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短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています   作者: 鈴木智一
第二章 異世界アドベンチャー
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いなくなっちゃった

「あんたなぁ……もう、なんなのその石積み上げるやつぅ」


 レミリネアは特に飛鳥の家周辺に急増した石の塔━━といっても、たいした高さではないが━━と、今もそれを増やし続ける当人にうんざりしながら声をかけた。

 エルエスデイの効果はあったはずだが、なぜかこの変な趣味というか行動は、やめないのだ。もうすっかり癖になったようで、もはや平らな石を積み上げる職人と化している。


「なんか……なんとなく、落ち着くっていうか。なにかしてないと落ち着かなくて」


「だとしても、他になんでもあるだろう。植物はどうした。ちゃんと見ているのか?」


「もちろんそれは見てるけど、すぐに終わっちゃうし」言って、またひとつ石を重ねる。


「はああ~、もう、早く帰ってこないかなー。ネムールとユナ……おっ?」


 レミリネアが名前を口にしかけたところに、まさにその待ち人が現れた。一見して疲労困憊(こんぱい)した様子で、髪も衣服もぐちゃぐちゃだった。見たところ、泥などで汚れている。まさに大冒険から帰還したといった様相だった。


「おお、帰ってきてたのか! 見ろ、アスカなんてもう、なんだかわからない石の塔を作るようになってしまったんだぞ……。で、どうだった。ネムールは?」


 汚れた顔は、顔色も悪く。

 なんだか悲しげな表情のユナミールは、いつもとはどこか違った微笑を浮かべ、口を開いた。


「ネムちゃん、いなくなっちゃった」


「えっ……」


 それはつまり━━


「まさか……ネムールは……」飛鳥もそのことに思い至り、心に痛みを覚える。まだはっきりと事実を認識する以前に、心を締め付ける悲しい予感。それはすぐ涙に変わり、悲しいということ以外にはなにも考えられなくなってしまう。


 飛鳥が泣きだしたことで、ユナミールもすぐに同じような、いや、それ以上の状態になってしまった。


「ベムひゃんがあああ、実ぃ、木のびを食べたのにいいい……なんべ、どぼぢでっ、ダメだったのびゃああああっ!」


「ネムール……」レミリネアも悲しくなって、少しだけ泣いてしまった。


 後日、落ち着きを取り戻したユナミールから、レミリネアと飛鳥の二人は詳しい話を聞くことができた。

 フィーガウルワの町を出てから、ネムールが死んでしまうまでの話を。


 それによると、竜巻を越えた先で一面に花が咲き乱れる場所があって、その中央に木が、そして木にはひとつだけ真っ赤な実がなっていたという。その奇跡の実を、ネムールは確かに食べた。ただ、半分はユナミールも食べたようで、それがよくなかったのではないかと本人は言ったが、レミリネアに否定された。もし効果があるのなら、半分だろうが一口だろうが、実を食べたそのあとすぐにネムールが亡くなることはなかったはずだ、と。同時に、実に原因があったという可能性も否定される。ユナミールが無事だからだ。つまり、ネムールの命はどうしようもなかった。木の実はあったが、延命の効果がなかったと言わざるを得ないだろう。


 ネムールのことは誰のせいでもないのだと、そう結論するしかなかった。

 悲しみは深く、ユナミールは体調すら崩したが、それでもすべてを投げ捨てて、諦めるようなことはしなかった。

 いずれは自分もネムールと同じ場所に行くのだと話し、それまではがんばるよと、はっきり告げていた。


 飛鳥もユナミールと同じような暗く沈んだ気持ちのまま数日を過ごしたが、生きている限りこのままではいけない、こんな状態をいつまでも続けるわけにはいかないと、ある時点で気持ちを切り替えた。

 ユナミールも徐々に元気を取り戻し、時折飛鳥とともに町の外へ出かけるようにもなってきた。

 その頃になると、レミリネアの仕事━━道具作り━━も佳境へと差し掛かり、その全貌が見えてきていた。


 飛鳥は『これで戦うのだろうか?』という予想を立てた。レミリネアに訊いても、まだ詳しい情報を隠していたので、想像するしかなかったが、形を見る限り、使い方は限られてくる。おおよその見当はついた。


 が、飛鳥の予想は外れていた。


 その道具はあくまでも、“武器”や“兵器”ではなかったからだ。


 ネムールがいなくなってから半年ほどで、その道具は完成した。当初の予定より早く、レミリネアは「我の才能が恐ろしいな。手際がよす過ぎる。天才と言うしかない」と自画自賛していた。飛鳥とユナミールも特に異存はなく、拍手とともに褒め称えた。


 出来上がった道具は━━レミリネアいわく、巨大なマジカンという話だったが━━とてもマジカンには見えず、飛鳥にとって呼ぶべき名称はひとつしか思い浮かばなかった。


 ━━これは、巨大な、大砲だよな……。


 と。

 その通り、バイチャリの動力となるマジカンは筒状の道具であるのに対して、目の前のそれは完全にデカイ砲台そのものだった。


「これで敵を倒すの?」飛鳥が問う。


「んー、そうとも言えるかもしれんけど、ちょっと違うかな? うん、多分違うな。我の予想では、きっとそうはならんな。つまり、この世界に潜む何者かをやっつけるまでには至らないはずだ。いや、もしかするとやっつけちゃう可能性もあるやもしれんが……ま、すべてはやってみるまでわからんのだ。だって、誰もやったことがないんだから」


 ━━うーん……まったくなにもわからない。レミリネアもよくわかっていないみたいだし、本当に大丈夫なのか?


 そう思う飛鳥であったが、今さら疑ってもどうにもならない。もう、すべて信じて信じきるしかないところまで来ているのだ。


 だからこそもっと詳しく教えてほしいところなのに、レミリネアは頑なにそれを拒んだ。その時が来るまでは秘密だと言ってきかない。

 ユナミールなどはすっかり諦めてしまい、ほとんど興味を示さなくなった。が、そんな彼女に対してレミリネアは協力を頼んだ。


 完成した道具に風の精霊の力を貯める。その作業にユナミールも協力してほしいと言ってきたのだ。

 もちろんそれはレミリネア単独で行うより、多少なりとも早く進められるという理由からだったが、ユナミールはこれを了承した。いなくなってしまったネムールの分もがんばって、ネムールのため、飛鳥のためにも少しでも自分が役に立てるなら、なんだってやる。そう言ってはりきっていた。今度は自分が、いつ、どの時点で、何日後に死んでしまうかもわからない。その避けられない運命が背景にあることはもちろんみんなわかっていたが、わかっていても誰も口にはしなかった。

 生きている限り、死ぬ時のことばかりに気を取られていたって仕方ない。

 今を生きろ。

 そう、ネムールも言っているような気がした。


 二人が道具に魔力を注入するようになってからは、飛鳥のスキルも上がってきていた。

 なんと、窓の高さあたりまで石を積み上げることができるようになってきていた!


 ━━よし、いいぞ! このままいけば、いずれは家の高さを越えることだって夢じゃない!


 ただ、都合のいい石が底をつきかけていたので、町の外まで行って拾ってこなくてはいけなくもなっていたのだが、拾ってきてまでやっていた。もはや飛鳥のライフワークとなっている様子だった。


「おいあんた……町の外までわざわざ出かけて……え、石持ってきたの? 石だけ? え、ちょっとおい……我の想像を越えてきたなぁ……」と、レミリネアは困惑しはじめて。


 ユナミールは「すごいすごい、なんでこんなに高くしても倒れないの?」と不思議がっていた。


 レミリネアの言葉は都合よく聞き流した飛鳥は、ユナミールに誉められたことに気をよくして更なる高さに挑戦するのだった。


 ともあれ、約束の時は刻一刻と迫っている。

そして、新しい世界がはじまる。

あなたの、わたしの、みんなの世界。

かつて在った人も、物も、すべてが繋がり、終わる世界。今はないなにもかもが、目に見えずとも永遠に消えはしないように。

終わりもまた、終わりではなく。

ユナミールは元気です。


次回「準備万端」


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