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短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています   作者: 鈴木智一
第二章 異世界アドベンチャー
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金色の四姉妹

「準備はいいな、タカチュン。これで勝負が決まる……負けたほうはミナリュカを諦める。勝ったほうがミナリュカの男性になる」


「うん、わかってるよガンチョン。ぼくかガンチョンか、どちらがミナリュカに相応しい男性なのか、この"ジャンケン"が決めてくれる」


 一人の少女を取り合った二人の男性は━━ようやく決着がつけられることに、喜びを隠せない様子だった。

 喜びと不安。それらがない交ぜになった複雑な表情ではあったが、どちらの口角も上がっている。

 その二人よりも更に不安そうな少女━━ミナリュカが息を飲む。


『さーいしょーはぐぅー、じゃーんけーんっ━━』


 飛鳥に教わったやり方に忠実に。

 二人は全身を躍動させて、それぞれの右手を振り上げる。


『ぽぉぉぉぉぉーんっ!』


 ━━あっけなく。

 ジャンケンだから。勝負自体はあっけなく、簡単に決した。

 あいこにもならずに。


「ひゅっ……ま、ま、負けっ…………」ガックリと膝をついたのは、タカチュンと呼ばれた男性のほうであった。

 彼が出したのはチョキ。相手のガンチョンが出した手はグーであった。


「や、やった……勝ったぁーっ!」


 勝利したガンチョンは跳ね上がって喜びを爆発させた。

 見ていたミナリュカはそのどちらにも悲しそうな目を向け━━しかし、彼女も決意したようだった。


「ごめんね、タカチュン。わたしとガンチョンで、あなたの分までがんばるから……だから、許して」


「ううぅ……うへんっ、うえっへえ~ん!」


 泣き出したタカチュンの肩に手を置いたのはネムール。やさしい目をした彼女が、やさしく声をかける。


「残念だったわね。あなたのミナリュカに対する気持ちは充分に伝わってきたわ。それに、あなたが真っ直ぐな、いいやつだってことも。だから━━」


「メルールルーストゥに、いい子がたくさんいるんだけど」と、横からユナミール。


「ちょっ、わたしが誘おうと思ったのにぃ!」怒ったネムールに、ユナミールはごめんねと言った。

 でもやめない。

 そこはさすが、ユナミールといったところだ。


「タカチュンみたいな男性に、行ってほしいの。そして、ミナリュカを好きになったみたいに、町の誰かを好きになってもらいたい。みんなほんとにかわいくていい子しかいないから、きっと素敵な女の子に出会えるはずだよ」


「うむ。そういえばあんたはどことなくシャロロに似てるよな」と、レミリネアが改めてじっくりとミナリュカの顔を見ながら言った。

 確かに、飛鳥もネムールもそういえば誰かに似ているような……と、心のどこかで考えていたのだが。まるっきりそっくりでもないが、背丈もそうだし、なにより雰囲気や声にシャロロを想起させるものがあった。それに気づけたのは、レミリネアの言葉があったからこそ。


「ほんとだ……あなた、建築係━━なんだけど、だいたいいつも飾り物とか食器ばかりこしらえていたシャロロってやつに似ているわ」ということはつまり、と呟き。「タカチュン。あんたほんとにメルールルーストゥに行ったほうがいいかもしれないわよ。ミナリュカっぽい子もいるわけだし」とアドバイスする。


「うむ、それがよいぞ。シャロロを気に入ったなら、間違いなくあんたのものにできるぞ」


 どん底まで落ち沈んだようであったタカチュンの顔が、少しだけ元気を取り戻す。

 顔を上げ、飛鳥たち一行を見る。


「ほ、ほんとです……ほんとに、ミナリュカみたいな女性が、その町にいるんですか?」


「ああ、もちろん、まるっきりの同一人物とはいかないがな、どことなくミナリュカのような雰囲気の者はおったぞ。どれ、その気があるなら紹介状を書いてやろう。我とユナミールとネムールと、名前を書けば一石二鳥。恩を着せることが━━もとい、恩を返すことにもなるし、なにより町のためになる」


 確か、カリスレギアでも同じことを言っていたはずだが。レミリネアはこのやり方が気に入ったのかもしれない。男性が行きやすくするためというよりは、自分の貢献を伝えたいという気持ちのほうが大きいようだが。なんにしろ、悪いことではない。


 一瞬だけためらった様子のタカチュンであったが、もはやここには居場所がないと悟ったのか、メルールルーストゥ行きを希望した。

 なので、レミリネアたち三人の署名入り、町への紹介状を書いて手渡す。例によって、飛鳥はサインを求められない。


 ━━まあ、いいんだけど……。


 長く一緒に暮らした二人と最後の会話を終えると、タカチュンはさっそくメルールルーストゥへと向かった。


「みなさん、特にアスカさん、ありがとうございました」ガンチョンが礼を言う。

 もうこいつはオレの女だぜ的にミナリュカの肩を抱いているのは気になるが、彼女が嫌がっているわけでもないので口出しはできない。ただ、なんとなく気になるだけで。


「なにもありませんが、空いている家を使ってください」ミナリュカも、今はもう笑顔を取り戻し、吹っ切れたような感じがあった。


 飛鳥たち四人は軽く礼を告げ、その空いている家とやらに向かう。

 ガンチョンとミナリュカのカップルも家の中に戻り、そろそろ陽も暮れてきた。


 *


 翌朝━━空いている家の一つで四人仲良く就寝し、飛鳥が二番目に目覚める。

 いつも一番に目覚めているのが、早起きが得意だというユナミール。

 飛鳥もすっかり少女たちと寝起きすることが当たり前になっていた。


 ━━ちょっと、トイレ行こう。


 ユナミールがなにやら朝食の用意をしているようなので、気づかれないようそっと外に出る。なんとなく、トイレをする時にはそんな気持ちになってしまう。


 家から離れ、なるべく背の高い草が生い茂る中に身を隠す。

 飛鳥にとっての前世である前の世界で、一大ブームになっていた『異世界もの』の小説。何冊か話題のものを読んだ記憶もあるが、そのいずれにもこんな、トイレの描写はなかった気がする。とすると、これはなかなかに禁断のトイレ描写なのではないかと思ったが、異世界小説ではなく実際に異世界での出来事だから、誰に隠す必要もない。出るものは出るのだから、仕方ない。


 ただし━━。


 さすがは異世界。この世界には魔術があるが、その使用いかんによらず、常に精霊の力は存在している。たとえば街道に雑草が生えにくい理由も、それが原因だ。ただし、放っておいても絶対に生えないというわけではないので、魔術で力を"流す"必要がある。その効力があるうちは精霊の力が強く働くので、ほとんど雑草が生えないという仕組みだった。


 話をトイレに戻すと。

 たとえば飛鳥が排泄したばかりの汚物も、その土地に常在する大地の精霊の力が働き、たちどころに分解されて吸収される。見た目には消えたように思えるのだが、大地の栄養として役立っているということだ。

 当初、このマジックのごとき現象に馴染めなかった飛鳥だが、今ではただただ楽だなと思うだけで、余計なことは考えなくなっていた。

 なによりもトイレットペーパーのようなもので事後処理をする必要がないというのが素晴らしいと、飛鳥は思う。お尻なんて拭かなくても、入浴後みたいに綺麗になっているのだから。

 精霊恐るべし━━飛鳥には見えず、感じることさえない存在だが、そういったことで実在を確認することはできる。かえってなにも感じられないほうが、気にする必要もなく、気が楽だとさえ思っていた。


 さっぱり身軽になり、ツルツルな尻も気持ちよく建物へ戻る。

 ちょうどレミリネアとネムールも目を覚ましたようで、朝食が並べられていた。


「さて、また西へ向かうわけだが━━ここを発つ前に我が姉妹と連絡を取っておきたい。一応、念のためにな。姉妹のいずれかになにかあれば、我はわかるはずだが、まあ、なにがあるやもわからんから。ひさしぶりに顔を見ておくのも悪くないしな」


「ふーん。でも、どうするの? 手紙を書いたって、すぐには届かないでしょ?」


「そんな面倒なことはせんよ。我の、我らの魔術を使えば、どんなに離れとっても顔を見て会話ができる。あとで見せてやるから、とりあえずご飯ちょうだい」


 涎を垂らしたレミリネアが、ユナミール特製のピリカラサンドを凝視している。この世界にもパンやビスケットなんかは、なぜかそのまんまの名前で存在するので、つまりは鶏肉のサンドイッチだ。

 飛鳥のうろ覚えでは、ビスケットは確か"二度焼きした"みたいな意味の、どっかの言葉が語源だったはずだが。なんでビスケットという言葉があるのか、疑問過ぎる。それに、小麦粉みたいなものはあるが、どうやら小麦粉ではなく、バレボルとかなんとかという名前のものが原料で、とにかく、異世界人である飛鳥は受け入れるのみという感じだった。


 ユナミールのピリカラサンドは飛鳥も好物なので、なくなる前にひとつ掴んだ。

 朝食後、レミリネアに連れ出された四人はなにもない空き地に集められた。


「いろいろ準備があるから、待っとって」


 言われ、レミリネアの行動を見守る。


 彼女はまず地面に穴を掘った。当然、手ではなく魔術の、精霊の力を利用して。


 穴を堀り終えると、そこに今度はミズレインの力を使い、空気中の水分や土中の水などを集め、水溜まりに仕上げる。大人が大股でギリギリ越えられるくらいの、わりと大きな水溜まりだ。

 そうしてから、水溜まりの周辺になんだかわからない粉を撒いて歩く。それを3周。別々の、三種類の粉を撒いた。最後に懐から取り出した水晶のような透明な石を水の中へと投げ入れて、詠唱をはじめる。


「ひとりあればふたり、ふたりあればさんにん、さんにんあればよにん、我ら繋がるよっつの魂、距離なくこの世にただ在れば━━」水溜まりから、淡い光が放たれて。「ママのおっぱい、しゃぶりんこ」と━━。


 ━━詠唱、最後なんかおかしくない?


 疑問もあったが。眩い光に視界が奪われ。次に視界が戻った時には、水鏡に映る金色の髪をした、レミリネアそっくりな少女の姿が見える。腰から上の姿が、水溜まりの表面に映し出されていた。


 ━━しかも、一人じゃない?


 ぼんやりとした影が重なって見える。直後、それが三人分の姿であることを悟る。一番はっきりと見える姿が交互に入れ替わり━━これはおそらく、その時に喋っている少女の姿が一番はっきり見えるようになっている━━少女たちが好き勝手に喋る。


『ひさしぶりだなぁレミリネア。我ら姉妹、いかなる時も繋がっておるが、やはり顔を見て喋るのは大事だぞぉ』ウェーブがかった髪の、ほとんどレミリネアと見分けのつかない少女が言う。


『みんな無事だね。まあ、知ってたけど。我のお家に変質者が入った話したっけ?』と、これはやや垂れぎみの目が眠そうな、ちょっとレミリネアとは雰囲気の違う少女。髪型もどこかゆるふわ感がある。


『それ、我は聞いたねんけど、レムリアーナとレミリネアは知らんて』飛鳥にとって、どこか懐かしい言葉遣いの少女は、ポニーテールに髪をまとめた、レミリネアよりやや幼い印象の顔立ちをしている。が、やはりほぼ同じ顔だ。


「姉妹たち、相変わらずなようで安心したぞ。まあ、知っておったけど」と、レミリネア。「先頃知らせてあった通り、最後の鍵となる異世界人がそばにおるが、見えるか?」


 言われ、飛鳥は緊張した。会社の面接の時に感じる空気すら、ちょっと感じながら。どうにも品定めされるようなことには、耐性がなかった。


『おおぉ、見えるぞぉ。ばっちしじゃ。ふーん、そいつがなぁ。確かに、この世界にはおらん感じだな。見たことがない』


「ちなみに、こいつはレムリアーナだ」水溜まりを指して、レミリネアは飛鳥たちに紹介した。わりといい加減なやり方で。


『なんや、魔獣みたいな顔面しとるな。なんで顔面に毛ぇ生えとるん?』


「異世界の人間は頭以外の場所にも毛が生えるらしいぞ。こいつはレナリエル」姉妹との会話をしながら、紹介も怠らない。適当な紹介だが。


『その他の人たちはなんなの? レミリネアの奴隷かな?』


「違うわよ!」これにはネムールが怒った。


「奴隷ではなく、我が数年世話になった、例の町の元住人・ユナミールとネムールだ。成り行きで、一緒に来ることになってな。なに、影響はないから問題はないぞ。これはレイミット」ぞんざいに告げて、全員の紹介を済ませる。


「なんだかよく覚えられなかった……ごめんね、レミリネア」


 同じような響きの名前が連続したため、ユナミールの頭では一度に記憶することができなかったようだ。謝るが、当のレミリネアは「別に覚えんでもいいよ」とだけ言った。


 正直なところ飛鳥も覚えきれていなかったので、名前を呼ばなくて済むように内心祈る。レミリネアとレムリアーナと、レナモエル? みたいな感じで、すでに忘れかけていた。


「約束の時まではまだ数年あるが、余裕こいて間に合わなくなることだけは避けろよ。特にレイミット。あんた、まだラビリン村で暮らしとるだろう。気に入ったのはわかるが、どこかで見切りをつけてちゃんと東へ向かうのだぞ」


 あとで聞いたところによると、ラビリン村というのは村の正式な名前ではなく、ラビリンというかわいい生き物の群生地が、そう呼ばれているらしい。人懐こいラビリンを、レイミットはたいそう気に入ったらしく、もうだいぶ長いことその生き物たちと暮らしているのだとか。彼女の目指すべき東の地のかなり手前なので、この時点でレミリネアが注意した、ということだった。


『わかってるよ、大丈夫だから。我はそこまでアホじゃないし。ちゃんと間に合うように出るから』


『レイミットのせいであかんようになったら、あんた殺すでほんまに』


『おお、レナリエルは相変わらず凶悪じゃなぁ。だからみんなに怖がられるんだぞぉ。あんたのおかげで我ら全員凶悪犯みたいに思われとったの、忘れんぞぉ』


『うっさいわ、アホレムリアーナ。あんたも忘れんと、しっかり間に合わせるんやで。遅れたらほんま、全部が台無しやからな』


「それはあんたも、我も、我ら全員同じこと。その存在にかけて、必ず成功させなくてはならんことだ。アスカもな。その時が来るまで死ぬことは許されんし、準備に抜かりがあってはならん。再三言うがレイミット、いいところでそこを離れるんだぞ」


『だーかーらー、わかってるってば!』


「ならばよい。もう言わん」


 そのようにして、だいぶ騒がしい四姉妹のミーティングが終了した。

 話だけでしか知らなかったレミリネアの姉妹たちの姿をはじめて見て、飛鳥たちは少し感動していた。ちゃんと実在していたんだなという確認にもなった。


 レミリネアだけが複数人を連れていて、残りの三人はそれぞれ単独でいるらしい。レイミットはラビリンたちと一緒だが、レムリアーナとレナリエルの二人は孤独な旅をしているそうだ。もっとも、彼女たちに孤独感は感じなかったが。


「どれ、そろそろ行くとしよう。ミナリュカらに挨拶をして、ここを出るぞ」


 レミリネアの号令で、四人はそれぞれの荷物に向かった。

チン〇、もぎれっ、ビィーム!

チン〇、もぎれっ、ビィーム!

チン〇、もぎれっ、ビィーム!


はぁはぁはぁ、これはね、はぁはぁ、男性の元気を取り戻すためのおまじないなんだって。


あ、わたしはユナミールだよ?


次回「突然の襲撃」


チェックしてくださいね!

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