暗い夜
メルールルーストゥの町全体が重苦しい空気に包まれ、誰もが平常とは違う心境にあった。
今までも、町民が亡くなる度に、このような状態になっていたのだろうなと、飛鳥は考える。
自分がいた世界とは異なる死を目の当たりにして、少なからず動揺する部分はあった。
死ぬと、砂になる━━肉も骨も残らず、そのためなのかお墓というものがない。
ただ、ひんやり洞窟の中に撒かれて終わり。
一応、この世界ならではの供養ではあるのだろうが、少しだけ悲しい気がするのだった。
(その悲しみから、少女たちを救うことができるだろうか)
アニメや漫画の異世界転生した主人公ならば、最後には世界を救うのだろう。
でも、自分の場合は?
━━スキルもなにもないし、身体能力もそのまま。特別な知識も技術もなく、政治に詳しいわけでもない。オレがこの世界で、この世界のためにできることなんて……。
当然のように、そう思う飛鳥だが、彼が思うよりも周りは彼に期待していた。
特別な力はなくとも、特別な存在であることに変わりはない。異世界から召喚された男は、自身で思うよりも可能性に満ち溢れていた。
「わたしも先は短いから……あなたたちのどちらかに、次の町長を任せたいと思うのだけど」
自宅にて、夕飯の席でエレーナが話し出した。
現町長。その任に就いたばかりなのに、すでに自分の死や、その先の未来を考えている。
飛鳥は改めて、この世界の苦難を実感していた。みんな、二十歳やそこらでいなくなる。原因もなにもわからず、病気ですらないのに突然その時が訪れる。
こんな理不尽なことがあるだろうか。
老いを知らない彼女たちは、果たしてそれで幸せだと言えるのか━━否だろう。飛鳥は断固としてそう思う。
「次って……そんな話は早すぎるわ!」ネムールが抗議する。
「この卵とじキモッシー、食べていい?」マレーニュが横から関係ない質問をする。
今日も隣家の面々が一緒だった。
「あんたの分はある━━もう食べたの?」ネムールは驚き「仕方ないわね、半分だけよ」と言って自分の分を半分与えた。
「けして早い話じゃないと思うの。わたしも十八歳なのよ、いつその時がきたっておかしくないのだから」
「いやだよ。お姉ちゃんはもっと生きるよ、三十歳くらいまで!」と、ユナミールは無茶な年齢を言う。
「お母しゃん、三十歳になるお?」キモッシーを噛みながら、上目遣いのエミリーナ。
「それは無理ね。そんなに生きられる人なんて、この世界にはいないわよ」
いったい、この世界はなんだというのか。
魔法や精霊の存在はある。そして、飛鳥がいた世界にあったような文明はない。それでも、生きている人間たちは同じように笑い、喜び、苦しんで生きている。
成長速度の違いが、そのまま早死にに繋がっているとも考えられるが、それにしたって砂になるなんてことは、おかしなことに違いないと飛鳥は考える。
━━本当に、早死にの原因なんて突き止められるのかな? レミリネアを疑うわけじゃないけど、それでも、絶対なんてことはないから。
いずれにせよ、その時が来るまでわからない。レミリネアでさえそうなのだから、飛鳥が考えたり心配したりしたところで、意味がないといえばないのだ。
「ユナミール、ネムール、二人とも、次の町長はお願いできない?」
「わからないわよ、そんなこと……まだ、先のことなんて……」
「わたしもネムちゃんと同じ。今はわかんないよ。だって、まだ……町長はいるんだし」
ネムールもユナミールも、エレーナの提案をその場で受けることはしなかった。
傍観者の立場である飛鳥にも、彼女たちの気持ちは理解できた。大事な人の死の先にあることなんて、考えたくもないのだ。
━━なんとかしてやりたい。けど……本当に……。
今はレミリネアを、彼女の魔術師としての使命を信じるより他にない。
たとえダメでも、元々他に解決方法などないのだから、挑戦する価値はある。
約束の時の大魔術。
━━果たしてオレは、自分の役割を果たせるだろうか?
元の世界に未練はない。あちらではもう、死んだものとして扱われているはず。それよりも今はこの世界の住人として、ユナミールたちの家族として成すべきことがあるのだった。
こんな使命感は生まれて初めてのことかも知れない。鹿守飛鳥の異世界ライフも平穏無事に終わりそうな気はしなかったが、それでも生きているという実感はこの世界に来たからこそ得られたものに違いない。
それをくれたユナミールたちに恩返しをしなくてはいけない。
飛鳥の中で、その想いは日増しに強くなるのだった。
重苦しいままだった食事の時間も終わり、夜が更け、また次の一日がはじまる。
今日も今日とてユナミール。明日も明日でユナミール。生まれた時からユナミールな、ユナミールでーす!
風邪ひいちゃったよ!
次回「五年目」です。
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