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第八話 椎名の友達②

「結、放課後行くの?」 

昼休みが終わる頃、愛に話しかけられた。

「椎奈ちゃんの話?」 

正直気が進まなくてどうしようか迷っていたので、すぐ返事が出来なかった。

「私も一緒に行くからね」

私の肩を叩いてそう言って、愛は自分の席に戻ってしまった。

私自身どうするか決めかねているのに…

私は、愛の心配をよそに、何も出来ない自分のことばかり気にしていた。



放課後、校門の前に椎奈とお団子頭の少女が立っていた。


正直、ずっと迷っていた。どうにか椎奈に会わないように帰ろうかと思ったのだが、こうやって待たれていると逃げ場がない。

それに、愛が着いていてくれたから少し心強かった。

愛は心配してくれていたみたいで、あまり無理しないでね、と言ってくれた。

私は何より、自分は期待されても何も出来ないという思いが強く期待に応えられずがっかりされるのを恐れていた。


「結ちゃん!紹介するね。こちら、多田美実ちゃん」

お団子頭の少女が笑顔でこちらを見て、頭を下げた。


「そんでな、あいつ、三日前くらいから自分の部屋から出てこんようになってん」

学校の近くにある公園のベンチに腰掛けて話をすることになった。

関西弁で喋る彼女の話をまとめるこうだ。


美実は、中学の時からの知り合いで近所のアパートに住む、雪という男の子の面倒を見ていた。その男の子がある日家から出てこなくなった。

その彼を心配して、何とか家から出してくれないか、ということだった。

1週間学校に来なかった愛を学校に来させることが出来た話を椎奈から聞いて、その実績から頼んでいるのだと。


愛の時とは状況が違うし、私はもちろんカウンセラーのようなことが出来るわけではない。

愛の時は、私が訪れたのはただの偶然で、愛が出てこられたのはあくまで愛の力だ。

「ごめんなさい、私には…」

「多田さん、何か心当たりある? 」

結の言葉を愛は遮って言った。

「その雪って人が部屋から出てこない理由」 

美実は言葉を濁した。

「雪、元々、悩んどって」

やから、うちは毎日声かけに行ったりお店にも誘ったのに、俯いてぼそっと言った。

「まぁ、最近なんか調子悪そうにしとったからな」

作り笑いでそう言った美実の態度から見ると、何か心当たりはあるが、言いにくそうだった。

「どんな理由があるか知らないけど、その人の意志で出たがらないのなら、無理矢理出すことは出来ないんじゃないかな」

愛が言う。

「うーん、確かにそうなんやけどな…雪も助けて欲しいんじゃないやろかって」

「じゃあ、理由が分からないと動けないよね。その雪って人の所に今から…」

「ごめんな、初対面の人にこんなこと頼んで。うちも八方ふさがりやったから、誰かに知恵貸してもらいたかっただけやねん。

話してすっきりしたわ。ちょっと自分で考えてみる。ほんま迷惑掛けてごめんな」

美実がそう言って、その場は解散になった。


家が逆方向の美実は先に別れ、途中まで同じ方向の椎奈、結、愛で一緒に歩いた。

その帰り道、愛が椎奈に聞いた。

「ねぇ、椎奈さん。あの多田さんってどんな子?関西出身?」 

「あの子は私の幼なじみのいとこなんだ。

小学校卒業まで大阪に住んでたらしくて関西弁が抜けてないらしいの。まぁ、本人も関西弁気に入ってるみたいだから、わざとかもしれないんだけどね」

椎奈が笑って言った。

「美実ちゃんのおばあちゃんが和菓子屋さんやっててね、美実ちゃんよく手伝ってるんだよ。その和菓子屋さんのお菓子すごいおいしいんだけど、今おばあちゃん転んで骨折して入院中なんだって。おばあちゃんはもう店閉めようとしてるみたいなんだけど、小さい頃から手伝ってた美実ちゃんは、お店閉めて欲しくなくて…おばあちゃん入院してからほぼ毎日店番してたみたい。さっき言ってた雪くんも巻き込んでね。」

「その雪って人のこと、椎奈さんも知ってるの?」

「うん、私も中学の時から知ってる。雪くん、同じ中学だったんだ」

それから愛は椎奈の言葉の続きを待っていたが、椎奈はなんだか言いにくそうにして続きを話そうとしなかった。


数秒間の沈黙の後、椎奈は再び口を開いて

「美実ちゃんも雪くんも、私にとってすごく大事な人だから、なんとか力になってあげたいなぁって思ったんだけどね。

今日は無理言ってごめんね、結ちゃん。

愛ちゃんも付き合わせちゃってごめん。帰り、気をつけてね」

いつもの明るい笑顔とは違う悲しそうな顔で笑った。

椎奈と手を振って別れた。その頃にはもう日が落ちかけていた。

オレンジ色の空に照らされた道をしばらく愛と並んで歩いた。


「私、首を突っ込みすぎたかな」

二人きりになって、愛がポツリと言った。

「でもさ、雪って人を救いたいんだよね。それで結にも頼ってるんでしょう。だったら、まず原因を突き止めないといけないじゃない?それなのに、何も話そうとしない。私よく分からないわ。」

俯きがちに話す愛の表情は見えない。結は相槌を打つことも出来ないでいた。

「プライベートなこと、多田さんも踏み込めないようなこと、私たちが踏み込めるわけないけど…でも、力になれるならなってあげたいな。

もし、あの夢の中いるのなら、私もあの夢の世界を経験したし…何か分かるかもしれないし。

だってあの夢の中は何も見えなくて心地よいけど…

とても怖いから」

怖い?

愛が言う夢の中の世界のことを聞きたくて、愛の顔を顔を覗き込むが、愛はその続きを話さずに結の顔を見つめて笑った。

「力になってあげたいけど、結が危ない目に遭うのは私嫌だからね。何でも言ってね」

頷いて愛につられて笑う。それ以上何も聞けなかった。空が紫色に変わる頃、愛の家に着いて、そこで別れた。


翌日の朝、私の家に愛が来るより先に椎奈が来て、血相を変えて言った。

「美実ちゃんが部屋から出てこないんだって。どうしよう」

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