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短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています   作者: 鈴木智一
第二章 異世界アドベンチャー
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突然の襲撃

「どうだった、我の姉妹たちは?」


 ミナリュカたちの暮らす集落を出てすぐ、レミリネアはそんなことを尋ねた。


「予想通りというか、あんたの姉妹だってのがよくわかるというか、全員なんかおかしいよね」


 ネムールが足元の小石を蹴り飛ばし、言った。その小石は前を歩く飛鳥の尻に飛び、ビクリと反応を示す。


「あ、ごめん!」


「そうかな。みんなあんなものだろう。我らが特におかしいとは思わんが……」


「大丈夫、おかしくないよ! あっ、ヨシノブだ!」


 道端に生えていた植物を発見し、駆け寄るユナミール。


「確かに……ユナミールに比べたら、レミリネアたちはおかしくないのかも……」最も身近な親友が一番おかしかったことに気がついたネムールは、相性が悪いはずのレミリネアをも認めるしかなかった。

 ユナミールは昔っから、ちょっと人とは違っていたな。そう考えて思い返せば、いろいろな出来事があったのだ。

 ネムールの頭の中に、幼い頃のユナミールが甦る。

 ヌクモクの群れの中で寝ていて、ヌクモクのフンにまみれ泣いて帰ってきたり(ヌクモフのフンは土壌をよくするために必要だから、精霊の力では分解されない。都合よく、そういうことになっている)。

 一匹のキモッシーを執拗に素手で捕まえようとして、小川で溺れそうになっていたり……。


「うん、レミリネアたちは、普通だわ……ユナミールに比べたら」そう、認める。認めざるを得なかった。


 ユナミールが植物の葉を千切っていたので、気になる飛鳥は側に寄って質問する。


「それはどうするの?」


「ヨシノブの葉っぱは食べられるんだよ。メルールルーストゥの辺りにはないから、わたしもひさしぶりなんだけど……アスカは食べたことなかった?」


 飛鳥が召喚されてから数年。いろいろな見たことのない食べ物をいただいてきたが━━この植物に見覚えはなかった。町の、他の住人は食べていたこともあったのかもしれないが、少なくともユナミールの家の食卓に並んだことはない。飛鳥は食べたことがなかった。


「これは、ないなぁ……食べてもいい?」


「もちろん、はいっ。このまま食べれるよ」


 薄緑色の、見たことない形状の葉は多少の抵抗があったものの。見慣れないものばかり食べてきたという実績により、いくらかの耐性はついていたので飛鳥はすぐさま歯を立てた。


 カリッという、意外な歯応えがあった。


 ━━あっ、美味しい。すごく薄いキュウリみたいな感じだ。


 思った以上の味わいに、満足感がある。飛鳥があまりにも美味しそうに食べるので、見ていたネムールとレミリネアも「わたしも」「我も」と寄ってきた。

 こうして、道端で葉っぱを食べるおやつの時間になってしまった。ヨシノブはまばらに点在して、それなりの数があったので、食べ過ぎには注意する必要があったのだが。

 ユナミールは、食べ過ぎた。


「なんかちょっと気持ち悪い……」


「そんだけ食べたら、当たり前よ……さすがはアホのユナミールってところかしら。ブレーキの壊れたバイチャリね、まるで」


「なかなかいいたとえだな」レミリネアがほめる。


 ネムールはその言葉で気をよくしたのか、珍しくレミリネアに笑顔を向けた。


「む……ちょっと待て……あんたら全員、我の側に来い。急げ、狙われておるぞ」


「あん?」


 レミリネアが突然そんなことを言ったので、ネムールは変な声を出した。ユナミールと飛鳥は、なにがなんだかわからなかったが、条件反射的にレミリネアの言葉には従うようになっていたので、すぐに彼女のそばに寄る。

 ネムールも不審そうな顔をしながらではあったが、ユナミールたちに倣いレミリネアの近くに集まる。


 その直後━━ビュンっという風切り音が聞こえ、バチッという音と衝撃のあとで、近くの地面に矢が落ちる。それが二度三度と連続し、四人の周りに焦げたり折れたりした矢が増えていく。


「弓矢で狙われているの?」


 もうその可能性しかなかったが、ユナミールは尋ねた。全然あせっておらず、いつも通りに落ち着いたままで。


「なんでよっ、いったい誰が━━」


「おそらく狙いはアスカだろうな」と、レミリネアは答えた。


「アスカを? なんでよ、貴重な男性を殺そうとするなんて、信じられない!」


「違うぞネムール。アスカの命ではなく、アスカそのものが目的だという意味だ。命を狙われているのはアスカではなく、むしろ我ら女三人のほうだぞ」


「あ……そう。まあ、そうよね……って、それでもダメじゃない。なんなのよ、誰なのよ!」


「慌てるな、すぐに対処する。どれ━━場所は掴んだぞ。五人もおったか。見とれよ、五人まとめて沈めてやるわ」目を閉じ、集中したレミリネアが大地の精霊に呼びかけて、その力を借り受ける「大地の鉄槌━━ロック・ハンマー」


 魔力を解き放った直後、あちこちからドゴッという重そうな音が響き、次いでどさっと人が倒れた音が聞こえる。草むらの中から、木立のうしろから、それは聞こえた。


「殺したの?」


「死なんようにはしたつもりだが、わからん。正体を確かめるか? おそらくなんのことはない、男が欲しいだけの、あんたらとそう変わらん者たちだとは思うが」


 レミリネアの言う通り、倒れていた少女たちは普通の格好をしていた。少なくとも人身売買の組織にはいそうにもない、まともな格好をしている。動きにくいスカートをはいている時点で、明らかに素人然としていた。

 レミリネアいわく、近くにある小さな村の住人たちではないか、ということだった。


「どこもかしこも、男が足りんのだろう。それは仕方ない」


「だからって、アスカを無理矢理━━わたしたちを殺してまで奪おうだなんて、おかしいわよ絶対!」


「どうだろうな。あんたもその村に生まれておったら、こうして襲っていたかもしれんのだぞ?」


「襲わないわ。絶対に、そんなことしないわよ!」


「言い切るところが、良くも悪くもネムールだな。さて、今回もとっとと離れたほうがいいだろう。夜、安心して眠りたいなら、今のうちに距離を稼いでおいたほうがよいぞ」


 これ以上の面倒ごとを避けるためにも、なるべくその場から少しでも遠くへ行くことが、賢明な判断だった。

 レミリネアさえいれば、正直どうにかなる。それでも万一のことを考えれば、危険は少ないに越したことはない。なにしろ飛鳥が殺害された時点で終わりなのだから。


 四人はできるだけ遠くへ離れようと、早足で移動した。


 襲撃された地点からかなりの距離を歩いた場所で、道は突然右方向に折れ曲がり、向かうべき方角とは違うほうへ伸びていた。

 目の前はちょっとした崖になっているが、先の見渡せる平原であり、崖の下も柔らかそうな土と、繁った草花があるだけだ。

 だからといって、飛鳥は首を縦には振らなかった。

 レミリネアの「真っ直ぐ行くほうが早いから、ここを降りるぞ」という言葉には。


 つまり、崖下に飛び降りるということを、彼女は言っている。

 段階的に降りられるような足場がないので、やはり、進むのであれば飛び降りるより他にはない。7~8メートルの高さに見える。下の地面が柔らかいということを考慮しても、なお危険が想定される。地面の傾きで、着地した足がぐにゃりとなれば、そのまま骨折は免れないだろう。捻挫だけで済むとは思えない。


 が、そんな高さをレミリネアとユナミールとネムールはわずかなためらいもなく飛び降りていった。事も無げに着地してみせると、崖上の飛鳥を見上げて手招きする。


「ほら、アスカもきなさいよー」


 ネムールが言うが、飛鳥は動くことができない。身体が動かないのだ。

 なにも、スカートの中身が見られることを嫌っているわけではない。ユナミールは「もっこりしてる!」と見るたび言うが、それだってもう慣れたから、気にならない。

 この高さが嫌なのだ。

 嫌な記憶を、嫌でも思い起こさせる。


 かつて━━ビルの屋上で見た景色がフラッシュバックする。

 あの時、あの場所の高さには及ばない。けれど、"高い場所から飛び降りる"という行為そのものに、身体が拒否反応を示していた。


 あの瞬間……


 ユナミールと、そしてネムールの二人が自分を召喚してくれていなかったら。

 その"もしも"を考えただけで、目の前が暗くなるような感覚に見舞われる。


 アスファルトに叩きつけられた肉の残骸となり、魂すらその場所にこびりついていたのではないかと考えると、寒気以上のなにかを感じる。少なくとも、今の自分がいなくて、ユナミールたちと出会うこともなかったという可能性を思うだけで、飛鳥の心は凍りつきそうになるのだった。


 ━━ダメだ、オレは、飛べない。


 思った瞬間。

 ぐんっ、と身体が引っ張られる感覚があり、気づいた時には天地が逆さになっていた。見上げる先に地面があって、悲鳴を上げることすら間に合わない。

 どこか懐かしい落下の感覚を意識する間もなく、飛鳥の身体が空中で止まった。


 わずか数十センチ先に、地面。


 レミリネアの引き寄せ魔法で引っ張られた飛鳥は、その術が解かれた瞬間地面に落ちて転がった。


「いつまでも動かんから、引っ張ってやったのだぞ。あれ……魂が抜けたか?」


「アスカ大丈夫? 死んだキモッシーみたいな顔になってるよ?」


 ユナミールが覗き込むが、口と目を開いたままの飛鳥は、たっぷり数分間、放心状態になっていた。


 たまたま上空を横切った鳥類のフンが落下してきて、たまたま開いたままの飛鳥の口にすっぽりとおさまるまで、彼は反応しなかった。


「おっえええええええーっ!」


 飛び起きた飛鳥が嘔吐するも、精霊の力が働き吐瀉物をあとかたもなく処理してくれる。


「なにやってんのよ、アスカ……」呆れたネムールがとっとと歩いて行ってしまい、三人がその背中を追いかける。


 次の町は見えず、野宿に良さそうな場所を探しながら。

なにぃ……ユナミールが捕まっただとぉ?

しかしユナミールにはその時間、決定的なアリバイがある。そう、コテージの裏手にあるシャクレ福耳地蔵にお供え物をしている姿が、同僚のネムールによって目撃されているのだ。

そしてなにより一番問題なのは、わたしがそのユナミールだということだ。

いったい、誰を捕まえたんだ?


次回は「追いかけても掴めない」です!


チェックしてくださいね!

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