帰宅
「また明日」「バイバイ」
いつもの帰り道。そんなやりとりをして別れたのに、“彼”には明日はなかった。
その日、“彼”は行方不明になった。
家に帰ったのかすら足取りが掴めず、母親は“彼”の帰宅を待ち続けている。
二十年経った今でも。
「家を売りに出して、あの子を待つのをやめようと思うの」
と、“彼”の母親がポツリと言ったらしい。
そんな話が私の耳にも入るようになってきた
それからである
“彼”をみるようになったのは。
“彼”はあの時のまま、私の前に現れた
バイバイ。と手を振ったあの時と同じく
故郷を離れ、大学に進学し、新聞記者になるなんて当時は思ってもいなかった。
そして私は今、“彼”の母親にインタビューをしている
うしろに
“彼”の
視線を
感じながら
「貴女が、息子に最後に会ったんだったわよね」
優しそうに、それでいて悲しそうに笑うお母さん
私はあの時、最後に挨拶しただけだと言うのに
「なんで最後に見たのに息子の行き先を知らないの?」
「あの子をどこに隠したの!」
と、責められた記憶がある
「あの時は、本当に…ごめんなさいね…」
「いえ。きっと誰だってそうしたはずですよ」
そうしてまた当時の思い出話からあの時へと話を続けた
私たちの思い出の“彼”がテープレコーダーへと録音されていく
「当時、私たちは帰り道にこの家の裏にあるお稲荷さんに毎日『明日いいことがありますように。』とお参りするのが日課でした。
あの日、“彼”はいつもと違うお願いをしたんです。」
ーーーーかみさま。お母さんが怒って僕を叩くので家に帰りたくないから、僕の代わりになってください。
「って」
母親は、驚いた顔をしていた。
「でも、別に神様が代わりになって彼になったわけでもなかったんだと思います。だって、いつもの彼と同じだったんです。」
ただ、帽子を被ってなかったくらいで。
お参りの時にどこかに行ったのかな。程度に思ってた。
逆光で顔がうまく見えなかった。けど、声も仕草も“彼”のはずだった。
「そして、“彼”…慎悟くんは行方不明になった。
だから、私、神様が代わりになって慎悟くんを連れてっちゃったんだと思ったんです。
あの時、バイバイ。って言ったのは多分神様なんじゃないか。って。」
母親は、ただずっと私の話を聞いていた。
恐ろしいほどに汗をかいて。
「でも、違うんですよね?
慎悟くん、帰って、帰りが遅かったからお母さんに叩かれちゃって…そのまま棚に頭を打って…」
「やめて!」
「お母さんが家を売る。って話が私のところに届いてからずうっと慎悟くん、私のところに来るんです。
あの日、慎悟くんに何があったかも…」
「そして、あの裏の稲荷のところに慎悟くんを埋めたのも」
「…今日はご無理を言ってすみませんでした。
また、どこかで会えたらいいですね。
住所がわかったら、記事をお送りします。
さようなら」
私も、帰ろう。
「慎悟くん。一緒に帰って、いい?」
お稲荷さんにお願いして。
ーーーー次のニュースです。
先週から新聞記者のーーーーさんが行方不明となり、
警察はーーさんがインタビューした女性から話を聞こうとしたところ
女性の家からーーさんのものと思われるレコーダーが発見されました。
また、レコーダーの内容から女性が女性の息子を殺害したのではないかと思われる供述もあり、
警察がレコーダーの内容にあった場所を捜索したところ、行方不明のーーーーさんと、20年前に行方不明になった女性の息子の遺体が発見されました。
ーーさんは死後1ヶ月が経過、女性の息子ーー慎吾さんは白骨化していました。
警察は殺人容疑で女性から話を聞いていますが、女性は支離滅裂なことばかりを繰り返しているそうです。




