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呼ぶ子の笛

作者: 黒鳥茜

段落の感覚と段落間の感覚が上手く掴めないので、読みづらかったら申し訳ない……。

私は「」を呼んだ。

その無意味な名はもはや直接呼ぶことはできず、呼んだといってもその名の代わりに、「海よ」とか「山よ」とか、「ウサギよ」とか「弓よ」とか、「それよ」とか「キミよ」とか、あるいは……いや、これ以上挙げたところでキリがないだろう。

そうして呼ばずして呼んだ「」は見飽きた姿でいつものように現れ、いつものように応えはなかった。私は塔を見上げるように「」を見上げたので、そこには塔があった。


「おうい」

塔の頂上で何かが手を振っている。いや、塔なんかに登って手など振る者は人間くらいだろう。あのひらひらキラキラしたのは人の手のひらでなければならない。木の葉?それらは地上で朽ちて舞う。星?それらは夜空に望まれる。いずれも人工の高度には住まないのだ。「」?それは――


「おうい」

おうい、と風が吹き、ぺしゃりと顔に当たったそれは鳥の羽根だった。

そういえば人間も大昔には鳥のように空を飛んだという。また、魚のように泳ぐ者もいたという。他にも様々な人間がいたが、皆いなくなった。

というのも、鳥のように空を飛ぶ者は鳥ということになり、魚のように泳ぐ者は魚ということになり、それ以外も余すことなく然り、人間ということではなくなり、人間ということは人間だけになった、それだけだ。


「おうい」

手を振る声がまだ聞こえている。

「おうい」

返事を返せば良いのだろうか?

「はあい」

……。キラキラ、キラキラ。ずっと見ていると目が痛くて思わず涙が出そうになる。

「おうい」

……?

「はあ――Dottt DaDaDaDhaa――突如鳴り響いた破裂の轟音が私の聞き耳を無慈悲につんざき、怒涛の光の塊が私の視界をべっとりと白く染めた。

大音量に隠れて、人々の小さな喧騒が聞こえてくる。

まさかまたか、と思った次の瞬間には、何が起こったのかを理解し、ああまたか、と思い直した。ここまで漂ってくる火薬の匂い。どこかで花火が上がったのだった。ここのところ毎日、それも一日に何発もだ。

なんでも花火は長寿の象徴らしく、喜ばしいことがあるとすぐに打ち上げられるらしいのだが、詳しい事情は分からない。

ちなみに打ち上げられた花火はそのまま夜空の領域に向かって行き、やがて星になる。


「――うい」

「おうい」

なんとまだ呼んでいたようだ。

「はあい」

目いっぱい大声を出す。

「おうい」

「はあい」

「おうい」

……。

「おうい」

…………。

「おうい」


………………多分、私はお呼びじゃないのだろう。別の何かを呼んでいるのだ。それなら私はもう帰ろう。「」はいつもの流れでいなくなる。

すると小さな生き物たちが静かに動き出した。ある者たちは行列をなし、ある者たちは飛び交い、またある者は触覚と足が絡まってしまったりしている。それなので、私の周りには森があり、向こうには、塔に影を落とす山があった。

そして今、私の天に影を落とすものがあり、少し聞き慣れた声による聞いたこともないような叫びが降ってくるのが分かった。


「きゃあ!」

とっさに転んで避けられたから良かったものの、直撃していたらひとたまりもなかっただろう。当の落下物はゴトンと岩のような音を立てて地面に衝突した。

事前の状況を考えると振り返らずにすぐにでもその場を立ち去りたかったのだが、返事を返し続けて居合わせてしまったという責任のようなものを無意識に感じているのか、一度ちゃんと後ろを向かないと前に進めないような自縄自縛の順序が生じていた。

ずっと固まっていても埒が明かない。このままでは帰れない。

思い切って振り返ると、そこには人間はいなかった。生きている者も生きていない者もいなかった。

リンゴ。赤く、恐らくこの種においては丁度よく熟したと言えるのであろうくらい赤く輝く、手のひら大のリンゴが地面に半身を埋めて、しかし引き抜いてみると全く無傷でそこにはあった。

なるほど、まんまとしてやられたわけだ。あの呼び子は最初からこれが目的だったのだ。イタズラとしてはやりすぎだが、鈍い私が転んで避けられるくらいなのだからギリギリ当たらないように計算して落としたのだろう。これは貰っておこう。


左手に提げている、木の実がけっこう入ったカゴに、土を払ったリンゴを詰めるとネズミの鳴き声のような音がして、それに呼応するかのようにどこからか土笛の素朴に侵食する音色が聞こえてきた。しかもそれが火の中で焼成された炎の笛だったために、塔の周囲に散らばる枯れ葉に引火して燃えた。小さな炎が塔を取り囲む姿、またその炎に映える塔が美しく、つい見とれてしまう。

さっきのリンゴ、やっぱりここで食べちゃおう。

幸いにも、もしものときのために持ち歩いていたナイフがあったので、それで皮を剥いて食べた。炎を眺めていると涙が出てきてしまっ――Dottt DaDaDaDhaa――ああ、またやってる。

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