第一二話 幸田芹果
「愛、どうしよう、芹果が、学校に来なくなっちゃった、私のせいなの」
「ちょっと祐希、落ち着いて」
そういって愛はちらりと私を見た。もしかして、これも愛や美実の時と同じなんだろうか。でも今までの出来事の、共通点が見つからない。愛はずっと夢を見ていたと言っていたけど、美実はどうなんだろう。私が見た夢とは関係あるのかな。あの長い黒髪の少女は、愛だったと思うけど…
「ねぇ、祐希、祐希のせいじゃないよ。幸田芹果を嫌ってたのは私達じゃん。私と優樹菜なんだから」
助けを求めるように留希が愛を見た。
「幸田芹果…さんって、同じクラスの眼鏡の子だよね。たまに、悪口言ってなかった?」
祐希と留希が気まずそうに目を伏せる。
幸田芹果さんは、よく言えば真面目で優等生、悪く言えば暗い女子で、クラスに友達がほとんどいない、目立たない存在だった。しかし、愛と同じグループの留希と優樹奈は、クラスで何かを決める時でもはっきり物を言わない芹果を嫌っていた。陰口を言っていたのを何度か聞いたことがある。でも、そういう場面に愛がいるのを見たことがない。愛はきっとそういう話が嫌いなんだ。
「私、芹果とは幼馴染だったの」
目を伏せたまま。祐希がぽつりぽつりと話し始めた。
「でも留希ちゃん達と仲良くなりたくて、嫌われたくなくて…芹果の、そういう話にも混ざるようになって。あの日も…」
「あの日、放課後三人で話してる時に芹果の話になって、突然芹果が入ってきて聞かれちゃって」
留希が祐希を見て、もういいよと言った気がした。祐希は何も聞こえなかったかのように続ける。
「私芹果に、私芹果の事前から嫌いだったんだからねって言っちゃった」
目から涙がこぼれだした。涙を流しながら言う。
「そしたら芹果、教室、でていって」
「幸田芹果、次の日学校に来なかったの」
留希が祐希を後ろからかばうようにして言った。
「祐希、昨日の事気にして、朝からずっと幸田芹果のこと気にしてたんだよね。それで、芹果が今日学校に来なかったの、私のせいだ…って。
私、祐希が幸田芹果のこと嫌いじゃなくても、話に混ざらなくても、祐希のこと仲間外れになんかしないのに。優樹奈だって…」
「ばかみたい」
突然、愛が言った。
「そういう変な仲間意識気持ち悪いわね。後悔してるんなら、今すぐ謝りに行くよ」