天川太朗side
満を持して、太朗ちゃんです。
いやぁ、内容は決まってたんですが、うまくまとまるかなぁと悩んでおりました。
━━俺は後悔なんてしていないし、しない。
俺がいた学校は荒れていた。
俺もそれに染まっていると思っていた。
だが、違った…。
ある日、少し遅くなった為に早く帰ろうと廊下を突っ切っていたら、女の小さな悲鳴が聞こえた。
聞き間違いか?いや、そうじゃない!
俺は声がする方に走り出す。
『…て!やめて!』
『おまえだってそのつもりだったろ?』
女はガキ?男は………同期だ!
「待て!」
俺は声がした教室のドアを蹴破った。
『!?』
二人ともびっくりしてこっちを見た。
……同期教師が、女子生徒の制服を無理矢理脱がそうとし、女子生徒は必死に抵抗している酷い有り様。
『な、なんだよ!天川!邪魔すんじゃねぇよ!』
「いやがってんじゃねぇか!そもそも教師が生徒に手ぇ出すな!馬鹿野郎!」
それでも離そうとしない。
…俺は虚をついて回し蹴りを放った。
ヤツは抵抗する間もなく積まれた机にぶつかっていく。
その時の俺は頭に血が上っていたから、アイツの額から血が流れても自業自得だと思っていた。
『…や!』
我に返ったのは女子生徒の息を飲む声で。
やっちまった…。
次の日、校長室に呼ばれた。
覚悟はしていたさ。辞表も書いた。
……だが、校長の口から譲りがたい台詞が聞こえた。
女子生徒をかどかわしたのは《俺》で、助けようとしたのは《アイツ》だと。
待ってくれよ…。
あの馬鹿は救いようがねぇな。
悪いとは思ってる。
他にやりようはあったってな。
けど、擦り付けはよくないぜ?
やったことは責任くらい取る。
が!やってねぇことまで被る気は毛頭ねぇんだよ!
校長は更に続けた。
彼のお父様は国会議員なんだ、なんてことをした!今からおいでになるそうだ、と。
あー…そういうこと。
《パパ》にお願いしたわけだ?
いい大人がなぁ?
国会議員だか何だか知らねぇが、腹くくった俺に怖いもんはねぇんだ。
隣で勝ち誇ったヤツの顔に消えない泥を塗ってやるぜ。
ドアに張り付いて聞いてるガキ共もちゃんと聞いてやがれ!
…廊下から高そうな靴音が響き、生徒が声を殺しながらも薄らざわめいている気配がする。
……ドアの前でノックをした瞬間。
「校長!あんたの良心はドブにでも捨てたらしいなぁ?!
こいつの教科は体育!俺の教科は歴史!
それはあんたがよぉく知ってるはずだぜ?」
…ドアの外で躊躇している気配がしたが、気にも止めず捲し立てる。
「こいつの理屈を信じた時点で、あんたはガキ共からの信頼を踏み潰したんだよ!
あの時間帯、俺が答案の採点をしていたのを見てなかったとは言わせないぜ?!」
そう、あの時俺は採点をして遅くなった。
体育教師のこいつにはあの時間に居残ってる理由はない。
生徒は部活やらで遅くなるが。
「あんたはこいつの言い分を聞き入れたことによってガキ共の不信感を煽ってんだよ!
…確かに蹴り飛ばす必要はなかった。
話を聞かないこいつに頭来てやっちまった。
それは認める。だから、これは受けとれ。」
校長に辞表を突き付ける。
「やったことはキッチリ片は付ける!
だが!やってもねぇことまで背負うほど人は良くないんでね!
嫌がってるガキを押さえ込んでたのはこいつだ!
オヤジが国会議員か何だか知らねぇが、何でもかんでも揉み消せると思うなよ!?」
校長は既に青ざめている。
こいつの話に信憑性がなかったのは明白だ。
こうなったら道連れにしてやる。
「…こいつは放っておいたらまたやるぜ?
ガキ共も聞いてるこの状況で白を切れると思うな!」
ヤツははっとドアに振り向く。
…今まで気がついてなかったとは、とんだ馬鹿だな。
「俺は自主的に辞めるが、こいつはクビにすんのが筋ってもんだろ!?あ"あ"?!」
バンッと机を叩く。
…同時に控えめにドアが開く。
『…馬鹿息子が迷惑を掛けてすまない。』
…深く頭を垂れ、俺に謝る国会議員がいた。
━━こうして俺は再就職先も見つける余裕もなく、学校を後にした。
勿論、あの馬鹿は辞めさせられた。
「…やべぇ、これからどうすっかな。」
何処までも続く青い空を眺めながら煙草をつけた……。
………まさか俺がまた、教師をやるだなんて思いもせずに。
太朗ちゃん、カッコ良くないすか?
こんな潔い熱い教師はどこ探してもいないんじゃないでしょうか。
本当の意味で生徒思いの教師だとおもっております、はい。