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短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています   作者: 鈴木智一
第二章 異世界アドベンチャー
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風の大地

 荒れた山岳地帯を進むと、時間経過と共に風の強さが増していった。ちょうど地底世界へのエレベーターが隠されていた場所あたりを境にして、風の大地がはじまるのだとレミリネアは語った。


「髪の毛が、ぼっさばっさぶわっさ」


「は? ってか、風強すぎない?」ユナミールには構わず、ネムールはレミリネアのほうに話しかける。


「まだまだ、こんなものではないぞ。なにしろ風の聖霊が住まう土地だからな、本当の中心部は人の近づけるようなところではないぞ」


 言いながらも、近づけるようなところではない場所の近くには行かなくてはいけない。

 山を下る途中にも、はるか遠方の恐ろしい光景は見えていた。

 天まで伸びた黒い竜巻。

 あまりにも遠くなので小さく見えるが、それでもけして近づいてはいけないということは充分に理解できる。ごく簡単に命を失うところを想像できてしまう。人間の場所ではない場所。


「まさか、向こうには行かないんだよね?」その竜巻方面を指して、飛鳥も訊かずにはいられなかった。


「行かんよ。我らが向かうのはこっち。それでも風の影響は強い場所だ。少なくとも、ここよりはずっとな。まあ死ぬようなことにはならんから、安心してていいぞ。我の魔術があれば、風の影響は抑えられる。まずは行くべき場所へ行こう」


 レミリネアが目的地とするフィーガウルワはまだ見えない。ポッチヤオ山を下山して、さらに進む必要があった。


「風がびゅおわんおわん、うわっ!」


 ふざけて歩いていたユナミールがつまずいて転び、そのままゴロゴロと回転して岩にぶつかり止まった。


「うわわ、ユナミール大丈夫っ!」


 飛鳥が真っ先に駆け出す。強い風をまともに受けてスカートが広がる。めくれ上がり、飛鳥の視界を奪った。


「のわあっ!」


 足元が見えなくなった飛鳥も転び、ゴロゴロと転がってユナミールにぶつかって止まる。


『ぐえっ!』


 二人の潰れた声が重なり、飛鳥のパンツ丸出しの様子を見てネムールはとても残念なものを見てしまったなと思う。なんというか、見ないで済んだのなら、そっちのほうがよかった。


「うふっ」


 珍しくかわいらしい笑い声をもらしたレミリネアを見やる。


「あんた、そういう笑いかたできたのね」ネムールの言葉に、レミリネアが顔を向けた。


「だって、あんなの、面白いぞ」うふふ、と笑いが止まらない。「あんたも笑え、ネムール」などと強要してみたり。


「はぁ……」


 ユナミールも飛鳥も怪我一つなく、衣服を汚しましただけで無事だった。歩けないほどではないが、それでもユナミールのようにふざけて歩けばバランスを崩すこともあるくらいには、強い風が吹き続けている。それは時折、さらに激しく吹くことはあっても、けして弱まることがない。風がやまないというのが、この土地の特徴なのだ。


 聖霊の力が集約した場所だからこその、特異な環境。そこは、人間が生活をするにはあまりにも過酷な環境下にある。それでも、かつては住んでいた人間もいたというのだから驚きだ。

 そして、これから向かうフィーガウルワこそが、かつてこの土地で人間が生活をしていた、唯一の場所なのだった。


 常に強風にさらされる環境にあるからなのか、独自に進化したような太い幹を持ついびつなかたちの木々を避けながら進む。

 植物がないわけではないが、どれもユナミールとネムールには見覚えのないものばかりで、食べられるかどうかの判断がつかない。

 生き物の姿は見られなかった。いるのかも知れないが、隠れているのか、出てこない。


 ばっさばさの毛髪を諦めたユナミールは、もうまったく気にしないで歩いていた。


「こんなに風が吹いているところ、あったんだね。わたしたちが使っていた精霊さんの力って、ほんとに、ほんのちょっとだったんだ」


 風の精霊の力は、動力として利用されることが多い。特にバイチャリを動かすのには必須の力で、触れる機会も多い。

 その力の源が、これほどまでのものだったのかと、少女たちは気づかされていた。


「もうすぐ着くぞ」


 レミリネアが言った、その少しあと。前方の木々が途絶えた。葉のないいびつな木々に囲まれた場所に、大きな穴が空いているように見えた。実際に、そこは穴だった。ずいぶんと下のほうに、家らしきものが見える。壁面には降りるための階段があるようだ。螺旋状の、壁をまわるようにして徐々に降りて行く階段。

 それとは別に、直線的に降りられる階段もあった。が、そちらはかなりの急勾配で、正直恐怖を感じるようなものだったが、レミリネアはなぜかそちらを使ったので飛鳥たちも続くしかなくなった。それに、ユナミールとネムールは平然としていたので、どうやらビビっているのは飛鳥一人だけらしい。


「足元には気をつけろよ。転んだら終わりだぞ」


 と、レミリネアが警告したのとほぼ同時にユナミールが足を踏み外した。


「うわ」とか言って、レミリネアに覆い被さるように傾く。

 しかし、とっさにふんばったレミリネアが驚異の底力を発揮して、踏みとどまった。しかしユナミールの全体重を背負い、鬼のような形相になっていたのだが、後続のネムールと飛鳥にはその表情を見る方法がなかった。


「ほんぐぬもももぬ、ぐぎぎぎぎいいいい!」


 前傾していた身体を無理矢理ユナミールごと起こして、元の体勢まで戻す。ユナミールも元の場所に戻った。


「あ、戻った」


「はひー、はっ、はっひー……」


「あ、レミリネアちゃん、ごめんなさい」


「あっ、あああ危なかったぞ、い、今のはさすがに危なかったぞ……焦って魔術どころではなかった、我は死ぬかと思った」


 普段そんな姿を見せないので、息の上がったレミリネアは珍しかった。いかにレミリネアといえど、あまりに突然のハプニングには慌ててしまう。それが証明された出来事だった。


「もうやめてね……」背後に恐怖を感じながら、再び残りの階段を降りはじめた。


 底に着くと、レミリネア以外の三人は上を見上げた。壁の高さは飛鳥の知識で言えば、ちょっとしたマンションくらいの高さがありそうだった。ちょっとしたマンションがどんな高さかは、建物によるだろうが、少なくとも飛鳥の生家である二階建ての一軒家よりははるかに高い。落ちたら死ねる高さだ。

 たとえ落下しても魔術で対処する力があるとはいえ、レミリネアが咄嗟に焦るのも無理からぬ高さである。


「ここがフィーガウルワってところなの?」


「そうだ。今は何者も住んではおらんが、かつてはここにも大勢の人間がいたのだ。厳しい環境ゆえ、他よりも限界が訪れるのが早かったのだな」と、ネムールの疑問にレミリネアが答えた。


「あれ、ここ、あんまり風が吹いていないね」


 他の三人はすでに階段を降りはじめた段階で感じ取っていたことに、ユナミールは今さら気づいて不思議がった。


「そのための穴だからな。こうでもしないと、まともに生活などできんだろう、地上は常に強風が吹き荒れておるのだからな」


「なるほどなー」


「さて、どうせ誰もおらんのだから好きな家を使うとしよう。数はある。一人一軒使えるぞ、さあ、早い者勝ちだ」


 よーし、と真っ先に駆け出したユナミールは滑りやすい砂の地面で見事に滑り、スカートの中身を丸出しにしながらスライディングで家の石壁に激突した。


「あ、足が……じいいいいん!」


「まったく……」


 呆れたネムールが助けに向かう。その時に覚えたほんのわずかな違和感は、得もいわれぬ不安な感情に近いものであったが━━この時点ではまだ、意識するほどのものではなかった。


 確実に言えることは、今も時間は進み続けている、ということだけだ。


 彼女たちの時間は、とても短い。

「ユナミールのユはユナミールのユ、ユナミールのナはナッペタン山のナ、ユナミールのミはミズレインのミ、ユナミールのー(棒)は……棒はなんだろう? なにかな? 棒だから、木の枝かな。え、なんで名前に木の枝が……なんで、どうして……教えてよママーっ!」


次回は確か「再び、金色の四姉妹」です。


チェックしてくださいね!

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