指揮権は女王ユナミールが握っていた。


 とは言え、それは形式上の話である。


 ユナミールにそんな役割が務まるはずもなく、三十代になった現在も━━良く言えば━━変わることなく、かつての若々しさを失わないまま、健康元気に楽しく笑って生きているだけに過ぎない。


「今日はレイミットちゃんのラビリンで、ラビリン丸焼きパーティーだよー!」などと言い、娘であり王女のネムレールを喜ばせる。


「やったー、ばんざーい、ばんざーい!」


 王の威厳の欠片もなく、アスカはバカ面で両手を上げて喜んだ。

 もう7歳になるネムレールも一緒になってバカ騒ぎをする。

 いつもの光景。


「まったく、なっさけない王様やなぁ……」扉の陰で、レナリエルが吐き捨てた。


「仕方ないじゃろ。そもそもあの男は王などという器ではないしな。我らがしっかりしておれば、なにも問題はない」


 そう言って、レムリアーナは自室へ戻った。


 再召喚された時、こちらの世界ではすでに一年近くが経過していた。アスカにとっては短い時間の出来事だったが、レミリネアたちはそれなりの苦労を重ねて、彼を呼び戻すことに成功したのだ。そして異世界へと帰還したアスカは『鹿守飛鳥』という名前を捨てて、新しい人生を送ることを決意した。


 ほどなくしてユナミールに気持ちを伝えると、二人は結婚。そして、子供を授かった。


 レミリネアたち四姉妹とともに、メルール・ルーストゥでの新生活をはじめ、いろいろあって今に至る。そのいろいろの中には、レイミットが繁殖に成功したラビリンが引き起こした事件などもあったのだが、おおむね平和な毎日を送ることができている。


 のだが、一方で予想通りに混乱した世界を治めたのはレミリネアたちの功績で、アスカとユナミールがしたことなどは、なにもなかった。アスカ唯一の功績は、男性用の衣装を広めたことくらいだろう。それによりようやく、男女の差がはっきりするようにもなってきたし、アスカ自身もスカートを履かずに済んでいた。と、その程度の仕事しかしていなかったのだが、それでも英雄としてたたえられたアスカは世界の王となり、ユナミールは女王となった。

 名前だけ、形だけのものではあっても、その存在は重要である。

 新しい世界のシンボルとして、世界の中心として、二人は愛されていた。


 だがそれでも、問題を克服した世界にも問題はあり、けして平和な時ばかりではない。


 しかし、ようやく人間の、自分たち本来の世界を取り戻した人々は活気にあふれ、希望に満ちて暮らしていた。


「我らも『婆さん』になることができるようになった。とはいえ━━」


 アスカと、ユナミールの夫婦。

 その二人に挟まれて幸せそうなネムレール王女の姿をすぐそばで見つめながら、レミリネアは呟いた。


「命には限りがある。いつかは必ず、この世を去る日がやってくる」


 それが自然の摂理であり、誰にも平等に訪れる決められた未来。


「だから、その日までは生きる!」聞こえていたのか、近くに寄ったユナミールが言った。


 アスカとネムレールも、レミリネアのほうを見ている。

 今や家族同然となり、気のおけない関係となっている仲間たち。


「ママの分も、ネムちゃんの分も生きる!」


「わたしの分もママが生きるの?」ネムレールが首を傾げて尋ねた。


「あ、違うの。ネムちゃんじゃなくって、ママの友達だったネムちゃんと、ママのママの分もっていう意味で……」


「???」ネムレールは混乱してアスカを見た。


「あとで説明するね」やさしく、とりあえずそう言っておくアスカ。


 突然、窓のほうに歩いていったユナミールが、窓を開けて空を仰いだ。


 晴れ渡る空に、白い雲。


 陽光は煌めき、世界は今も生きている。


 そこにはいない誰かに向けて━━


「長いようで短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています」


 と、ユナミールは笑顔で告げる。

完結ぅーっ!


完・結ぅぅぅーっ!!


うううううーっ!!!


ありがとぉーぅうううううーっ!!!!


完結っ!


え、完結したの?


途中でやめたかと思ってたのに……うそだろ?


なんでだよ?


いや、なんでだよって言われても。


なんでなんだよ?


そりゃあ、なんでかと問われれば、ちゃんと最後まで書いたからでさぁね。


なんでだよ、あん?


いや、あんって……はじめたの、途中で終わってたら残念賞じゃん。


でも、みんなだいたい完結しねーだろ?


んなこたぁないでしょ。


完結してるはず。


エターナル・パニッシュメンってるとかなんとか、言われてよぉ。


なんて?


エターナルに、パニッシュメントがどーのこーのっつー、わかんねーけど。


なんにしろ、5名くらいの読者様と一匹のチュパカブラ様が読んでくれている限りは━━


一匹のチュパなんたら様は、なんだ?


スマホが使える化け物だぁね。


なんだよそれ。ってか、その化け物が使っているスマホはどこの誰が契約してやってんだよ。


極秘機関が。


なんのために?


いや、そりゃ連絡手段に決まってまさぁねぇ。


LINEとかやんのかよ?


そりゃもちろん、いや、外国の化け物だからFacebookか?


やれんの?


やってるはず。確かチュパさんのアカウント見た記憶がある。


へー、そーなんだ。って、んな事ぁどーだっていいんだよバカ!


なんだよチュパさんて!


しらねーよ!


そー怒りなさんな。てかキミ、誰なのよ?


あたい?


一人称あたいな人かよ……。


悪かったな!


いや、悪くはないですけど。で、どこのどちらさんで?


知り合いの体で話してた手前、申し訳ないんスけど……教えてちょーよ。


別にいいケド……あたいは矢場斬虚ってんだ!


ヤバキルコ?


そうだ! 矢場、斬虚。


すげー名前っスね。


あたいのことはいいよ、それよりお前は?


あ、あっしは━━


てめーのこと「あっし」って言うのか?


いや、いろいろ言います。あっしとか、オレとか、オレ様とか、朕とか、あたくしとか、小生とか……あ、小生は言わねーわ。


朕は言うのかよ……で、名前、教えろよ。


朕は鈴木智一と申す者なり!


へー、あんまし興味ねーわ。


訊いておいて!


ってかほんとに、キミってなんなのさ!


なんかの登場人物?


あたいか? あたいはかくれぼする話に出てくる予定の、未定キャラだ!


な・ん・じゃ・そ・りゃーっ!


まだ出ておらんのかーい!


出てから出てきてちょー!


別にいいじゃねーか。どーせそのうち出るんだし。ちょっとくらいフライングしたって問題ねーだろ?


ないこともなくない?


てかさー、お前って作者じゃね?


お……意外に鋭い。


バレバレだっつーの。


ということは、お前が書かねーからダメって話じゃんか。


書けよ!


オラ、書けよタコ!


やだっ、いやだやめてっ!


暴力反対。暴力の反対はやわらかいおっぱい!


なんだコイツ、やべーな!


あたいのママよりやべーな!


そりゃ、あたくしがやべーのは認めるけどさ、キミも大概、自分の出てくる作品じゃないとこの後書きに出演するとか、ちょっとおかしいって。


そうか?


というか、本来の作品のほうにもまだ登場してないんでしょ?


まあね。


なら、なおさらおかしいでしょ。


さあ、もう帰った帰った。


えー、もうちょっといいじゃん。


ダメー。言うこと聞かないと、ほんとに登場させないぞ?


くっ……それはズリぃだろ、クソ作者。


覚えてろよ。お前マジで。


あたいの世界、あたいのママの友達とかって、ぶっちゃけ作品飛び越えてお前んとこ行けるらしいからな!


せいぜい怯えて待ってろよ!


うわー、捨てゼリフ残して去ってったよ……。


てゆーか、ほんとに作品中のキャラが会いにきたりするからなぁ。いや、ってか今まさに、きてなかったか?


こ、こえー。


あ、というわけで「短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています」完結しました!


どうもありがとうございました!


次回作は……未定ですっ!


それではっ!

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