町長は大都市へ勧誘に
「これって、基礎の本じゃない。今さら読む必要もないと思うけど?」
ユナミールの部屋で、ビルド・オブ・マジックの本を目の前に、ネムールは訝しげな面持ちで告げる。
「あんた抜けてるところあるから、もしかしてなにか忘れたとか?」
生活に必要となる基本的な魔術は、一桁台の年齢には必ず習得するものだったし、誰でもできる簡単なものばかりだ。
それに、からだで覚えた術式を、そう簡単に忘れたりなんてしない。
「違うよ、忘れるわけないもの。そうじゃなくって、これ━━『異世界召喚術』」しおりを挟んでいたページを、一発で開く。
「異世界……んあぁ、これって確か、あんたのママが試したっていう、インチキ魔術じゃないの。わたしのママが言ってたわ、誰にもできない、ウソの魔術だって」
「それは、わたしのママも言ってた。インチキだって━━でも」
かつて母・リナルールが試し、その様子を見物していたネムールの母・ミームがため息をついた不可能魔術。
しかし崖っぷちに立たされた町の現状では、それに頼るより他に、活路は見いだせない。ユナミールは、そう考えている。
それに━━
「昔、この魔術で異世界から人間を呼んだっていう言い伝えがあるのだもの━━きっと、なにか原因があると思うの。うまくいかない、原因が」
「へぇ、じゃああんたは、その召喚術自体は本当で、ママのやり方が間違っていたって、そう言いたいわけね」
「別に、ママを否定してるわけじゃないけど……でも、わざわざ偽物の魔術を、こんなふうに書き残したりしないと思うの」
「そんなのわからないじゃない。ひとつくらいいたずらでウソの魔術を書いたかもしれない。言い伝えだって、誰かのウソかもしれないし」
ネムールは徹底して否定派のようだったが、それでもユナミールはくじけなかった。
どうにか説得すると「仕方ないわね」と折れたネムールが付き合ってくれることになった。
「せっかくの太陽の日なのに、あんたの思いつきに付き合わされるなんて……まあいいわ、今日の夜はピリカラお肉っていう楽しみがあるから、それに免じて手伝ってあげるわよ」と、ヨダレが垂れた口元を拭いながら、ネムールは言った。
「うん、ありがとじゅるるりる!」口内に溢れた自らの甘い唾液をこぼしそうになりながら、ユナミールは笑顔で立ち上がる。
*
もうひとり、ミミーネにも協力を頼もうとしたユナミールであったが、家を出てすぐに彼女の姿を見つけたのだが、町長のリティファも一緒にいる。
ふたりとも、旅格好のように見えた。
「ミミーネ? どこかへ行くんですか?」ネムールが、リティファに向かって問いかけた。
「おはよう、ふたりとも。これからわたしはカリスレギアへ行き、この町にきてくれる男性がいないか、探してみようと思います」
最後の男性が作った子供が女の子だったことで、この町の男性はひとりもいなくなってしまった。そのために、最後の手段としてリティファは他の都市から男性を連れてこようというわけだった。
「でも……きてくれる男性なんてもう」
「いないかもしれない。でも、なにもしなければ誰もいなくなって、終わるだけ。わたしももう歳だけど、このまま黙っていなくなるわけにはいかないもの。わたしの代で町の命運が決まるなんてこと、認めるわけにはいかないから」
リティファの意志はかたいようだった。もともと責任感の強い性格なので、行動せずにはいられないのだろう。
「ミミーネは?」
「あたしは護衛がてら、付いてくだけ。なんかお土産もって帰ろうか?」
「ほわわぁ……じゃあアレ、アレがいいわ!」ネムールが目を輝かせる。
「アレってなに? まったくわからん」
「アレといったらアレじゃない、カリスレギア名物のナッツケーキ!」
「あー、アレね。確かにアレは美味しいわ。じゃあ、みんなの分ももらってこよう。期待して待ってな」
「うんうん、期待して待ってるわ!」
リティファとミミーネのふたりはバイチャリ置き場に向かってしまう。ミミーネの助力は受けられなくなってしまったが、仕方ない。
他の誰かを誘おうかとも思ったが、なんとなくこのままネムールとふたりだけでやってみようと考えた。
リンコの木の間にかけたハンモックのうえで、ケシナがおやつを食べながら揺れているのを横目に見ながら、ふたりは召喚術に必要なものを集めるために町を歩いた。
おはよう、ユナミールだよ!
ママにもできなかったことだけど、やってみようと思うの。だから、応援よろしくね!
次回「異世界召喚術」
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