第三話 神薙結
結は夕暮れの住宅街にいた。日が落ちかけている。買い物帰りのご婦人や私と同じような制服を着た学生がちらほら通りかかっていた。カラスが鳴いている。
ピンポーン
やっぱり出ないのか…
三回目のインターホンを押すが誰も出てこない。どころか、扉の向こうは物音すら聞こえない。
本当に大丈夫なのかと思って、三回鳴らしてみたが…
外に出たくないだけなのかな、それだったらこれ以上鳴らすのは迷惑だよね。
そう思い、ポストにプリントだけ入れて帰ろうとした。
その時頭に夢に出てきた黒髪の少女が思い浮かんだ。
声はしないが、扉の向こうで愛が助けを求めているような気がした。
想像する。この扉の向こうはきっと暗くて、その中で愛は蹲ったり布団にくるまったりして声に出せない悲鳴を上げているのではないか。
そう思うと居ても立っても居られなくなって、扉をたたいた。ドンドンドン…そうして夢中になって声で呼びかける。
「愛ちゃん!」
思ったよりも大きな声が出て、住宅街に響いた。近くを通った女性がちらりとこちらを見た。
恥ずかしい。なんで私、たいして仲良くないのに愛ちゃんって言っちゃったんだろ…
恥ずかしくなって、その場から逃げ帰った。
次の日夢の中の黒髪の少女や椎奈の大丈夫という言葉いろんなことが頭をよぎって、先生から頼まれごとをされていないのに、また愛の自宅を訪れていた。心配だった。それに、なぜかわからないがどうしても行かないといけない気がした。それから毎日愛の自宅を訪れた。今日もまたインターホンを鳴らして扉を叩いて、音がしない扉の向こうへと呼びかける。
「愛ちゃん!」