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この世界を救うために

「ユナミール、泣かないで━━」


 今まで、そんなことをしたことはない。だが、その時ばかりは無意識に、身体が勝手に動いていた。


 飛鳥はユナミールを抱き締めると、その頭をなでなでした。


「うえっ、うえっ、おええっ!」急に泣きすぎておえっとなったのを境に、ユナミールは徐々に落ち着きを取り戻す。


「大丈夫だよ、オレは一旦帰るけど、絶対また戻ってくるから。レミリネアも、ユナミールもいるんだから━━ユナミールがいれば、また召喚術で呼べるかもしれないし」


 その言葉で、ユナミールは顔を上げた。


「そうだ……そうだよね。ネムちゃんはいなくなっちゃったけどレミリネアちゃんがいるし……わたしがすごぉーくがんばれば、またアスカを召喚できるよね。うん、絶対にできるよっ!」


「そうだよ、だからもう泣かないで」


「うんわかった。泣かない。もう泣かないよ、えへへっ!」


 口を挟まず見ていたレミリネアが、やれやれといった様子で動き出した。


「でもレミリネアちゃん」その背中に、ユナミールが声をかける。「わたしとネムちゃんがアスカを呼んだ時って、そんなにすごいことにはならなかったんだよ? ちょっとだけ、なんにも見えなくなっただけで、別になんともなかったし……」


 異世界召喚術に成功した時の記憶を思い出したユナミールが、そう言った。


「あー、大丈夫大丈夫。多分。あんたとネムールがやったのは、精霊の力に頼った方法だったはずだろう?

  まあ、だとしても我らにもできないすごい魔術なのは認めるけど……今からおこなう『送還術』は━━もちろん精霊の力は借りるけど━━精霊の力ですら及ばない、いわばこの世の(ことわり)をねじ曲げるような魔術なのだ。

 この世界には━━『世界の皮膜』をはがしてもなお見ることのできない、世界を世界たらしめる文字、設計図のようなものがあるんだよ。ユナミールがユナミールであるのもそうだし、水や風がそうあるためにも隠された設計図の存在が必要なんだ。それは決して目には見えないし、人間には知覚することもかなわんだろう。しかし、確かに存在するのだ。

 我はそれに干渉することで世界に(ひず)みをつくり、アスカを元の世界へ送り返す。そしてその瞬間には必ず、とてつもない反応が起こるはずなんだよ。

 世界の裏の裏、奥の奥を歪ませるのだ。あれ(・・)とて、まさか平然としていられるとは、とても思えないな」


 歩きながらしゃべり、魔術道具の横についたレミリネアはそれに手を触れた。


「で、我が作成し、我とユナミールとで魔力を蓄積させたこれこそが、そのための道具だったというわけだ!」


 その段階で。

 飛鳥はほとんど絶望に近い感情を抱いた。


 ━━やっぱりね!


 と思った。


 最悪な予想が的中した。

 弾丸が用意されていない大砲。それはちょうど、人間が入るのに適した大きさだった。

 単に「道具」とだけ説明されてきたものだが、どこからどう見てもランチャーにしか見えない。他のなにものでもない。


 それを使って送り返すということは、つまり━━


 考えるまでもなく、そういうことになるのだろう。


 でも一応は念のため、もしかしたら違うかもしれないので試しに尋ねてみることにする飛鳥。


「これに、オレが入るとかでは━━」


「正解っ!」


 なぜか元気よく、びしっと指差しレミリネア。


 ━━オレ、無事に帰れるのか?


 心配になってくる。

 帰れたとして、バラバラ死体になっていたのでは、なんの意味もない。

 再び召喚したユナミールの前に、いくつもの部分に別れて現れたくはなかった。


「まあまあまあまあ、言いたいことはあるだろう。あるはずだ。我とてそれはすごぉーくすごくお察ししますよ。けれどもっ!」なんだか性格まで変わったかのように、レミリネアはまくしたてる。「我のおこなう送還術にはこの方法しかないし、一見ヤバそうに見えるやもしれんがその実ものすごぉーっく安全には配慮されておってねー……ええと、まあ、バリアー……みたいな? 魔術をほどこすし、なにより我もあんたも運がいいから大丈夫!」


「うーわー……運だのみ」


 言ってみたものの。

 なんにせよ辞退したりすることなど飛鳥は考えていない。

 もはや危険はかえりみない。命を失うとしても、全然かまわない。

 自分の命に関わらず、この世界を救う手助けをしたい。この世界を救うために、自分ができることをする。

 ただ、その一心だけが飛鳥の心を満たしていた。


「とにかく大丈夫なはずだ……保証はしないけど。やったことないし」とうとうぶっちゃけはじまったレミリネア。本音を隠すのはすでに諦めたらしい。「でも、我も我の存在すべてにかけて、絶対に成功させるつもりだ。それを信じてもらうしかない」


「わたしも大丈夫だと思う。レミリネアちゃんがこのためにずっと準備してきたんだもん、失敗なんてしないよ!」


 ユナミールが飛鳥に向けて言った。その周囲に、目には見えないがネムールの気配を感じる。三人とも、それをはっきりと感じ取っていた。


「ネムールもついておる」


「うんっ、ネムちゃんも一緒にいるんだ!」


「そうだね、大丈夫だ」


 飛鳥は砲身の中を覗いた。特になにがあるわけでもない。火薬を使うわけでもないから、当たり前か。思いながら、内部にびっしりと書かれた魔術文字を見る。一文字たりとも読めはしないが、その組み合わせと配列により効果を発揮するらしいことは、聞いてしっていた。


「さあ、あまり悠長にもしていられん。世界の皮膜はやがて戻る。あれ(・・)の姿が見えているうちに、やってしまうぞ」


 言って、飛鳥に指示を出すレミリネア。

 単に砲身の中に入るようにとのことだったので、飛鳥はそれに従った。人一人が入っても余裕のある内部に、うつ伏せの体勢で収まる。


 別れの時が来た。その覚悟を決める。


「アスカ……」


 ユナミールが覗いてきた。


「ユナミール……絶対に、また、会おうね」


 顔を見て、それだけ告げる。


「ユナミール、もう始めるから離れろ!」レミリネアが言った。


 怒られたユナミールは飛鳥の顔を目に焼きつけると、すぐに走って離れた。事前に言われていた距離まで離れる。


「アスカ、準備はいいな」


「はいっ!」


「あんたとはこれでお別れになる。あんたはなにもしなくていい。ただ、元の世界に帰るだけだ。それだけで、我らの世界は救われるだろう。そして、あんたは英雄となる━━さあ、始めるぞっ!」


 レミリネアが詠唱する。

 最初にして、おそらく最後の大魔術━━異世界より訪れた人間を、元の世界へ返す秘術を。


「阡の時空を越えし者よ、旭日と共に来たりて灰日と共に橋を渡る。つつ闇の海、金色の光射し、差し向かう我らの世界を繋ぎし雷━━」


 砲身が━━異世界ランチャーが発光する。

 内部の魔術文字ひとつひとつがすべて反応を示し、その魔力を解き放とうとしている。


 飛鳥の身体を包む光。

 薄く緑色に発光し、温かさを感じる。


「時の河は歪み、龍の尾は今この手の中に。明日の流星に願いを告げる、異世界よりいらっしゃったお客さまがお帰りになります━━」やっぱり、レミリネアの詠唱は最後のほう少しおかしくなるのだった。


「どこの世界か存じませんがっ━━」砲台に付けていた右手を思い切り引いて━━


「そっちにお返しいたしますぅぅぅ、オラぁぶぅーっっっ飛べこんちくしょおぉぉぉぉぉーっ!!!!!」


 右手でずどんっ、と砲身の後ろを強打した。


 瞬間━━


 ずどばごぉぉぉぉぉん!!! という、ど派手な音と衝撃を伴って、人間砲弾そのものと化した鹿守飛鳥が撃ち出された!


 とんでもない速度で、あっという間に、上空へ。


 レミリネアは目をカッ開いたまま静止して。


 ユナミールはへにょんと地面に座り込んだ。

朝のユナミール市場は賑わっていた。

水揚げされたばかりのユナミールが競りにかけられ、二束三文で買い叩かれている。ユナミールはとにかく漁獲量が多く、広く一般家庭で親しまれているものなので仕方ない。

だが、そんな中でも稀に紛れ込むネムールという魚は希少で、ユナミールの突然変異した個体であるそれは味も大きさもユナミールとは似ても似つかぬ別格であり、価格もまた天と地ほどの格差があった。

今朝はどうやら、そんなネムールが何匹か水揚げされたようである。

寿司屋を営む鹿守飛鳥は、ネムールを競り落とそうと心に決めた。


次回「新しい世界」


チェックしてくださいね!

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