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短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています   作者: 鈴木智一
第二章 異世界アドベンチャー
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ジャンケンで決めよう

 カリスレギアには北と南に門がある他は、巨大な都市を取り囲む石壁に囲まれている。

 飛鳥たち一行は、まず北門から都市を出て、そのまま北へ向かう街道を進んだ。


 広い道にはトモカズやタカユキなどの雑草がまばらに生えている。

 カリスレギアの石壁もそうだが、土木工事などの事業も精霊の力を利用して行われるため、少女たちの力だけで間に合うのだ。


 とはいえ、それなりの魔術や時間を必要とするものなので、現代においてはすでにあるものの修復以外には、巨大な建造物や新しい街道を作るということもない。今歩いている道も、時を経たことで精霊魔術の効力が薄れ、所々荒れたり雑草が生えはじめたりしている。それでもまだ道としてはっきりわかるため、あえて整備もされずにいるのである。


「あの化け物女、追いかけてこないわね?」


 時々うしろを確認しながら歩いていたネムールが、さほど心配そうでもなく言う。


 おそらくは小さな頃から自分の男性だと決められていたはずのマサッペに、子作りを拒否された憐れな女。というか、性格に問題もあったので自業自得な部分も多分にありそうな、巨体の女性ゴリーナ。

 レミリネアの強力な魔術でノックアウトしたとはいえ、さすがにもう目覚めていてもおかしくない頃合いなのだが、あの魔獣のような女が追いかけてくることはなかった。


 わざわざ置き手紙を残して「北へ向かう」と教えているにも関わらず、だ。

 諦めたのか、それともレミリネアに対して恐怖を覚えたのかもしれないが、再び姿を見ることはついぞなかった。


「さすがに懲りただろう。あの体格だ、さっきのように吹き飛ばされた経験なぞないだろうからな。今頃はお家に帰って寝ているさ」レミリネアはそう言って、いつものマイペースで歩きつづける。速くもなく、かといってスローペースでもないので、ユナミールなんかが街道脇の珍しい花に立ち止まったりした場合、すぐに距離が離れてしまう。

 そんな時は飛鳥が気づいてユナミールの手を取り、小走りでレミリネアを追いかける。

 ネムールもネムールで彼女のペースがあって、疲れると勝手に座り込み、休憩する。この場合は気づいたレミリネアが立ち止まり、戻るでもなく遠くで待つ。そんな感じで、わりとまとまりがないようでまとまっている四人の後方には、すでにカリスレギアが遥か向こうで小さくなっていた。


「バイチャリ交換してきたほうがよかったかな?」と、ユナミール。疲れた様子のネムールを見て、そう思ったらしい。


「バカね、そんな高い物、交換できないわよ。四人が乗るには、少なくとも二台はいるのよ。交換するもの、足りないじゃないの」


 ネムールはそう言ったが、実は交換したいのならできないこともなかった。つまり、レミリネアの私物に、それだけの価値の物がいくつかあったということだが、レミリネアはあえてその場では口にしない。


 街道脇の居心地がよさそうな野原で、四人は休憩を取っていた。

 レミリネアによると、もう少し先に村とも言えないほどの集落があって、かつては数人の少女が生活していたらしいが━━今でも暮らしているかどうかは不明なようだ。レミリネアがメルールルーストゥへ来る前の話だから。


「さて━━おやつのベスコを食べるとしよう」


「えっ、あんたそれもう開けちゃうの?」


 貴重な食糧でもあるメジャーなビスケット菓子の袋詰めを開けようとするレミリネアに、ネムールが言った。


「我の好物だ━━なに、たくさん買ってあるからあんたの分ももちろんあるぞ」


 その「あんたの分」は飛鳥が背負った物の中に入っている。なんだか他の三人より多くの荷物を持たされた気もするが、そこは男なので文句も言わずに受け入れる。


「わーい、わたしもベスコ大好き!」ユナミールは喜んでレミリネアのとなりに座る。二人で仲良くビスケット菓子を食べはじめた。


 そうして体力の回復を待ち、再び北へと向けて歩を進めた。前述した集落を抜けたあたりで、西へ向かう分岐があるのだとか。そこから先は、いよいよ向かうべき方向へと向かうことになる。


 夕暮れも間近に迫った頃、なんとか夜になる前にたどり着くことができた。

 狭い土地に、四軒の家が並ぶ場所。

 灯りがあるのは、その中の一軒だけだった。なんとなくそれだけで、この集落の現状もわかった。


「こーんにーちはーっ!」ユナミールが元気よく声をかける。すると、ゆっくり開いた扉から不安そうな表情の少女が顔を出した。


「はい……なにかご用ですか」


「わたしたち、今夜ここに泊めてもらいたいの。空いている場所、ないかな?」


 交渉役はユナミールだ。四人の中で一番人当たりがよく、警戒されにくい特性を持つ。レミリネアやネムールが特に警戒されるというわけではなかったが、それでもユナミールに比べると話が円滑にはいかない可能性を孕んでいる。特にネムールが……。


「ああ、そういうことでしたら……ここ以外の家はもう誰も住んでいませんから、自由に使ってもらっていいですよ」


 予想通り。灯りのない他の三軒には、今はもう住む人間がいないようだ。


「では、遠慮なく借りるとしよう。ここにはもう、あんた一人なのかな?」レミリネアが尋ねる。


「いえ、中にガンチョンとタカチュン━━一緒に暮らしてる、二人がいるんですけど……」


「ふむ……名前からして、男性か?」レミリネアが鋭く判断する。


 飛鳥もなんとなくだけど、今までの傾向と経験から、それがわかった。正直言って、この世界の男性の名前は、全員なんかおかしい。

 少女たちの名前に比べて、明らかにセンスが悪いというか、ふざけているというか。


 ━━いや、ゴリーナなんて女の子(?)もいたから、一概には言えないかな……。


 その時、家の中から二人の人物が飛び出してきた。少女の前に並び、こちらに向かって真剣な眼差しを向けている。敵意はなく、襲いかかってくるわけでもない。なにか他の意図を感じる。


 三人とも同じような髪型で、みんなかわいらしい顔つきをしているが、よくよく見れば胸の膨らみがあるのは最初に出てきた少女だけ。あとからきた二人は、その女性的な顔立ちに反して、どうやら男性であるらしかった。

 服装だけは全員女性のそれなので、飛鳥にしてみれば本当に見分けるのが困難だった。


「あなたたちに訊きたいことがありますっ!」


 右側の男性が、女性のような声で言った。


「あんたは?」


「ぼくは、ガンチョンです。こいつはタカチュン」


「ぼくがタカチュンです!」もう一人のほうも、やはりどこか声変わり前の少年みたいに、中性的な声をしていた。


「で、わたしたちになにが訊きたいのか、言ってみなさいよ」危機管理に余念のないネムールは、レミリネアの背中から告げる。ちょっとレミリネアの背中を押しながら。


「はいっ、訊きたいのは━━みなさんから見てぼくとタカチュン、どちらがミナリュカの相手にふさわしいと思いますか?」


 という質問だった。

 ミナリュカというのが、二人のうしろになった少女の名前のようだ。その相手として二人の男性のうち、どちらがよりふさわしいのか。


 などと言われても、初対面でいきなりでは、誰もなにも、答えようがないのは当然で━━。


「いや……知らぬよ」と、レミリネアにも言われてしまう。


「でもなんで、男性がここに二人もいるの?」質問には答えず、自分の疑問を返したユナミール。

 ネムールも飛鳥もそれは気になるところなので、是非とも答えてほしかった。


 それに答えたのは男性二人ではなく、ミナリュカと呼ばれた少女で━━どうやらこの集落での、様々な偶然(運よく男性が生まれたり、子供を作る前に消えてしまった少女がいたりといった)が重なって、今のような状況が作られたのだという。

 そして、少女一人に対して、男性が二人いるという問題が発生した。


「でも━━」


 どちらか一人ではなく、二人ともミナリュカと結ばれたいのなら━━。

 別に順番に、どちらかが先で、どちらかが後になることさえ受け入れれば。男性は二人とも亡くなってしまうが、ミナリュカは結果的に二人の子供を産めるのではないか。

 そう言った飛鳥に、ユナミールは「え?」と驚いた。


「それは無理だよ……あれ、アスカは知らなかったんだっけ?」


「何年もこの世界にいて、それを知らなかったとは……まあ、誰も話してなかったというだけだろうがな━━いいかアスカ。この世界の男性は一度子を作れば、消えてなくなる。そして女性のほうもまた、子供は一(・・・・)人しか産(・・・・)めない(・・・)のだよ。別の男性と、二人目の子供を作ろうとすれば━━その時は女性側も"寿命"に関わらず、即座に消えてなくなるのだぞ」


 ━━そうだったのか。完全に、なにか悪質な呪いそのものじゃないか。本当にそれが、魔女の呪いじゃないのなら、いったいなんだっていうんだろう。


 だが、レミリネアの説明で理解はできた。とにもかくにも、この世界での子作りは、徹底的に制限されているということが。


「あのぅ……それでぇ……ぼくとタカチュンと、どっちがいいか、教えてほしいんですけどぉ……できれば一人ずつ、みなさんの意見を……」


 完璧に放っておかれていたガンチョンだが、まだ粘るようだ。どうしても白黒つけたいらしい。きっと、自分たちでは解決が困難なのだろう。それは理解できた。


 しかし━━。


「あんたたちねぇ……そんなこと、わたしたちに決められるわけないじゃない。勝手に話し合って決めなさいよ。どうせどちらか一人しか選ばれないのだから、喧嘩でもなんでもして、決着をつければいいでしょうに」


 ネムールはそう言ったが、喧嘩はダメだろう。そう思った飛鳥はわりと無責任な提案をしてみた。


「だったらもう、ジャンケンで決めるしかないよね?」と。


「ジャンケンって……なんですか? というかあなたは、女性じゃないですよね? え、なんなんですか、その顔は!」気づいたガンチョンが驚愕の表情を浮かべる。その瞳には、飛鳥のヒゲ面が映っていた。


 ━━ヒゲ剃り……自分でできないから、忘れてた。


 ユナミールか、またはレミリネアに風の精霊の力でうまいこと切ってもらわないと処理できないのだ。当然のように、ヒゲ剃りのような道具が、この世界には存在しなかったから。


「ああ……この男はあれだ、突然変異の男性だから、なんか変で、顔に毛とか生えるのだ。なに、化け物ではないから、心配無用だぞ」


 ━━レミリネア……突然変異って……。


「へええー、そうなんですかぁ」なんて、ガンチョンもタカチュンもミナリュカも納得した様子だった。


 ━━そんなあっさりと!


「ところで"ジャンケン"とは?」


「え?」


「アスカのいた世界の話し合い?」


 レミリネアもユナミールも、もちろんネムールも理解していない。


「教えなさいよ」前に出てきたネムールが、飛鳥に近づく。


 ━━あれ、もしかしてジャンケンって存在してなかったのか?


 思い返せば、この世界に呼ばれてからの数年間━━ジャンケンをした記憶がない。おそらくは奇跡的に、その機会もまったくなかった。なのでまさか、この世界にジャンケンがないなんてこと、今の今まで飛鳥は思いもしなかった。


「あー、ええと、ジャンケンというのはですねぇ━━」


 グー、チョキ、パーを教え、それぞれの勝ち負けを説明し━━そもそも単純なことなので、みんなすぐに理解してくれた。


「なるほど━━こんなやり方があったとは」


 まさかの感心をされて、飛鳥は複雑な気持ちになったが。こんな単純なことでも、ない世界にはないのだなと思うしかない。

 しかし今この瞬間に、ジャンケンという遊びが生まれたわけなのだ。


 ━━まさかのジャンケンの産みの親になってしまった?


 困惑する飛鳥を置き去りに、決定的な勝負の方法を伝授されたガンチョンとタカチュン━━二人の男性は。

 いよいよ決着をつける時がきたのだということを悟り、互いに真剣な眼差しを向け合って対峙した。


 心配そうに見守るミナリュカの目の前で、いよいよ最後の戦いがはじまろうとしていた。

こないだアスカに教えてもらった「みかん」って言葉がとても気に入ったユナミールです!

みかんみかんみかんみかんみかん、みかんみかんみかんみかんみがむっばぼええええーっ!


びばい「金色の四姉妹」べすっ!


チェックしてくださいね!

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