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短い人生だけど、わたしたちは幸福に暮らしています   作者: 鈴木智一
第二章 異世界アドベンチャー
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やっと見つけた

 四人で弁当をたいらげると、残った木製の弁当箱を地面に置き、レミリネアの魔術で焼却処分する。箱も最初から燃えやすいシュウゾウの木でできたものなので、予めフラニャが処分のことまで考えてくれていたことがわかる。

 これが再利用する場合であれば、箱の材質はシュウゾウの木ではなくニシコリの木を使う。

 丈夫で長持ち、火もつきにくい木材だ。


「さて、カリスレギアでの用事はもういいだろう。少しでも先へ進みたい。西へ向かうぞ」


 目的地は遥か西にある、風の精霊イルフィームの力が集まる、風の大地ということだった。

 北には水の精霊ミズレインの力が集まる水の大地があり、東には火の大地、メルールルーストゥの町の方角、南の彼方には大地の精霊アルスベルグが支配する闇の大地があるという。


 それぞれの場所にレミリネアたち姉妹が向かい、その場所のエネルギーを利用するという話だ。その中で、レミリネアが風の大地を担当する。イルフィームとの相性もあるとのことだ。


「なにか他に交換しておくものはないかな?」


「食料も充分あるし、替えの下着も大丈夫。問題ないわ」


「うむ。道中困ることもないはずだ。別に、町や村はまだ先に、いくらでもあるからな」


 それでは、と広場をあとにしようとしたその時━━憩いの広場に切羽詰まった様子の少女が駆けてきた。顔には汗がびっしょりで、スカートも乱れまくっている。

 そのただならぬ様子に、四人は身構えた。


「たっ、たすけてーっ!」


 少し低い声の少女は、一番先に手が届いたユナミールの身体にしがみつき、その背に隠れる。


「えーっ、ど、どうしたの⁉」


「なによこいつ、突然ユナミールに……って、あんたもしかして男?」


 ぺったんこの胸と、その喉元の特徴を見てネムールはすぐに気がついた。飛鳥も少女とばかり思っていた人物は、数少ない貴重な男性だったのだ。


 ━━そうなんだよな、この世界の男って、みんなこんな感じですごく中性的な人ばかりなんだ。だから、オレみたいな男って、いないんだよ。


 だからこそ、当時ユナミールたちが珍しがっていたわけだし、今も初対面の女性には珍しがられるのだ。カリスレギアでこそ顔見知りも増えたが、他の町や村に行けば、やはり注目されることは避けられないだろう。


「は、はい、男です。マサッペっていいます。あの、ぼ、ぼくを助けてください。ぼぼぼぼくは、あんな人と子供なんて作りたくないし、まだ死にたくないんですっ!」


 マサッペの、本気の怯えが伝わってきたユナミールは「任せて、なんとかしてみるから」と慰めている。が、なんとかできるものなのか。


「ユナミールってば、またそんな安請け合いして……知らないわよ」


 ネムールが呆れた━━直後。


「おらぁぁぁぁっ! どこ行ったマサッペこの野郎ぉぉぉぉっ!」と、地鳴りのような、地の底から響き渡った化け物の声みたいな怒鳴り声とともに、広場へと何者かが走ってくる。


 一見してゴリラ系の魔獣に見えなくもないが、近くでよく見るとどうやらギリギリ人間のようだ。が、とても女性とは思えない力強さが感じられる。岩石かなにかで固めたような、恐ろしい筋肉を備えているのが衣服の上からでもはっきりとわかった。ここにきて美少女どころか化け物のような女性にも出会ってしまった飛鳥は、こいつ今までどこに隠れて暮らしてたんだと思ってしまう。今までに、この都市で遭遇したことなどなかったのに、と。


 まったく柔らかそうじゃない大きな胸だけが女性であることの微かなヒントに思えるが、飛鳥的にはどちらかと言えば野獣に分類したくなる。そんな人物が、ユナミールの背中に隠れたマサッペをついに発見してしまった。


「やっと見つけたぞこの野郎ぉ、てめーこの野郎なに逃げてんだよおめー、今日子供作るって決めてたじゃねーか、なんで逃げんだよ、お前の役割はそれなんだよ、仕方ねーじゃねーか、つーかもう一五なんだから、じゅーぶん長生きしただろーが、ああ? こちとら十九歳なんだよ! もういついなくなってもおかしくねーんだよ。子供作んなきゃなんねーんだよぉっ!」


 ぐおおっと伸びたスーパーヘヴィ級そのものの太い腕と、一本一本が肉の腸詰めみたいな指がユナミールに━━そのうしろのマサッペへと迫る。


 と、レミリネアが手で払うような仕草をした。瞬間━━


「うぎゃあっ!」と言って、大女の腕が弾かれたように離れた。自らの右腕を押さえて「なにしやがったぁぁぁ、てめーらぁぁぁ、くそ女どもぉぉぉ」と、人を殺しそうな目で睨んできた。

 いや、実際に殺人すらやりかねない。女には、そんな雰囲気があった。


「い、い、い、いやだ! ぼくはまだ死にたくない! いつか━━いつかは子供を作って死ぬことは覚悟しているけど、でも、それだって相手は違う人がいいんだよ! 少なくとも、ゴリーナとなんて、絶対に嫌なんだぁーっ!」


 叫び、ユナミールのヌクモフリュックの下にある細い腰に抱きついたまま号泣をはじめるマサッペ。彼の身体の震えからすると、本当に恐れているであろうことがわかった。


 ゴリーナと呼ばれた恐怖の大女は目を見開くと、血管を浮き上がらせたその顔は悪鬼のように醜く歪み、獣のような唸りが喉の奥から漏れている。まさに化け物。とても女性だとは思いたくないし思えないが……。


「もういいぶっ殺してやる! 子供作らねーってんならもう生きてたって意味ねーからなぁぁぁ、もういいよお前なんてそのくそ女ごとぺっちゃんこにしてピリカラのエサにしてやんよぉぉぉぉっ!」


 ぐおおおおんと咆哮し、大女がユナミールへと襲いかかる。そして、ユナミールは逃げようともせず、かと言って応戦するわけでもなくぽけーっとしている。

 ちょっと天然が過ぎる気もするが、この窮地にそこまでの危機感のなさは命にかかわる。


 飛鳥が助けようと一歩を踏み出すよりも早く、ネムールが風の精霊の力を溜めたマジカンのロックを解除して、そのエネルギーを放出する。

 通常、人に向けて使用することはあり得ないそれを人に向けた時、相手はその威力で吹き飛ばされて、大怪我につながることさえあるのだ。

 が、大女が大きすぎたのか、吹き飛ばすことはかなわなかったものの、体勢を崩すことはできた。大女━━ゴリーナが踏ん張って持ちこたえ、また改めて凶行に及ぼうとしたその時、今度はレミリネアの魔術が炸裂する。


「風の弾丸━━エアー・ストライク!」


 名称のある魔術は、すなわちそれだけ効果が安定した高位の術であることを示している。レミリネアの放ったものは、空気の塊で攻撃する、高威力の攻撃魔法だった。


「ごべろげろがっぱぁーっ!」とかなんとか言って、さすがのゴリーナも吹き飛んだ。

 岩壁のような腹部がへこんで、十メートル以上は遠くまで離れた。

 地面に転がったまま、起き上がらない。死んではいないはずだから、気絶してしまったのだろう。


「さて、あの女はしばらく起き上がれんだろうが━━逃げるなら今のうちだぞ?」と、レミリネアはマサッペに告げる。


 ようやくユナミールの腰から離れた涙目のマサッペは「でも、ぼくには行くところがないんです……かと言って、もうゴリーナの家には戻れない。戻りたくありませんっ!」と言う。


「わたしは女だけど……なんとなくわかるわ」使用済みのマジカンをしまいながら、ネムール。


「ふぅむ……」考えたレミリネアが「それならば」と口を開きかけた時、それよりも早くユナミールが言った。


「それなら、メルールルーストゥに行きなよ」と。「わたしたちが住んでいた町なんだけど、みんな、すごくいい人たちしかいないし……それに、男性がいなくて困っていたの。もしマサッペが行ってくれるなら、みんな絶対に喜ぶはずだし、町も救われる。わたしもそうなってくれると嬉しいし……どうかな?」


「メルールルーストゥは知ってる?」ネムールが訊く。


「はい、もちろん聞いたことはあります。行ったことは━━ぼくはここを出たことがないので、ありませんけど」


「そうか。あの町は我としてもオススメだぞ。少なくとも、あんな魔獣みたいなやつはおらん。ミミーネは多少デカイがな、それでも気のいいやつだ。それに、あそこならあんたの好みの人間を、あんたが選ぶこともできるだろうよ。我の結界もあるから、安全面でも抜かりはないぞ。もしあのゴリーナとかいう者が襲来しても、悪意がある限り町へ立ち入ることもできんだろうからな。どうだ、悪い話ではないはずだぞ」


 ネムールはもとより、飛鳥も意外だった。

 レミリネアが、こんなに熱心にマサッペをメルールルーストゥへ誘おうとしている姿が。

 これもきっと彼女なりの、数年暮らした町への恩返しなのだろう。そう思うことにした。


「い、いいんですか……ぼくが行っても?」


「もちろん! むしろ行ってくれないと困るよ!」ユナミールが後押しする。


「わかりました、いっ、行きますっ! メルールルーストゥに!」目を輝かせるマサッペ。さきほどまでの不安や恐怖や絶望が消え失せて、その心には希望の火が灯ったようだ。


「どれ、紹介状を書いてやろう。我とユナミールとネムールと、名前を書けば一目瞭然。我らの功績が、町にも伝わり一石二鳥。食料も分けてやろう。途中で空腹になるやもしれんからな。場所はわかるか? 南の門を抜けて、道なりに行けばたどり着くぞ」


 レミリネアたち直筆の『紹介状』と少しの食料を与えられたマサッペは何度も何度もお礼をする。


「さあ行け、あの女が目覚めないうちにな。メルールルーストゥの者たちを、よろしく頼むぞ」


「みんなによろしくね!」ユナミールが笑顔で手を振る。

 マサッペは最後に一礼すると、もう振り返ることなく走って行った。これで、彼はもう大丈夫だろう。

 それに、メルールルーストゥの町に男性を送ることができた。それがなにより嬉しいことだ。


「信じられない……あんなに探しても誰もきてくれる男性が見つからなかったのに……こんなところで、こんなタイミングで見つかるなんて」


「ほんとだね、ネムちゃん。こんなこと、あるんだね。でもよかった、やっと見つけた。たった一人だけど、すごく貴重な男性。マサッペが誰の男性になるかわかんないけど、子供は生まれる。それで充分だよ」


「これもまた運命か。マサッペの子供のためにも、我らは我らのなすべきことをなさなくてはいかんな━━あと、あの女が目覚める前に置き手紙を置いておこう」


『あんたの男は我らとともに遥か西の地へと旅立つ。さようなら、魔獣女』


 という、レミリネアの手紙を残し、四人もとっととその場を離れた。もうこの町に帰ってくることもなく、その後、ゴリーナがどうなったのかはわからない。

ユナミールとかけて、おもしろいかたちの後頭部とときますぅ……そのこころはぁ……『顔を見るまでもなく察しがつく』です!


は?


次回「ジャンケンで決めよう」


チェックしてくださいね!

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