表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

第十一話 美実の世界③

「あかん、このまま終わりになんかせぇへん」

 美実が雪の腕を掴んだ。

「うちはあんたを一人にはさせへんし、お姉さんが戻ってきても…うちがおった事実は変わらん」

 雪は真剣な表情の美実を、これまた真剣な表情で見つめ返した。

「これからも近くにおらせて欲しい。好きです」

「ごめん」

 雪の答えに、周りが凍り付いた。そこだけ時間が止まったような気さえした。

「でも、」

「あの人だけでなく、君もいてくれたよね。そのことは心に留めておくよ。これからもきっと」

 雪の笑顔に、美実もつられて笑って、強く頷いた。ずっと周りに張っていた氷が溶けていくようだった。




 学校の帰り道、愛と二人で歩いていた。

「今日学校ぎりぎり間に合ってよかったね」

「ほんと、危なかったわよ」

 空はどこまでも遠く青くて、二人の間に温かな春の風が吹いた。

「結局あの二人、何だったのかしら」

 さぁ。愛が黒くざらついた甘いお菓子を一つ、口に入れた。結局よく分からなかったね、と。

「このお菓子が鍵だったのかな」

「みたいね、よく分からないけど。多田さん、黒棒って言ってた?黒砂糖で出来てるって」

 私が持っている、朝美実からもらったお菓子の袋に手を伸ばして、愛は黒いお菓子を口に運んだ。

甘い、と顔をしかめる。

 確かに甘みが強いし、独特な甘さだけれど、私にはちょうどいい。おいしい。

「それにしても結、意外と行動力ものすごいわよね。いきなり雪さん連れて来た時はびっくりしたわよ」

 びっくりしたのは私も同じだ。自分でも何故そうしたのか、わけが分からなかった。


 数時間前、椎奈に美実の部屋まで連れてきてもらい、部屋で横たわりぴくりともしない美実の姿を見て、なんとかしなきゃっていう思いが込み上げてきた。

「椎奈ちゃん、雪さんの所へ連れてって」

「このままだと私絶対後悔する」

 『後悔する』だなんて、誰のための言葉なんだ。

「あの二人に何があったか全然わからなかったけど、二人が笑顔でよかったわね。最後の方、完全に二人の世界だったし」

 ね、と頷いた。

「最初からこれは僕たちの問題だったんだ。無関係なのに干渉するのが悪いんだよ。あの人のために、僕のために巻き込まれてくれたのは分かっているし、感謝もしてる」

「でも、これでもう終わりにするんだ」

 感情のない声で話す雪の言葉に、美実が急に起き上がって、

「このまま終わりになんかしない」と言った。

 その後、好きです、と美実が雪に告白をした。みんな驚いて固まったのが分かった。

 私はその言葉を聞いて、なぜか胸が苦しくなった。なんでだろう。

 最近はおかしなことばっかり起きるし、私もどうかしてる。最近の私は一体どうしちゃったんだろう。


「結、残り食べて。甘すぎて無理」

 愛が私にお菓子の袋を渡す。中身はほとんど減っていない。

 もう、しょうがないなぁ、と袋を受け取って、またお菓子を口に入れた。

友達が増えたし、周りが笑顔なのはいいな。そう思うと、どうでもいいような気がした。


「あ、留希だ」

私たちが歩いている先に、愛の友達の吉原留希さんを見つけた。隣には、同じく友達の橘祐希さんがいて、二人とも足取りが重く見える。


愛が歩を速めて後ろから、留希の肩を叩いた。

「今帰り?どうしたの」

振り向いた二人は、泣きそうな顔をしていた。

「どうしよう、…どうしよう。私のせいで芹果が学校来なくなっちゃった」

祐希が今にも消えそうな声で言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ