第七話 椎奈の友達
「おはよう、愛ちゃん」
「おはよう、結」
扉が開いて、今日も笑顔の愛ちゃんが出てくる。
どういうわけか、あの日以降こうして毎朝愛と一緒に登校することになってしまった。
家から出てきて早速手をつなごうとする愛の手を、恥ずかしい、と言いながら振りほどく。
愛は私の隣でいつも楽しそうだ。
愛とこんなに毎日一緒にいることになるとは思わなかった。
愛は目立つグループにいて、私とは違う世界のひとだと思っていたのに。派手な髪色の子達の中で、綺麗な長い黒髪で、他の子達より化粧も派手じゃないのに逆にそれが目立って綺麗で大人びた印象だった。
教室で遠目で見ていた頃はクールな印象だった愛が今はすっかり懐いたペットのようだ。
「結ちゃん、愛ちゃん、おはよう!今日も仲良いね~」
学校の手前で後ろから椎奈がやってきた。急に仲良くなって一緒に登校しだした私たちを驚きもせずにごく普通に受け入れているようだ。愛が久しぶりに登校したときも驚かずに、結ちゃんならきっと大丈夫だと思ってたよ、と笑顔で当然のように私たちを迎えた。
愛の友達の吉原留希さんらのグループは、久しぶりに登校した愛に驚き、更に今まで愛と接点がなかった私が一緒に登校したことにすごく驚いていたのに。
あれから1週間ほど経つ今では吉崎さん達も私と愛の関係にも慣れ、私とも仲良くしてくれるようになった。友達が増えたみたいで嬉しい。
「そうだ。結ちゃん、今日会わせたい人がいるんだけど、いいかな?」
椎奈がいきなり話を切り出した。
「私の友達が困ってて、愛ちゃんの時のこと話したら、会ってみたいって。結ちゃんなら、解決できそうな気がしてさ」
「えっ、そんな…私何にも出来ないよ…」
今回愛を部屋から出てこられたのは、愛が頑張ったからだ。私が愛の家に通い続けたのはあの奇妙な夢を見たからだけど、あの夢が愛と関係があるとは言えないし、ただの偶然に決まってる。そう思って、愛にも夢のことは話さないでいた。
「結に危ないことさせないでよね」
愛が私の腕を自分側に引き寄せ庇うようなポーズを取る。
そんな危ないことじゃないよー、椎奈は笑っていった。
「まぁまぁ、会ってみるだけでも。放課後空いてる?よかったら一緒に帰ろう。他校の子だから、一緒に校門で待ってるね」
そう言って椎奈は、他の友達に声をかけられて先に学校に入って行ってしまった。
私に何が出来るというのだろう。
愛が心配そうに私を見つめていた気がした。