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愚かで憐れな道化師

今話は近衛軍、そしてパンツェールニ騎兵---共和国側として戦った者ではなく、憂国の士同盟の視点および国王の視点で書いてみました。


憂国の士同盟のモデルはポーランド・リトアニア共和国を滅亡に追い遣った主犯とも言えますが、ロシアなどに体よく使われた「タルゴヴィツァ連盟」です。

 私は目の前で行われている現実を・・・・受け入れ難かった。


 何故なら・・・・条約で取り決めた筈なのに・・・・古都や新都は・・・・新々都すら瓦礫の山と化しており、その瓦礫の山は赤とオレンジで着色されている。


 オレンジは炎で、赤は人間や家畜の血だ。


 女も子供も・・・・牛馬も混ざっており・・・・手足や頭部が欠けていたり、完全に「損失」している者も居た。


 何故だ・・・・何で、こんな現状なのだ?


 「し、司令官・・・・これは、一体・・・・どういう事ですか?」


 一緒に新都へ凱旋するつもりで付いて来た部下の一人が青褪めた様子で私に問い掛けてきたが私は答えられなかった。


 私自身・・・・この現実を受け入れられなかったからである。


 「・・・・よぉ」


 茫然自失する私にボロボロの衣服を着た乞食らしき男が話し掛けてきた。


 「どうだい?”憂国の士”様。自国の現状を・・・・新しい都を見た感想は?」


 乞食の男は皮肉気に私達が結成した「憂国の士同盟」に問いを投げてきた。


 「新しい・・・・都だと?これが・・・・こんな地獄絵図の何処が新々都だ!!」


 部下の一人が乞食の男が投げた問いに激昂して答えた。


 「地獄絵図?おいおい、間違えるなよ・・・・これは”始まり”なんだよ」


 「始まり・・・・・・・・?」


 この言葉に私は漸く自我を保てるようになり乞食の男を馬上から見た。


 「あんた達---憂国の士同盟は新憲法に反対してムガリム帝国に援助を頼んだろ?」


 「・・・・そうだ。この国は共和国だ。世襲制の専制君主は要らん。まして立憲君主制など・・・・・・・・」


 「そいつは、あんた達みたいな御偉い貴族様達から見れば憤飯物だろうな?しかし・・・・そういう所をムガリム帝国の奴等は漬け込んだのさ」


 英才教育を受けて謀略などを行ったくせに解らなかったのか?


 乞食の男は痛烈な皮肉を述べてきたが・・・・この現状を見れば言い得て妙だ。


 最初から・・・・帝国は、我々の国を自国の領土にするつもりだったのだ。


 だから私達の求めた援助に対し2つ返事で答えたに過ぎない。


 それを私達は見抜けず・・・・自分達の都合良く解釈し・・・・この国を・・・・我等が祖国を地獄へと叩き落とした!!


 「あんた達を見ていると古代の人間が言った台詞が実に似合うぜ」


 『憂国の士とかいうのがいて国を滅ぼすのだよ』


 「・・・・・・・・」


 短い言葉だが・・・・今の私達を痛烈に皮肉り、そして的を射た批判である事に変わりはない。


 「まぁ・・・・こうなっちまったから手遅れだ。じゃあな」


 乞食の男は言うだけ言うと私達に背を向けようとした。


 「ま、待てっ!!」


 私は馬上から乞食の男を呼び止めた。


 「何だよ?」


 煩わしそうに乞食の男は顔を半分だけ私に向けて問い掛けてきた。


 明らかに無礼だが・・・・それでも私は問い掛けた。


 問い掛ける事で・・・・今の現実から逃れたい・・・・何か、打開策は無いか・・・・知りたかったのだ。


 「何処へ・・・・行く?」


 しかし口から出て来たのは実に・・・・味気なく、それでいて「その場しのぎ」らしい台詞だった。


 声すら震えているのが良い証拠である。


 「何処へ?んなもん知るかよ。俺は乞食なんでね。何処へだって行けるし、何処でくたばるかも運次第だ。まぁ、あんた等の場合は・・・・果たして、どうなるかな?」


 自国民に八つ裂きにされてもおかしくないと乞食の男は言い・・・・今度こそ去って行った。


 それを見るしか私には出来なかったが部下達の方は自領が心配になったのか・・・・早々に地獄絵図と化した新々都から消え去り、それから遅れて私も去った。


 ただし、私が向かった先は自領ではなく・・・・ムガリム帝国から派遣された者達の陣営だが、そこで私は彼等の名乗った名前の意味を・・・・初めて知った。

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 アルメニア・エルグランド共和国歴2073年2月18日。


 その日、私は地獄と化した新都で出会った乞食と同じようなボロボロの服を纏い・・・・法執行官の前に引き出された。


 あれから私はムガリム帝国から援軍として派遣されたコンキスタドールの陣営に行き、改めて事情を尋ねた。


 話が違う・・・・政治は我々に任せる筈だ・・・・所領は安堵の筈だ・・・・


 思う限りの言葉を有らん限りの感情を込めてコンキスタドール達に言ったが・・・・彼等の返事は実に単調であり、何処までも冷たかった。


 いや・・・・その冷たさの中には私が司令官を務めた憂国の士同盟に対するあからさまな侮蔑の念が込められていた。


 『あんな口約束を本当に信じていたのか?』


 余りの言葉に私は何も言えなくなったが直ぐに噛み付いた。


 国同士の交わした約束は例え口約束でも守らなくてはならない。


 第一我々は貴方達を共和国に招き入れる算段をしたではないか。


 しかし・・・・それすら彼等は鼻で笑いながら答えた。


 『それには感謝する。だが・・・・それだけだ』


 そして私は捕えられ・・・・牢に収容されたが、その間に外の世界では瞬きするよりも早く事は運ばれた。


 先ずアルメニア・エルグランド共和国歴2073年1月12日に行われた「アルメニア・エルグランド共和国分割」によって・・・・完全に共和国は滅んだからである。


 古都はおろか新都すら焼け野原と化したアルメニア・エルグランド共和国をムガリム帝国は自国の「保護国」とする声明を発表したのだ。


 ただし、その国土を分割統治するのは武功を挙げたコンキスタドール達であり・・・・憂国の士同盟は対象外とする。


 この声明に憂国の士同盟およびシュラフタ達やマグナート達は一斉に抗議と放棄をしたが既に手遅れの状態だった。


 しかし、それでも各地では小さいが抵抗運動は頻繁に起こっており、コンキスタドール達を手こずらせたが・・・・やはり手遅れだった。


 私が牢に繋がれてから月を跨いで2月7日には各地で抵抗運動をしていた軍隊や民草全員が「反逆者」とされ情け容赦なく殺された。


 その中には私の家族も居たし同盟の中に居た戦友達も多数いた・・・・・・・・


 私は何て事をしたんだと激しい自己嫌悪に陥ったが、そんな私に更なる追い打ちを掛けるように・・・・公開処刑が行われ始めた。


 最初に公開処刑されたのは私の右腕だった同志にして伯爵だった。


 彼は囚人服を着せられた上に手枷と足枷まで填められ、左右から処刑人がズルズル引き摺らないと動けないほど・・・・憔悴し切っていた。


 以前は貴公子と謳われた美貌は見られず・・・・生気すら感じられない。


 だが私を見ると彼は静かに呟いた。


 その言葉は地獄と化した新都で出会った乞食の男と同じ台詞だった。


 『我々のような憂国の士が・・・・国を滅ぼす』


 それだけを彼は言うと罪人の処刑方法である絞首刑で・・・・処刑された上で死体を焼かれ、そして焦げた身体を晒された。


 次に処刑されたのは我々を後押し、自身も同志として地方で動いた司教だった。


 司教も伯爵同様に囚人服を着せられていたが・・・・拷問されたのか、酷い顔をしており手足も焦げ臭かった。


 伯爵同様に司教も私を見つけると同じような台詞を発した。


 それが私の耳には・・・・痛いほど聞こえたが・・・・・・・・   


 「もう直ぐ・・・・聞かずに済むな」


 私の呟いた言葉を掻き消す勢いで法執行官は判決を言い渡した。


 「憂国の士同盟の司令官だった被告人を絞首刑および火刑に処する。それを持ってアルメニア・エルクラム大公国の秩序は回復すると宣言する!!」


 判決を私は黙って聞いていたが・・・・頬を伝う涙は何故か?


 分からない。


 ただ・・・・判決を言い渡された私を処刑人2人が左右から挟んで数多くの同志を殺した絞首台に連れて行く事。


 それだけは・・・・ハッキリ分かった。 

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 アルメニア・エルグランド共和国歴---アルメニア・エルグランド大公国歴1年3月20日。


 私は監禁された部屋の窓から・・・・遥か彼方に在るだろう海を眺めていた。


 「・・・・あの2人は・・・・晴れて自由の身になったか」


 近衛騎士団と鎖帷子の騎兵団。


 どちらの長も偉大なる大契約者と縁を結び・・・・共和国の最後の意地を見せた。


 そして・・・・海に消えた。


 「・・・・君達が羨ましいよ」


 この貴族共和制の王に選ばれ、そして今ではムガリム帝国に自国を売り渡すという屈辱的な条約に署名した愚かな私には。


 しかし・・・・こうなる前に打てた手を私は・・・・打てなかった。


 そればかりか勝てたであろう戦いすら放棄してしまい・・・・この国を帝国に渡してしまった。


 本来なら怒り狂う民草の中に放り込まれて八つ裂きにされるべきだが・・・・私を生かす事で分割統治しているコンキスタドール達は民草達を制御しようとしている。


 「・・・・死ぬまで飾り物にして操り人形なのか」


 何と情けない人生か。


 これなら憂国の士同盟に属した人間達のように処刑されたい。


 私同様に共和国を帝国に売り渡したと称される売国奴---憂国の士同盟に属した人間は尽く死んだ。


 もっとも彼等は現実を受け入れられない様子だったから・・・・私とは違う意味で憐れな操り人形だったのかもしれない。


 とはいえ・・・・・・・・


 「憂国の士とは裏腹に自分達の利益を追求したのだから名前倒れも良い所だな」


 彼等は私を「飾り物」と称したが、そういう彼等も似たような存在だと思う。


 そうする事で情けない自分を慰めている面は否めない。


 「まったく・・・・情けない。そして・・・・大契約者よ。私は、そなたを羨ましく思う」


 恐らく今も何処かの大陸で行われている戦場か、そうでないなら遺跡を巡り回っているだろう偉大なる大契約者にして自由の騎士よ。


 「今度、生まれ変わったら・・・・私も自由に・・・・そなたのような鳥になってみたい」


 窓を見上げて私は言うが、果たして叶うかは・・・・判らなかった。


 しかし今の時点で判る事は・・・・・・・・


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