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悪鬼戦乱のヴェスティード  作者: 語説囃子
【第1章:悪童の野望】
5/18

第5話【暗雲】

 前回の次回予告で告げたサブタイトル名から変えました。


【2016/9/22】

 ┗一部加筆修正しました。

 尾張国・開発工場。

 ヤスナはパソコンを操作してOS開発に勤しんでいた。

 ヨシノはその様子を見て後ろから声をかける。


「どう、ヤスナ? OSは完成しそう?」


「正直言ってかなり難しいです。従来のヴェスティードのOSはあくまで競技用として組まれたものなので参考にならないですし。ボクは戦場に出た事が無いので使用者にとって“何”がサポートと成り得るのか分からないです。実際にヴェスティードで戦闘を行ったミツコと意見交換をしないと無理です」


「そっか」


 ヨシノはパソコンの画面を見るとアルファベットと数字の羅列がいくつもあり、「ああ、全然分からん」と遠い目になった。

 これ以上は作業の邪魔になると判断し、今度はミツコの元に向かう。


「ふんふん~ん♪」


 ミツコとヨシノはソファに座り、カイお手製の洋菓子を食べていた。

 一方のカイは鼻歌を歌いながら嬉しそうにお茶の用意と追加の洋菓子を作っていた。

 因みに本日の洋菓子はチョコレートケーキである。


「いやぁ、ここってむさ苦しい男ばっかりだからさ、女の子が2人も来るなんて最早奇跡だよ! いつもよりも張り切って作るね!」


 良い笑顔でチョコレートケーキを作るカイにを呆然としながら、ヨシノはミツコに尋ねる。


「ミツコはここで何してるの?」


「ヴェスティードに乗った時の感想を言ってるのよ。そしたらただで来てもらうのも悪いからってお菓子を振る舞ってもらっちゃって」


「なるほど、それにしてもなんでこんなに美味いのか……」


「なんかの雑誌で“料理ができる男はモテる”っていうのを見たらしくてずっと練習してたみたいよ」


「涙ぐましい努力だね」


 2人はパクっとチョコレートケーキを食べると頬を緩ませて「おいひ~♪」と絶賛する。そんなに食べてると太るとか指摘してはいけない絶対。

 とりあえずひと通り堪能すると、ヨシノは改めてカイに尋ねる。


「ヴェスティードに乗った時の感想ってどんな役に立つんですか?」


「そりゃあ、色んな役に立つよ。まずは操縦者にとってどんな武装や機体性能が使いやすいかを知らなきゃいけないからね。たとえば、反動の強い武装は操縦者に対する反動も大きいから運用するには一工夫いるとかね」


「なるほどー」


 何やら思案するヨシノに、ミツコは不安な表情で尋ねる。


「もしかしてヨシノ、ヴェスティードに乗りたいだなんて思ってないわよね?」


「え?!」


 ノブガが3時間で操縦方法をマスターしていたので、もしかしたら自分にも乗れるのではないかと思っていたが、ミツコは嗜めるように言う。


「ノブガのアレは規格外だから宛てにならないわ。ヴェスティードの操縦って、普通慣れるまでは3ヶ月掛かるもの」


「さ、3ヶ月かぁ」


 ヨシノが乾いた笑い声をあげると、カイも小さく笑ってお茶のお代わりを注ぎながら言う。


「ヤスナちゃんが造ってる戦闘用OSの完成を待つ方が早いかもね」


「うぅ~」


 ガックリと項垂れるヨシノ。もしかすると、自分はここでは何も役に立たない存在なのではないかと思い始めていた。

 トボトボと開発工場から去ると、港町を少し散歩する。

 割りと人で賑わっており、明るい町だ。


「お? ヨシノどうした?」


 すると、茶屋の暖簾を潜って出てきたノブガと鉢合わせした。

 ヨシノは涙目になりながらノブガに抱き着く。


「うぅ~! ノブガさーん!!」


「お、おぅ?」


 抱き着かれたノブガは首を傾げて「団子でも食うか?」と尋ねる。

 ヨシノはコクコクと何度も頷き、ノブガと共に茶屋に戻る。

 ノブガは既に茶屋の団子を堪能したため、ヨシノが食べている姿を眺めている。

 ヨシノは涙を流しながら団子を食べてノブガに訴える。


「あのでふね! あだし、ここびゃ何の役にも立たひゃいんでひょうか?! 皆は凄く役に立ってひゅのに!!」


「とりあえず、食べるか話すか涙を流すか、どれか1つにしろ。流石のオレでも行儀の悪い奴の面倒は見切れないぞ」


 「えぐ、えぐ」と泣くのを止めようとして、団子の串を皿の上に置く。


「ノブガさん、何か私でも役に立てる事はありませんか?!」


「いや、お前は十分に役に立ってるが。遠江の内情を知る事が出来たしな」


「じゃあ、もっと他国の内情を調べますよ! 教えて下さい、次はどこを調べればいいですか?!」


「……いや、今は特に無いが」


 今は駿河国と遠江国を一旦スルーして三河国に目標を絞っているのだ。

 今すぐに内情を知る必要は無く、とにかく戦闘用のヴェスティードの完成が待たれている時期だ。

 ヨシノは再び大泣きする。


「やっぱりあたしなんて役立たずなんだぁぁぁ!!」


(面倒くさい……)


 ノブガは溜め息を吐いてらしくもない事をしている自覚をしつつも、このままヨシノは引っ込み思案になるのも面倒なのでなんとかフォローを入れる。


「その、あれだ。今は偶々お前の出番が無いだけだ、お前も遠江の調査で疲れてるだろ、ゆっくり休むといい」


 よし、うまく言えた。ノブガが内心でフフンと得意気になっていると、ヨシノは更に泣き始めてしまった。

 ノブガは戸惑って「お、おい! どうした?!」とヨシノに声をかける。

 ヨシノはグスンと言いながら涙を拭いて目を赤くする。そしてまた泣く。


「あのノブガさんに気を遣わせてしまったぁぁぁぁ!!」


「おい、それは純粋にオレに失礼だろうが」


 折角この自分が励ましているのに一向に元気にならないヨシノにノブガは段々とイライラしてきた。『泣き止まぬなら、殺してしまえ、豊臣ヨシノ』という物騒な言葉まで頭に浮かんでしまう程に。

 拳を強く握り締めて茶屋のテーブルを力いっぱいに叩く。

 「ダン!」という音にヨシノは思わず肩を震わす。

 ノブガは一気に捲し立てる。


「ええい、鬱陶しい! お前はそんなジメジメした女じゃないだろうに! そもそもだ、自分の出来る事は他人に聞くものじゃねえ、自分自身で見つけるもんだろうが!!」


「え、あ、はい! 仰る通りです!」


「分かってるんだったら、さっさとここから立ち去れぃ!!」


「了解しました~!」


 ヨシノはノブガから逃げるように茶屋を飛び出す。やっと訪れた静寂さを堪能するが、周りからの視線を感じてノブガは途端に居心地が悪くなる。

 「フン!」と鼻を鳴らしてお茶を啜る。


「全くアイツは、何を焦ってるんだか」





――――――――――――――――――――――――――――。




「う~、ノブガさんを怒らせてしまった」


「それで、なんで俺の所に来ているんですか、豊臣さん」


 ノブガに茶屋を追い出されたヨシノはシンクとシッコクのメンテナンスの真っ最中であるトシキの元を訪れたのだった。

 トシキはヨシノの存在が気になりながらもエンジン部の点検に入る。


「ノブガ様に言われたのでしょう? 自分で見つけろと」


「それは……そうなんだけど、さぁ」


「俺も暇じゃないんで、特に用が無いなら出てもらってもいいですか?」


「トシキさん、手厳しい」


 ヨシノは溜め息を吐いて、整備に専念するトシキの後ろ姿を見る。

 いくつかの項目をチェックし、何が問題なのかを分析していく。

 ヨシノはなんとなく興味を持ち、トシキに尋ねる。


「ねえ、トシキさんは今何してんのー?」


「シンクとシッコクの整備ですね。まあ、ほとんど修理なんですが」


 スラスター部分が溶解しているのを見て、トシキはうんざりしたようにパーツ交換の作業に移行する。


「スラスターだけでなくエンジンも総取り換えですね、これは……」


「そんなに酷いの?」


「まあ、そうですね」


 ヨシノの問いにトシキは少し愚痴気味に語りだす。


「急停止と急加速を繰り返した事で無駄な燃料の浪費が目立ちますし、それがエンジンにも負荷になってもう使い物になりません、さらには基本的にブースターを最大解放した状態を維持したためにスラスターは溶解していますし」


 トシキにとってヴェスティードは一種の我が子のような存在であり、それがこのようなボロボロの状態になってしまうのは本当に心苦しいのである。

 相当ストレスが溜まっていたのかブツブツと不満を呟くトシキの姿に、ヨシノは苦笑する。

 そこで、ヨシノはふと閃いた。


「そうだ、あたし、丈夫な合金を安く売ってくれるとこ知ってるよ」


「え……?」


 トシキは目を丸くし、ヨシノに確認する。


「それは一体どういう事ですか?」


「ほら、ずっと西の方に行くとさ摂津国ってのがあるでしょ。あたしの出身国なんだけど、あそこって色々と資源が豊富でさ、鉱山とかもあるんだ」


「え、ええ。それは俺も知ってます」


 摂津国と言えば、安定した気候と海と山に囲まれた事から農漁工業に富むとても豊かな国であるとして一般的に知られている。

 しかし、摂津国産の合金という噂をトシキは今まで聞いた事が無かった。

 もしかすると国内限定での流通を行っているのか。

 訝しげるトシキとは対照的にヨシノはやっと自分の持つ情報網が役に立つと思って嬉々として伝える。


「そこの鉱山で造られた合金があるんだけど、それを『硬い』『軽い』『安い』の3拍子で売ってる女の人が居てさ、確か名前は“チャマ”だったかな」


「摂津国産の合金、ですか。なるほど、それは確かに興味をそそりますね」


 トシキは数秒間だけ思案する。摂津国産の合金とやらがどれ程の強度と耐熱性が持つのかは分からない。現在使用している金属部位はトシキが知っている中でもトップクラスの強度と耐熱性を誇る。

 その金属でもこの有り様なのだ、未知数の合金を使用してみる価値はあるだろう。


「豊臣さん、そのチャマさんという方の連絡先をご存知ですか?」


「もっちろん。なんてったって、あたしは情報を取り扱わせたら右に出る者はいない新聞部部長だもん!」


 ノブガの反乱計画の中核を担うのはやはりヴェスティード。ミツコは部活で鍛えたヴェスティードの操縦技術を活かし、ヤスナは電脳部で培った知識を活かしてOSの作成をしている。

 各々が自分達の特長を活かしてヴェスティード開発に尽力している。

 なら自分はこの情報網を活かす事でヴェスティード開発の手助けをしようと、ヨシノは強く思った。


 そんな時だ。


「ヨシノ、前田さん!」


 ミツコは慌てた様子で2人の元にやってきた。

 肩で息をする程の焦燥している事から只事ではない事が伺える。

 ヨシノはミツコの元に駆け寄る。


「どうしたの、ミツコ?!」


「み、三河国がこっちに向かって来てるって情報が入ったの!」


「ええっ?!」


 ミツコはトシキの方を向く。


「シンクを使わせてもらえませんか?」


「それは無理です。まだ整備が終わってませんから」


「整備が終わるのは……?」


「1機だけでも1日はかかります」


 3人が沈黙していると、「だったら1日保てばいい話だな!」という声が響いた。

 声のした方を見れば、案の定ノブガが腕を組んで立っていた。


「簡単な話じゃねえか。今の三河は遠江と駿河に戦力を割いている。こっちに向ける戦力なんてたかが知れてるさ」


 ノブガは懐から小判を2枚取り出すとトシキに投げ渡す。


「特別報酬だ、手抜きは許さねえぜ」


「こんなものをわざわざ渡さなくても整備に手は一切抜きませんが……まあ、合金代として有り難く受け取っておきましょう」


「おう、お前のその謙虚でいて素直なところは相変わらず好ましいな! さーて」


 ノブガはヨシノの方を向くとニヤリと笑う。


「ヨシノ、お前の出番だ」


「え、あたし?」


 まさか自分が指名されるとは思っておらず、首を傾げる。

 ノブガは大きく頷く。


「何故三河がこちらに侵攻しているのか、その調査を頼みたい」


「わ、分かりました!」


「ミツコは出撃命令が出るまで待機、トシキはヴェスティードの整備を優先し、余裕があるようならカイと一緒に戦車の整備もしてくれ」


 指示を受けたミツコとトシキはそれぞれ「分かったわ」と「承知しました」と首を縦に振った。

 ノブガはそれを見届けると身を翻してトシキの工房を去った。

 外に出たノブガは懐からスマホを取り出して日付を確認する。

 ヤスナ救出作戦から既に2日経つ。


「あと4日か……」


 父のヒデユキと交わした約束の期限まで残り4日と迫った。明日、仮に三河国との戦闘になれば再びヴェスティードの整備で時間を取られる。

 そうなれば、2日という短い期間で3国を討ち取る方法を考えなければならない。

 普通に考えれば難しい話だ。出来ればせめてあと1日は欲しいところだ。

 本当に、何故今頃になって三河国がこちらに攻めて来たのか。

 もし失敗すれば、自分だけではない。自分が連れてきたミツコ達の存在も危うくなってしまう。

 そう、失敗は決して許されないのだ。不思議と利き手が震える。

 ノブガは震える手を掴むと、痩せ我慢なのか笑いだす。


「おいおい、柄にも無く怖がってんのか? 心配する事なんて何も無えだろうがよ」


 雨がポツリポツリと降り、ノブガを濡らす。

 軽かった雨足が急速に強まり、肌を刺すような痛みが全身を襲う。

 雨のせいか吹く風も冷たい。

 ノブガは雨に濡れながらも尚も輝きを放つ胸元のネックレスを掴みながら空を見上げる。


「曇り空か。まるでオレの心だな、今は何も見えやしねえ」


 だが、ノブガは知っている。

 この曇り空の先には青空が待っている事を。今降る雨は恵みをもたらす糧である事を。この身を襲う風がもたらす嵐は決して越えられないものではない事を。

 それを、自身の宝物であるこのネックレスも知っているのだ。

 空を見上げたまま、「くくく」と引き笑いする。


「オレの野望は、決して潰えやしない」





――――――――――――――――――――――――――――。




 翌日、朝9時。ノブガ、ミツコ、ヨシノ、ヤスナ、トシキ、カイの6人は開発工場内に設けられた作戦会議室に集合していた。

 ホワイトボードには尾張国と三河国の地図が貼られており、三河国の戦車隊の侵攻ルートが赤字で記されている。

 ヨシノはあの後すぐに調査に向かい、三河国側の情報を収集した。

 とりあえず、何故三河国が尾張国にへと侵攻を開始したのか。その理由が判明したので報告をする。


「どうやら、三河国の航空偵察隊が遠江国と駿河国のそれぞれの領空を移動する尾張国のヘリと輸送機を発見したらしくて、尾張国が駿河国に物資の補給を受け持っていると判断して今回の侵攻を開始したみたいだよ」


「……」


 ノブガは苦虫を噛み締めた表情を浮かべる。

 自分の取った行動がまさかこのような形で自分に返ってくるとは予想外だった。


「ヘリは恐らくヨシノを乗せた時、輸送機はヴェスティードを搬送していた時か」


「どうするの、ノブガ?」


 ミツコの問いにノブガはすぐ答えずに暫く考える。

 時間が無かったとは言え、もう少し偽装工作をするべきだったとノブガは後悔していた。

 だが、三河国がこちらにどれだけの戦力を投入したのかによっては話が変わってくる。

 ノブガは腕を組んだままヨシノに尋ねる。


「ヨシノ。こちらに向かってくる戦力、遠江に投入されたのに比べてどれぐらいだった?」


「えーと、半分ぐらいだったかな」


「……そうか」


 ノブガはほくそ笑む。これはむしろチャンスだと。

 もう一度、ホワイトボードに貼られた地図を見つめる。

 大まかに言えば【尾張国】【三河国】【遠江国】【駿河国】の順に4国は隣接している。

 国には通常それぞれ侵攻用と自衛用の2つの戦力を保持しているものだ。

 三河国は当初遠江国と駿河国の2国を標的としていたので、侵攻用の戦力を2つに分けて全力投入にしていたはずだ。

 駿河国は尾張国からかなり遠いため、そちらの戦力をわざわざこちらまで持ってくる事は考えられない。そして、三河国自身の自衛用の戦力をわざわざ割くとも思えない。今、駿河国は美濃国の侵攻をしている。三河国は美濃国とも隣接しているため、もしかしたら駿河国からの侵攻を受けるかもしれないからだ。

 そうなると、三河国がこちらに向ける戦力は遠江国に仕向けた戦力を割いていると思われる。

 ヨシノも言っていたではないか、遠江国に投入した戦力の半分(・・)だったと。

 なら、こちらに向かってきている戦力は元の侵攻用の戦力の約1/4という事になる。

 父親のヒデユキからの手出しは無用と言ったからには援護は来ない。

 だが、自分が所有する戦力だけでも対処は可能だ。むしろ注目すべきなのは現在の遠江国に割り振られた戦力の量だ。

 予想が正しいのなら尾張国に向けられた戦力と同じはず。

 迂回路を通って遠江国に侵攻、三河国が占拠した遠江国の領土を掌握出来れば三河国を挟み撃ちによる電撃作戦が可能になる。


「まだ戦闘用ヴェスティードが完成していないが、やむを得ない。このまま遠江国に侵攻するぞ」


「攻めるのはまず三河国なのでは?」


 トシキの言葉にノブガは頷く。

 三河国を攻めるスタンスを変えるつもりは無い。ただ、アプローチを変えるだけだ。


「ああ、勿論だ。オレ達が最初に討ち取るのは三河国だ。だがそのための布石として先に三河に占拠された遠江の領土をいただく。三河が抱く“尾張は駿河と繋がってる”という考察、それを利用させてもらうだけさ」


 ノブガの言葉に一同は首を傾げる。

 ノブガは種明かしを我慢するイタズラっ子のような笑みを浮かべてそれ以上の詳細を話す事は無かった。

 その後、ノブガの指示によりノブガが所有する戦車隊が出撃、三河国への迎撃を開始する。因みに、この迎撃部隊の中にはノブガも居る。

 その隙にミツコとトシキは輸送用のトレーラーに乗り込み、シンクも搭載して遠江国に向かう。途中でキャンプを張ってシンクの整備を進める。

 ヨシノは三河国と遠江国の情勢の調査、何かしら変化がある度にスマホによる電子メールを送って逐一報告を行う。

 ヤスナは引き続き開発工場で戦闘用OSを製作、カイがミツコから聞いたヴェスティード搭乗時の感想を参考にして完成を近づける。


 遠江国へ向かう最中、トシキはミツコに話しかける。


「明智さん、遠江国領土の制圧が完了したらすぐにノブガ様の加勢に向かう事になります。なるべく、シンクに負担を掛けないようにお願いします」


「分かったわ」


 ミツコはトシキの言葉に頷く。負担を掛けないようにするという事はある程度ブースターの使用を抑えての戦闘を心掛ける事になる。

 一応、トレーラーの周囲には護衛用の戦車も数台控えている。1対多数の戦闘になるわけではないので、最大機動による戦闘をする必要は無さそうだとミツコは安堵する。あれは結構心労が重なるのだ。

 窓から外の景色を伺うが、相変わらず空は暗雲に包まれていた。「ゴロゴロ!」という雷の音まで少なからず聞こえてくる。



「撃て! 撃てーい! 出し惜しみなんてするんじゃねえぞ!!」


 一方その頃、ノブガは隊長用の戦車に搭乗し、その中から無線で全機に指令を送っていた。

 既に迎撃戦は始まっており、互いの勢力は拮抗していた。ノブガからすれば今の状態は極めて理想的だ。出来るだけ拮抗して時間稼ぎをし、三河国の注意をこちらに引き付けられるかが今回の作戦の肝である。

 被弾する振動が伝わってくるが、ノブガは構わず発射し続ける。


「いいか、お前ら! この戦いは勝つためにあるんじゃねえ、次の布石として繋げるためにあるんだ!!」


 決して深追いするつもりは無い。消耗するつもりも無い。

 一方的に消耗する事になるのは三河国と遠江国だけだ。

 既に三河国は、彼女の野望に呑み込まれていたのだ。

【次回予告】


 闇に包まれた戦い。

 守るための力。

 暗雲を斬り裂く雷撃は、少女に力をもたらす。

 戦局は、動き始める。


 次回、【赤い雷光】

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