天職はこれだった
「なんでこいつがうちに……」
翌朝、ピリカラの世話に出てきたネムールの横には、金髪の魔術師・レミリネアの姿があった。
この町でしばらく世話になりたい。そう話したレミリネアの家が、なぜかネムールたちの家に決まった。
空き部屋があったというのが理由だが、それを言えば他にも空いている部屋がある家なんて、けっこうある。
主に家を建てるため尽力するミミーネが、はりきって大きな家を建てるのも理由にあった。
ミミーネが筆頭の『おうちを建てる会』は、総勢で八人いる。けれど、現在はあまり活動する機会がない。新しく必要な家がないからだ。
「ミミちゃんたちが新しいおうち建てるまで、そんなこと言わないの」
ユナミールがたしなめるけれど、ネムールの態度は変わらない。ぷい、と横を向き「こいつの仕事、どーすんのよ?」と言った。
「そうそう、この町では必ずなにか役割があるのだったな。我はなにをすればよい?」
「えっと、なにがいいかなぁ……トモカズむしりはアスカがいれば間に合うし」
と、悩めるユナミールのところに、ネムールたちのあとを追って元気に走ってきたのは、ケシナだった。
「あっ、姉ちゃん仕事決まってないんだろ。だったらあたしとキモッシー取ろうぜ」
レミリネアの手を取るケシナ。
「おお、よいぞ。では我は、この娘とキモッシーを取ろう」
「やったー、行こう行こう!」
「って、そいつあんたと同い年よ?」立ち去りかけたケシナに、ネムールは教えてあげた。ケシナもレミリネアも五歳で、歳がまったく一緒だった。
見た目は全然違うのだけど。
「うっそー、姉ちゃんも五歳なの? 嘘だろ、だってそれ……ユナミールよりデカイじゃん!」
最初から比較対象としてはじかれたネムールはイラッとしたが、口を挟むことでかえって惨めになることがわかっていたので、ぐっと我慢する。
なぜかユナミールの隣の飛鳥が、恥ずかしそうに目をそらした。
胸のことを指摘されたレミリネアは、その豊満なものを持ち上げて見せると「あんたより発育がいいだけだ」と、昨夜と同じ説明を、ケシナにもするのだった。
「すっげーな、なに食ってたんだ?」
「主にカスミを食べてたな」
━━仙人かっ!
と心の中で突っ込んだのは飛鳥だけで、この世界の住人にとってはなんのことはない、常識的な食べ物の名前である。
栄養価の高い木の実の名前が出たことで、ケシナは納得したようだが……カスミを食べただけで胸が大きくなるという事実はなかった。それ以前にレミリネアのような成長速度の少女は他にいない。
彼女は、少なくとも十歳を過ぎた少女の見た目をしていた。
「まあいいやっ、見た目が姉ちゃんだから、姉ちゃんって呼んでいいだろ?」
「ああ、構わんよ」
川の方へ歩いて行く二人は、どちらも金髪なので姉妹か、あるいは親子のように見えるのだった。もちろんレミリネアが親で、ケシナが子供だ。
「なんか……気にくわないわ、あいつ」
「まあまあネムちゃん、新しい仲間なんだから、仲良くしようよ」
「あんたはいいわよね、そーゆう性格だから。誰とでも仲良くなれてさ」
ユナミールと、その横の飛鳥とを見て、ネムールは言った。言外に、ユナミールとばかり仲良くしてるんじゃないのと言われたようで、飛鳥は少しだけ居心地が悪かった。
そんなつもりはないのだが、それでも優しいユナミールに惹かれ、どこか頼っている部分があるということは、彼自身も自覚していた。
知らない世界で、もっとも信頼している存在がユナミールであることを、否定することができなかった。
だからといってネムールと仲良くしたくないわけでもないのだが、人間関係というものはそう簡単なものではない。
あるいは逆に、簡単に運ぶようにしか運ばないようになっている━━相性というものは、誰しも必ず存在するのだ。
━━確かに、ユナミールさんが一番安心するっていうか……。
そんな内心を読まれたのではないかと、はっとした飛鳥だったが、ネムールはそこまで鋭くもない。まあいいわ、と言って自分の仕事に向かった。
「ネムちゃん、レミリネアちゃんのこと、嫌いなのかなぁ?」
「どうでしょう……会ったことのないタイプだから慣れていないってだけかも。新しくきた人って、どうしても馴染むまでに時間がかかるし」
しかも往々にして、入ってきた側よりも受け入れる側のほうが━━というのは、飛鳥が元の世界で経験した、実体験からの思いだ。
特にある一定のカタチに完成された閉鎖的な場所においては、新しい風というものは歓迎されにくいものである。
中途入社の人たちを見てきた飛鳥だからこそ、そういう理屈を理解していた。
とはいえ、ネムールが排他的であるということでもなさそうだ。
単純に、性格的なものが合わないんだろうなと、飛鳥は結論する。
畑で作業するユナミールの姿を見ながらやるトモカズむしりは、なんだか草むしりとは思えないほど幸せを感じる飛鳥だった。
━━草むしりって、こんなに楽しいものだっけか。なんだろう、すごく幸せな気持ちがする。オレの天職は、これだったのかも。
なんて思いながら、それほど残っていないユナミールの畑を中心に、その周辺のトモカズをひとつひとつむしり取る。
いやっほーい!
誰だと思うー?
誰かなー?
そうです、ユナミールでーす!
どうしてわかったのかなぁ?
次回「三年目」
チェックしてくださいね!