第一章 第十二話 医務室と変態
友情出演にしておいてあげてください。
━━所変わって、医務室前━━
恭衛は最初、担ごうとしたが怪我をしているのがお腹だったため、長い溜め息をつきながら横抱きにした。
大方、『何で俺がこいつを、この体勢で運ばなきゃならないんだ。』と考えているのだろう。
他は女性しかいないのだから諦めるしかない。
太朗の向かった先から何やら振動が微かに伝わる。
乱闘になったところで、相手は一人だ。
伏兵は確認されていない。
いくら用務員室付近が手薄だとはいえ、そう何人も入れるわけがない。
すぐ近くに警備員室もあるのだから。
発覚したのも、実は警備員室の防犯カメラに人影があったからだ。
最新の画質ではないらしく、"誰かいる"レベルだった。
取り敢えず、侵入者は一人と断定されている。
医務室前に到着した。
岬が扉をあける。
……恭衛が前に出した足を後退させる。
そして一歩、更にもう一歩下がった。
佳奈子を抱えたまま。
何事かと中を覗き込む岬。
そこには笑顔の長身の男性が、白衣を着て座っていた。
「あ、恭衛!久しぶり!元気してた~?」
やけに明るい声が聞こえた。
立ち上がってツカツカ歩み寄ってくる。
いや、小走り?
「ち、近寄るな!由也!なんでおまえがここにいる?!」
珍しくヒキつる恭衛。
白衣を着た青年は《宮代由也》。
恭衛、そして佳奈子の友人だ。
「ちょっと恭衛!それ、佳奈子ちゃんじゃん!
血が出てる!早く治療しなきゃじゃん!
中入って!服脱がせて!」
"服脱がせて"の行でニヤついたのは逃さない。
「海原、頼んだ。カーテン閉めて、絶対こいつは入れるな。」
「え?でも、この方は保険医では?」
何の説明もないので、きょとんとする。
「…佳奈子が目覚めたら、分かりやすい説明が得られる。
今は聞いてくれ。」
あまり自分の口からは話したくないようだ。
「わ、わかりました。時雨先生もお願いします。」
青ざめながらも、由也を睨むのを忘れない小夜子。
岬に駆け寄る。
必要そうな薬品や包帯、ガーゼを回収して治療を始める。
「ちょっとー!俺の仕事じゃーん!仕事させてよー!
佳奈子ちゃんが心配なんだってー!」
心配しているのはわかるが、何割かは下心が見え見えだ。
容易く向かわせるわけにはいかない。
「…何故おまえがここにいるんだ。」
恭衛の顔が怖い。
「試験受けたんだよー?」
「普通には入れないはずだ。」
「…恭衛と佳奈子ちゃんの友達だって言ったら、すぐ入れてくれたよー?」
なんて粗雑な入れ方をしたのだろう。
「あ、恭衛ー!再会のちゅーしていいー?」
「…やめろ、変態!近寄るな!」
何が問題かと言えば、ご覧の通り彼は『バイセクシャル』だからだ。
守備範囲は広く、この学校だけならば生徒から教師、校長まで全てである。
二人の一進一退の戦いは、治療が済むまで続いた…。
******第十三話へ******
多分、性格は中の人まんまになりました。
佳奈子が意識なくてよかったですね。
じゃなかったら、ダブル攻撃必須です。