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必ずなにか役割はある

 わたしはね、この畑のお野菜を担当しているの━━そう説明したユナミールの横で、飛鳥はふんふんと頷いた。ピリカラ小屋担当のネムールとは、すでに別れて二人きり。


 見たところ葉物野菜も根菜も、なんとなく見覚えのあるようなものが一通り植えられている。が、やっぱりどこか違うのだろうかと、飛鳥は注意深く観察する。


「朝の分のお仕事は、食べる分を穫ってくだけなんだけどね」


 そう言って引き抜いた根菜類は、紫とオレンジ色が混じったような色で、しかもめちゃくちゃスパイラルしていた。


「ら、螺旋状⁉」と、飛鳥は素直に驚く。人参みたいなものなのだろうが、色といい形といい、地球上には存在していなかった代物だ。それだけ見ても、異世界だという実感があった。


「今日の朝はこれだけ」4本抜いて、両手に持ったユナミールが笑顔をみせる。


「それは、なんていう野菜ですか?」


「これはマイコだよ。アスカの世界にはなかった?」


「マイコですか……ええ、なかったです。はじめて見ました」なんか人の名前みたいだな……などと思いながら、奇妙な色と形状の根菜を見つめる。味の想像がつかなかった。


「あ、わたしの仕事終わっちゃったけど、アスカのお仕事、なににしようか?」


 家を出る時に、エレーナから「なにかアスカのお仕事を考えてあげて」と言われていたユナミールが頭を悩ませる。

 必ずなにかは役割が与えられるというのがルールのようで、しかしそれは必ずしも労働でなくてはいけないというわけでもなく。実際、まだ歳の低いマレーニュの役割は「朝寝」だった。まあ、役割というより個人の性質ではあるのだが。


「なんでもいいですよ。なんでもやるんで、なんでも言ってください」


「うーん、なんでもって言われても……だいたい必要な役割はそろっているし……」たっぷり数分悩んだユナミールは、ふと畑の周りに目をやったところで、なにか思い付いたようだった。


「わかった、じゃあアスカにはトモカズむしりをやってもらえばいいんだよ」


「と、トモカズむしりって……なんでしょうか?」なんとなく男性の頭髪でも引き抜く仕事に聞こえるが、きっと違うはず。とは思うものの、飛鳥はちょっと不安な気持ちで、答えを待った。


「トモカズむしりはトモカズむしりだよ。邪魔だから、引き抜くの。なんの役にも立たないからね━━あ、でもアスカを呼び出せたのって、トモカズのおかげなのかも……でも、普段はなんの役にも立たないし」


「なんかかわいそーな言われようですけど……それで、トモカズっていうのはいったい?」


 きょろきょろとする飛鳥だが、トモカズらしきものがどれなのか、まったくわからない。するとユナミールが畑の外まで歩き、地面を指し示した。


「これだよ、これがトモカズ」


 それは、なんのことはない━━ただの雑草だった。


「あ、雑草のこと、トモカズっていうんですか」


「ザッソウって言わないよ。トモカズはトモカズだから」


 ━━そうなんだ……まあ、そこは納得して覚えるしかないな。


 と、勤勉な飛鳥は頭の中にメモを取る。トモカズ……トモカズと。人の名前にしか聞こえないことで、むしろ覚えやすくていい名称だった。


「わかりました、じゃあぼくはそのトモカズを引っこ抜けばいいんですね?」


「うん、やってくれる?」


「はい、もちろん。一人残らず━━じゃなくて、ひとつ残らず地面から消し去ってやりますよ、トモカズを!」


「わぁ、アスカすごいね!」


 ユナミールに誉められたからというわけでもないが、突然やってきた異世界で、草むしりといえどおそらく大事な役割を与えられた飛鳥には、やる気と生きる気力がみなぎってきていた。それは、以前の世界では近年感じたことのない高揚感を伴って、飛鳥にとてつもないプラスのエネルギーを与えてくれた。


 朝食に呼ばれるまでの短時間に、ユナミールの畑の周囲からすべてのトモカズを消し去ったとして、しばし話題になる飛鳥であった。

こんにちは、ユナミールです。

アスカのトモカズむしりがすごいんです!

トモカズがねこそぎなくなって、きれいさっぱり消え失せました!

次の儀式に使うトモカズも、アスカが引っこ抜いたものを使います。


次回「異世界召喚術(二回目)」


チェックしてくださいね!

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