表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドアウト・ロストマン  作者: くつぎ
唯、黒い髪の夫婦
39/39

三、世界が腐り始めた日

 そうして、彼の物語は始まりを迎えました。



 ***



「めでたし、めでたし、か」



 ぐっと大きく伸びをしたその少年は、持っていた羽ペンを机に落としました。

 途中まで文字が書かれた紙に、数滴のインクが飛び散りました。



「なるほど、なるほど。なかなかの経歴だな」



 金色の髪を揺らし、少年は椅子の背もたれに体重を預けました。

 座り心地がよさそうな椅子が、少年の重みで小さく揺れました。



「そうか、そうか。なかなかの人材が手に入ったもんだ」

「はあ、まあ」



 少年の向かいで、長い白髪が揺れました。

 困ったように頭を掻くその人に、金色の髪の少年は言いました。



「なあ、俺もこいつが欲しい」



 その言葉に、白い頭が小さく傾きました。

 少年は楽しそうに笑って、続けました。



「こっちに寄越す気はないか? レスティオール」



 その問いかけに、白い髪の彼……レスティオールは、にやりと笑って見せました。



「いくら本部長の頼みでも、それはさすがに聞けませんな」

「どうしてもか?」

「どうしても」

「何故だ?」



 笑みを浮かべたままで、レスティオールは言いました。



「あんな問題児、俺じゃなきゃ御し切れませんよ」



 やけに自信満々なレスティオールに、金色の髪の少年は目を丸くしました。

 それから小さく噴き出すと、声を上げて笑い出しました。

 ひとしきり笑った後で、机に置いたままの紙に視線を落とし、少年は笑ったままで言いました。



「じゃ、問題児じゃなくなったらくれ」



 今度は、レスティオールが目を丸くしました。

 その表情を見た少年は、実に楽しそうに笑っています。



「こだわりますね?」

「大事なことだ」



 そう言って立ち上がり、少年は背中側の窓から眼下を見下ろしました。



 そこから見えるのは、『世界樹の森』の上空の風景。

 少年がいる建物を中心に、空が四色に別れています。


 北は夜のような黒い空。

 東は昼間のような青い空。

 南は夕方のような赤い空。

 西は朝のような白い空。



「早めに頼むぜ、レスティオール」



 少年は視線を下げて、呟くように言いました。

 その視線の先、建物の周囲の樹が数本、音を立てて枯れていくのが見えました。



「『終末』が来る前に、どうにか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ